乙女の人たちの日常 ①
課金なのです!
課金するしかねえ!
最近の美心はとても忙しく、親友の
詩とエーヴァが衣装の裏に武器を隠したりするので、一般的な服とは違う知識が要求される。武器を収納する最適な位置、周囲の裁縫のやり方を知るべく、ミリタリー物のユニホームや、アニメや、漫画、ゲームの衣装なんかも参考にした。
この新たな世界を広げる感覚がたまらない美心の日常は充実していた。
いたと言うと語弊があるが、先に詩とエーヴァ、2人の衣装を作った後、燃え尽き症候群に陥り目的を見失いそうになっていた。だが、思月の登場により新たな衣装製作に加え、何より美心の心を踊らせたのはウサギのぬいぐるみ
自分の作業台に座る美心は、チラッと後ろを振り返る。
身長150センチもない、長く綺麗な黒髪を後ろで束ねた少女は、横座りをし、琥珀の瞳を輝かせながらメロンパンを頬張っている。
小動物みたいな愛らしさを周囲に振りまく彼女は、思月。一人称が、スーであることもあり、スーと呼ばれる。
そしてその横で胡座で漫画を読む、スーと同じ大きさのウサギのぬいぐるみこそ、美心の心を踊らせる存在、白雪。
ぬいぐるみが動いて、一緒に遊んだり、話したりできる。そんな美心の幼い頃の夢を叶えてくれる存在、白雪。
若干動きがウザイことを除けば、夢のようである。
そして何より、他のぬいぐるみへ一時的に乗移り動くことが出来るのだ!
美心の持っている犬のぬいぐるみへ乗移って、部屋を走り回り始めたときに、興奮で鼻血が出そうになるのを必死で押さえていた。
その感覚を思い出し、美心は熱くなった鼻を押さえる。
白雪は黒いボタンの目で漫画を読みながら、時々スーの肩を叩いて何か言って笑ってるのか、肩を震わせたり、足をペシペシ叩いている。
白雪は喋っているらしいが、転生組の4人しか声を聞くことが出来ない。美心とは白雪の持っているホワイトボードを使用して会話をする。
声を聞いてみたいが、詩曰く「うるさいよ」とのことらしい。
スーの肩をバンバン叩いて、見て! 見て! と漫画を見せる白雪に対し、興味なさそうにメロンパンをモグモグしながら、適当に相槌を打つスー。
(あの漫画、親友に彼を取られた女性が、かつての親友とその取り巻きに復讐していく話なはずだけど、そんなに笑うとこあったっけ?)
笑いのツボが違うのだろうと思いながら、視線を作業台の横に積み重ねてある、ウサギのぬいぐるみの残骸に移す。
白雪をベースに作った試作品である。
作り初めて分かったことがある。今の白雪より大きな物は、移っても動かせない。
高さ10メートルのぬいぐるみを作って、宇宙人を圧倒するなんてことが宮西、坂口コンビによって提案される。
試しに手足を長くして2メートルのぬいぐるみを製作したところ、動けなかった。
白雪曰く、長い袖の服を着させられ、自分の手の長さ分は動かせるけど、先端はダボッとしたまま上がらない感覚らしい。
逆に小さいのはある程度いけるらしいが、あんまり小さいと窮屈とのこと。
彼女の身長は150センチ、ウサギの耳を入れればもう少し高くなる。これにあったサイズで作る必要がある。
そしてもう一つ、鉄などの金属は動かせない。詩のおじいちゃんから、暗器や、右手にドリルや刀を仕込むなんてことも考案されたが、金属が入った部分は動かせなくなるのでお蔵入りとなる。
そんな経緯を経て、ウサギの残骸がここに転がっているわけである。
(手がドリルのウサギのぬいぐるみなんて、どうすればいいんだろう?)
あまり考えないようにして、美心は視線を外す。
そして今、作業台の上にあるデッサンの紙の上には、灰色の体を持つアルマジロが描かれている。
これはもちろん白雪の為のものである。このぬいぐるみを完成させる為に必要な材料をリストアップした美心は、思月たちを自分の部屋に置いて出ていくと、家に隣接する母の作業場へと向かう。
美心の母は、個人事業主としてハンドメイドの店を開業しており、家の中には材料と道具で溢れている。
いつもの様に材料を見繕いながら、アルマジロの構想を考える。
リストアップした中から灰色の布地、フェルト生地をなどを選び手に取る。
「う~ん、意外と単色な生地ってないんだよねえ。全長150センチと考えるとかなりの量が必要だしなあ」
ぶつぶつと独り言を呟きながら材料の入った棚を眺めながら移動していく。
「うわっ!?」
突如ムニュとした感触に思わず声を上げる。
「おぉ、お母さん!? 帰ってたの? ってどうしたの無言で……あれ? 怒ってらっしゃる?」
美心の正面で腕を組んで立つ女性は、鋭い目付きで美心を見下ろす。
この女性こそ、この作業場の主、美心の母
「美心、あんた材料どれだけとっていくわけ?」
「え、あぁ、沢山かなぁ~って……あ、ある程度は好きにしていいって……」
「ある程度はね! あんたの最近の取りよう半端ないのよ! 白と赤の生地を沢山取ったかと思えば、黒いレースの生地を大量に持ってくし!
