プロローグ 僕と少女

0-✾ 謡われ続ける物語 


亜人類

別名……境人マージナルヒューマン


彼らは昔、亜人の王と人類の勇者との

許されざる関係によって生まれた存在である。




僕らの生きている、さらに大昔。

この大陸には、亜人 と 人類 が暮らしていた。


2つの種にはお互い、上に立つ者がいた。

亜人の長は、魔王と呼ばれた。

人類の長は、勇者と呼ばれた。


同じ地上に生きる者同士、お互い理解し合っている 

……つもりだった。

亜人には似つかない、か弱い姿の人類が

人類には似つかない、異様な姿の亜人が

やはり理解できなかった。


けれど同じ地上に生きる者 

理解しようと努力した。



ある日、亜人の王は、人類の勇者に恋をした。

そしてまた、人類の勇者も、亜人の王に心惹かれていった。


そんな2人を見ていた亜人たちと人類たちも

お互い惹かれ合っていった。


亜人の王は、不思議な、不思議な力を持っていた。

亜人の王はその力のすべてを、皆のために使った。

きっと皆、喜ぶだろう。

姿形、文化、すべてが違う亜人と人類、きっと皆、喜ぶだろう。

きっと人類の勇者も、喜ぶだろう。


けれど、人類の勇者は否定した。

けれど、亜人の王を、とても愛していた。



既に起きてしまったこと。



亜人の王の不思議な力は

新たな種を生み出した。


人類の姿をしていて

でも亜人の姿もしている

中途半端な、境目の種。


人類でもない

亜人でもない

何もかも、ごちゃまぜな種を

皆が、怖がった。


どちらにもなれない存在たちを

皆が戸惑い、哀れみ、悲しんだ。



すべての目が

亜人の王に向けられた。

けれど人類の勇者は

亜人の王を愛していた。



2人は逃げ出した。

ツバメのように

遠くへ、遠くへ。



けれど、長い争いの末、2人が消えた。


残された亜人たちと人類たち

そして中途半端な種たち。


魔王と勇者は、もういない。


同じ地上に生きる者

皆が、少しずつ理解しようと歩み出す。


そして亜人と人類は

中途半端な種たちを

親しみを込めて

亜人類 と、呼ぶことにした。


どちらにもなれる

素晴らしい種として。



これが、今を生きる皆に伝わる

古い古いお話。

謡われ続ける、魔王と勇者の物語。



そして

僕ら、亜人類たちのはじまり。






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