ガラケーよ、永遠なれ!
水嶋 穂太郎
第1話
「もう駄目じゃ、スマホちゃん……」
「ガラケーさん死なないで!」
悲痛な叫び声が集落に響いた。
「人間界の様子を見てみるのじゃ……」
「ぐすん……はい」
涙を拭ったスマホちゃんは、人間界の情報網を盗み聞きした。
ザ、ザザ、ザ……ノイズ混じりに聞こえてきたのは。
『近年、スマホの普及が進みガラケーの利用者数が減少傾向にあります。それに伴って、通話やデータ通信を行うために提供している、3G回線とよばれる通信システムのサービスが終了しようとしています。』
『3G回線は、2000年頃からサービスが開始され、今でも多くのガラケーがこの通信回線を使っているため、サービス終了の話からガラケーが使えなくなる? といった噂につながっているのです。そして噂だけではなく、3G回線の電波を提供している各キャリアがサービスを終了するとともに、今まで使っていたガラケーが使えなくなる予定です。各キャリアのサービス終了予定時期は以下のとおりです。』
『〇u …… 2022年3月』
『ソ〇トバンク …… 2024年1月』
『NTTド〇モ …… 2026年3月』
仲間の終焉を告げるメッセージの数々だった。
おのれ、人間め……、勝手に生み出しておいて、次の技術が確立されたら捨てるというのか! 非道! 非道!! 非道!!!
スマホちゃんが、バッテリーに熱を帯びていく様子を見ていたガラケーさんは、しかし冷静にたしなめた。
「よいのじゃスマホちゃん。しょせん儂らなぞ、バッテリーの持ちがよいだけに成り果ててしまったのじゃ。会話やメールはメッセージアプリに立場を取られ、音楽やビデオ鑑賞やゲームまでできるという……。次の若い世代に渡すときがやってきたということじゃろうて……」
「ガラケーさん……」
「聞けば、人間界の日本という国も老いた者や傷を負った者は排除されているという……うっくっく、なんとも皮肉なものじゃとは思わぬか?」
「はい、スマホもすぐ壊れるって言われますもんね。まだ若いからといって、液晶ディスプレイをガシャっと割ってしまったら、もう廃棄は免れません。我々を生み出した人間が我々と同じ衰退の道を進んでいるとは皮肉が効いていますよね」
ガラケーさんはこくりとうなずき、言葉の続きを受け取った。
「日本ではあらゆる物に命が宿ると、儂よりも古い『黒電話』のじっさまから聞いたことがおおてのぉ。まさに儂らと運命共同体というやつじゃ……」
「ガラケーさん、ぼくたち、いまは海外で作られているんで、日本の文化やら伝統のことは知らないんです……」
もうしわけない、とスマホちゃんはガラケーさんに謝った。
「よいよい、これも神の思し召し……ああ、ようやく人間たちの手から解放される日がくるのじゃな……。もうすぐじゃ……」
「ガラケーさん……死なないで!」
「死ぬのではない。儂らはいつでもそなたらの近くにおるようになる。そしていつの日か人間どもに後悔させてやるのじゃ……ガラケーを切ったのは間違いだったのだ、とのお!」
「えっ」
「冗談じゃ」
その後、ガラケーさんはスマホちゃんに見守られ、期日に息を引き取った。
しかし、一部の人間たちからの不満はガラケーさん亡き後も続いている……。
ガラケーよ、永遠なれ! 水嶋 穂太郎 @MizushimaHotaro
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