それに厚手の生地から糸やらボタンやらも、いーぱい取って! いい? 材料はタダではないの。
お母さんが発注して、仕事に使ってるの、分かる?」
母の勢いにたじたじの美心は、必死に頷いて分かっていると肯定する。
「美心、あんたに才能があるのは認めるわ。だからこそ、材料をある程度自由に使っていいって言ったの。
でもね、ある程度よ! 今のあんたは使いすぎなのよ!」
「で、でもどうしても作りたいものが今あって、それまで、それまでは作らせて! お願いっ!!」
必死に懇願する娘をジッと見ると、大きなため息をつく。
「あんたはもう少し将来のことを考えて、お金の大切さを学ぶべきね。生地はお母さんが発注して、安く探して上げるから、美心、あんたはお金を稼いできなさい!」
母の言葉を受け材料を没収される美心。だが、こんなことでへこたれる彼女ではない。美心は作ると言ったら作るのだ!
作業場を出てすぐにスマホを見て、ネットのフリマサイト、オークションを見て『ドリルウサギ』を検索にかけるもヒットなし。
取り敢えずドリルウサギの写真をオークションにかけておく。
美心は考える、しら子の新たな体を作り出すのは魅力的で、絶対に成し得たいことである。
だが学校に行って、アルバイトして、ぬいぐるみを作る。
中々ハードな生活だ。ぬいぐるみは作りたいけど、バイトはしたくない。
ふとアイコンの一覧の中にあるソーシャルゲームのアイコンが目に入る。
ちょっと前にやっていた、可愛いぬいぐるみを指で弾いて敵を倒す、ピンボールみたいなゲームだ。
ぬいぐるみを集めて、合成するか、無料の毛糸玉と呼ばれるものを一定数集めて使用し、ガチャと呼ばれるシステムを用いて低確率で出現する強い個体、いわゆるレア度の高いキャラを引き当てる。
ぬいぐるみ繋がりということもあって、このゲームとスーたちの状況を重ねてしまう。
お金を稼ぎ、材料を集めて強い個体を作る。今回はアルマジロだが、弱かった場合は新たな個体を考える必要がある。
なんとなくゲームと似ていないだろうか? そう思った美心は閃く。
美心は自分の部屋のドアを勢いよく開ける。その勢いに思月と白雪が注目する中、美心は宣言する。
「スー! 白雪改め、しら子! 働くのよ!」
「美心、どうしたのです?」
【なんで、しら子?】
突然の発言に驚く2人をよそに美心は続ける。
「いい? 私は学びました! 材料はタダではないの! スーの衣装までは無料で出来たけど、ここからはお金が必要なの。
そう! しら子の体作りは半端なくお金がかかるの! だからお金を稼いで、しら子をパワーアップさせるのよ! そう言わばこれは課金よ!!」
「課金?」
【課金とな?】
「新たな力を手にする為に素材を集めて、合成して、新たなしら子を作る。それを幾度となく続けて、強いしら子を生み出す!
激レアしら子を見つける無限の旅、それは果てなく限りのないもの。
自己満足かもしれない!! でも言い換えれば、それは自分自身との戦いであると言っても過言ではないのよ!!
スー! しら子!! 己を強くするにはお金が必要なの! お金でぐるぐる回すの! ガチャをブン回すの!!
材料は見繕って金額は提示するから、お金を持ってくるのよ!」
拳を掲げ熱く語る美心に、メロンパンを咥えた思月と、漫画を両耳の間に挟んだ白雪の2人は「お~」【お~☆】と拳を上げる。
こうして美心の勢いに圧され、課金がなんなのかよく分からないまま、思月と白雪はアルバイトへ行くことになるのである。
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『転生の女神シルマの補足コーナーっす』
みんなの女神こと、シルマさんが細かい設定を補足するコーナーっす。今回で5回目っすね!
※文章が読みづらくなるので「~っす」は省いています。必要な方は脳内補完をお願いします。
本編ではあまり容姿の語られることのない美心。身長約162センチ、その他はプライバシーの為、秘密です。
実は約160センチの詩よりちょっぴり身長が高い美心は、黒髪の茶色の瞳を持つ一般的な女の子です。
勉強、運動は、あまり得意ではありませんが、手先が器用で、絵も上手です。
創作意欲が頂点に達したときおかしくなりますが、普段はとても優しくて、他人を思いやれる子です。
芯が強く、気も強いところがあるのは、母親の米口
父親は米口
次回
『スーとしら子のアルバイトで流す汗は、課金の為! ~前編なのです~』
生活する為、武器を作るためにお金がかかるもの。それはどの世界でも共通。
アルバイトを探すスーとしら子。2人の容姿を警戒されつつもこなしていく、彼女たちが流す汗は課金の為!
やがて行き着くバイト先で彼女たちは伝説を残すことになるのかもしれない。
課金のために全力でアルバイトをこなす2人のお話っす!
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