王女様は抜け出したい
葉山さん
第1話
「はぁあああああああ」
大きく長いため息が室内を満たした。
小さなランプの光が、金髪長髪の少女の横顔を照らし出す。
時間帯はもう夜中。この国の王女様は広い自室の机に突っ伏していた。
昼間の講義や稽古、積み重なる貴族や隣国の皇族との面会。
別にやりたくないことを延々と嫌々やっていると、極度の無力感に襲われてしまう。
なぜこんな仕事をやらないといけないのか。
私はため息を吐きながら、答えの出ない事を考えづづける。
「はぁ……どこか遠くに逃げ出してぱぁっと騒ぎたい」
王族である限りそんなことは出来ないと分かってはいるけど、考えずにはいられない。
ふと、私は顔を上げた。
遠くの方、階下から声が聞こえてきたような気がしたからだ。
静かな部屋の中、私は耳を澄ませる。
やはり、部屋の奥、闇の中からかすかに聞こえてくる。
何を騒いでいるのだろうか。もう、みんなは寝ている時間帯のはずなのに。
私は椅子から立ち上がり、部屋の中央へと向かう。
すると、大扉が勢いよく開いた。
外から息を切らした人影が私の部屋に侵入してきた。
ランプの明かりをもとに私はその人物を凝視する。
黒髪に黒い衣装といった全身黒ずくめの姿。鈍く輝く紫紺の剣に特徴的な仮面。
私はこの人物を知っている。いや、この国の住人も知っているだろう。
この人は、指名手配されている盗賊なのだから。
確か、評判の悪い貴族の家にしか盗みを働かないと聞いていたけど、ついにお父様が何かやらかしたのだろうか。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。
義賊と視線が合うが、廊下から声が聞こえてくると、再び足を動かした。
「ちょっと待って‼」
私は義賊の腕を掴んで、呼び止めた。
「放してくれ!今忙しいんだ!」
「男の人……。いえ、あなたにお願いがあります。――私も連れて行ってください!」
「はぁ!?」
彼が頓狂な声を上げるが、私は本気なのだ。
「もう今の生活に飽き飽きしてるんです。お願いです。私も連れて行ってください!」
「何を馬鹿な事言ってるんだ。王女様は窓際でおとなしく紅茶でも啜ってろ。俺は忙しいんだ。このままじゃ捕まるってっ!」
階下から聞こえてくる声がどんどん大きくなってきている。
だけど、私も諦めきれない。
彼を逃がすまいと抱き着く。
「嫌です!連れて行ってください!」
「ちょ!抱き着かないで……!」
彼がなぜか大きく身じろぎをする。
「いいのですか?このままでは、衛兵に捕まってしまいますよ?」
「と、とんでもない王女だな。そんなに連れ出してほしいのか」
「はい!」
「そんなキラキラした目で言われてもな……俺が連れ出すと思うか!」
義賊が逃げ出そうとするが、私はしっかりホールドする。
「ぐぬぬぬぬ…なんでダメなんですか!」
「当たり前だろ!王城に侵入しただけでも大罪なのに、王女まで誘拐したとなったら、今よりも追いかけまわされるんだぞ!てか、力つよ!」
さらっと失礼なことを言われたような気がしたけど、私は諦めず捕まえ続ける。
「おい!王女様の部屋の扉が開いてるぞ!急げ!」
廊下の奥から怒号と多数の足音が聞こえてくる。
それに気づいた彼は、部屋の大扉と私を交互に見渡し、大きなため息を吐いた。
「まったく、仕方ない……」
「ひゃ!?」
私を抱きかかえた義賊は、魔法の詠唱を始めた。
そして、バルコニーに駆け寄ると、そのまま何メートルもある高さから飛び降りるのだった。
義賊視点です。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219195020945
王女様は抜け出したい 葉山さん @anukor
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