魔力過多と道具屋番外編集

梅谷理花

番外編集

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内職の一日〜アレンSide〜(本編第11話後)

ウォーレン歴8年 緑風の月28日 日中




 エスターが薬草商クラウドの護衛の依頼に行ったあと、アレンは自室で定期的にギルドに納品している魔術道具の製作に取りかかった。


「作り慣れたお品ではありますがァ……」


 いつも背負っていた木箱の小さな引き出しから次々と材料を取り出しながら、アレンは呟く。


 定期的に納品している品物には消耗品もあるが、消耗品というほどではないものの比較的早く使い物にならなくなるものも含んでいる。


 そういうものはなるべく長持ちしたほうが使用者のためだ。長持ちするとわかれば差別化も図れるし、改良に限界はない。


「時間の許す限り、改良してみましょうかネェ?」


 まずは「複製ペン」からにしよう。アレンはそう決めて回路を組むためのメモ用紙を取り出した。


 複製ペンは、紙を重ねて魔力を込めて書くことで一気に同じものが書けるペンだ。これはどうにもペン先が磨り減るのが普通のペンより早く、そこを改良できればよいのだが。


「うーむゥ……そもそもどうしてペン先が早く減るのか、からですネェ……」


 ぶつぶつと呟きながら、アレンは前回納品した「複製ペン」の回路図と資料を見比べる。


 この図形は複製の機能を発動させるため、この線は重なった紙の認識をするため、この線は……。


「あッ」


 アレンはぱん、と手を叩いた。必要な線と線が交わってできた偶然の図形、この図形があると、おそらくペン先とインクが魔力の影響で混ざってしまうのだ。


 インクと共に少しずつペン先が流れ出て、だから磨り減るのが早いに違いない。


「ということはァ、この図形を回避すればいいわけですかァ」


 ほっほゥ、とアレンは呟く。回路を組むのが魔術道具職人の仕事をしていて一番面白いところだ。楽しくなってきた。


 そこからは試行錯誤の時間になった。効果を損なわないよう、そして、さらに良いものになるように、回路を組み替えていく。


「なかなか手強い相手ですゥ……」


 などと独り言を言いながら紙に向かうことしばらく。完璧ではないが、前よりはマシになった回路が描き上がった。


 アレンは窓の外を振り返る。そろそろエスターが帰ってくる頃だろうか。


「今回はここまで、ですかネェ。さっさと仕込んでしまいまショウ」


 アレンは今回納品する用に仕入れておいたペンを、木箱から取り出した材料の中から拾い上げる。


 そして、木箱の引き出しから細い金属製の杖を取り出した。ペンと一緒に持って、また作業スペースに戻る。


 まず、床に置いた回路図を、魔力を込めた杖の先でなぞる。なぞったところから回路図がうっすらと光り始め、最後には全体的に少し眩しいくらいになった。


 その上にそっとペンを一本置き、杖の先でペンをとん、と叩くと、回路図の光がペンの中へ吸い込まれていく。これで完成だ。


 同じ要領で十数本の「複製ペン」を作り、ふう、と息をついたところで、部屋の戸がコンコン、と叩かれた。


「アレンさーん? 帰ってきましたー」


「おかえりなさいィー」


 アレンはエスターの声に応じてよっこいせ、と立ち上がった。残りの商品は夕飯の後に作ろう。


 魔術道具を作るのも楽しいが、仲の良い人と一緒に食事を摂るというのも意外に楽しいものだというのを、アレンは最近思い出したのだ。

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