【百合】編入生が忘れられない初恋の先輩だった ~愛が重いクールな後輩×お人好しな先輩~

昨日のメロン(きのメロ)

編入生は、初恋の先輩

「初めまして、桜野あたえです!」


ぺこりとお辞儀をした彼女を見て、私は目を疑った。


なぜなら彼女が、中学の時の初恋の先輩だったからだ。


■■■



私_望岡ユキには、忘れられない人がいる。

その人は中学の吹奏楽部の先輩で、初恋の人だった。



くしゃっとした笑顔が可愛い、まるで陽だまりのような人。

表情が動かなくて怖いと言われる私には、彼女はとてもキラキラしていて眩しかった。


人付き合いが面倒で周りと距離を取っていた私に、唯一手を差し伸べてくれた人。

明るくて優しい彼女は、部活で浮いていた私にいつも話しかけてくれた。


最初は何故自分に構うのか理解できなかった。彼女に何の利益があるのかわからなかった。


彼女と同じ時間を過ごす内に知った。彼女は、損得勘定で行動しない人だった。そもそも、「先輩に何の利益があるんだろう」と考えること自体が的外れだったのだ。


お人好しで、常に笑顔で、辛いことがあってもそれを顔に出さない人だった。一緒にいるだけで、心が暖かくなるような人だった。


大好きだった。

本当に、心の底から。


だからこそ、あの時は気持ちを伝えられなかった。


先輩の卒業式。校門前で部活の後輩に囲まれて、目元に涙を浮かべながら笑う彼女を、私は少し離れたところから見ていた。


一人立ち尽くしていた私に気づいた彼女が、後輩に囲まれたまま私に大きく手を振った。沢山の人に愛される彼女が、自分のためだけに手を振ってくれたことが堪らなく嬉しかった。


でも、告白したって振られるだけだ。それはわかっていた。玉砕して苦い思い出にする位なら、この想いは胸に秘めておくことに決めていた。


彼女が卒業してから、私は頭から寂しさを振り払うように勉強に打ち込んだ。


部活は辞めた。彼女だけが部活に行く理由だった。元々部活動が強制だったから入っただけで、別に熱意は無かった。


勉強に力を入れたおかげで、元々並みだった成績が、進学校を選べるようにまで上がった。


努力するものに勉強を選んだのにも理由がある。彼女は秀才だった。そこそこ忙しい部活だったのにも関わらず、常に学年トップだった。


彼女と同じ世界を見てみたくなったのだ。彼女がどのようなものに触れて、どのように努力していたのかを自分の手で知りたかった。


解けない問題に出会う度に、彼女もこれに似たものを解いたのかと想いを馳せた。まぁ、成績は彼女のレベルまでは伸びなかったけど。




_時は経ち、私は高校生になった。


結局、私立の女子高に進学した。中学のメンバーとはそこまで仲が良くなかったから、家から電車で一時間くらいかかるところにした。下手に知り合いが多い学校で始める新生活は面倒が多そうだと思ったのだ。


一年生は無難に終えた。特に誰かと親交を深めることも、何かに打ち込むこともなく、淡々と日々を過ごした。


そして、二年生になった。

進級して数日経ち、退屈な日々にも慣れ始めた頃、編入生がきた。


その編入生が_


_彼女だった。


「初めまして、桜野あたえです!」


ぺこりとお辞儀をした彼女を見て、私は目を疑った。これは、現実なのか?

一瞬だけ別人の可能性を考えたけれど、絶対に違う。この声は、あの笑顔は、彼女だ。


「お、望岡の隣の席が空いてるな」

「桜野、奥の空いてる席に座れ」

「はーい」


呆然としている間に、あたえ先輩が私の隣へとやってくる。

一歩一歩、彼女が私の近くへと歩いてくる。


ドクンドクンと、心臓が煩い。脳が状況を理解してない。

あたえ先輩が、私の目の前でピタリと足を止めた。


「あれ!?もっちーじゃん!」


目を真ん丸にして、あたえ先輩が叫んだ。

少し高い、明るい声。記憶と何も変わらない。


「お?知り合いなのか?」

「はい!」

「なら丁度いい。望岡、桜野を頼んだぞ」


担任がうんうんと頷いて、勝手に話を進めていく。

先輩が私の隣の席にストンと座って、こっちを見てニコッと笑った。


「よろしくね、もっちー!」


満面の笑顔に、私は固まることしかできないのであった_

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