使い方

徳野壮一

第1話

「見つけた!」

 枝や草をかき分け深い山林の中を歩いていると、私達の探し人である倉本智君が今にも太い木の枝に括り付けたロープで首を吊ろうとしていた。

「行け、稲海」

 隣で足を木の根にとられ転んでもたついている総一郎の指示に従い、私は駆け出した。

 時刻は夕方。かろうじて太陽はまだ沈んでいないが、生い茂る樹々の葉が光を遮り薄暗い。足が挫けそうになるのを、重心を移動させる事で何度も凌ぎながら、走る。

 草葉が擦れる音に気付きいた智君は、近づく私と目があった。

 智君は輪っかにしたロープを慌てて自分の首にかけ、乗っていた倒れていた木から降りた。足場を無くし、首に掛かるロープによって全体重が支えられ、だんだんと顔が赤く、苦しそうになっていく。

 やばい。

 少しでも首への負担を無くさないと!

 智君の元までたどり着いた私は、彼の腰にしがみ付き、持ち上げた。

「ナイスだ!」

 持ち上げる事によって撓んだロープを、後ろから追いついた総一郎が、手にしたアーミーナイフで切り裂いた。

 私は持ち上げていた智君を地面に降ろした。

 窒息しそうになっていた智君は、咳き込んでいた。

 よかった。意識はあるし、大丈夫そうだ。

「どうして死なせてくれなかったんだ!」

「そりゃあ、LIMEで自分だけ入れてもらえてないグループがあるから死ぬなんて馬鹿げてるからだ」

 叫ぶ智君に総一郎がそう言った。

 そう、私達は智君の母親に依頼され、最近様子がおかしい彼の様子を探っていた。その時に彼が、LIMEのあるグループでイジられてる——現実では遠目で笑われるくらいだが——事をつきとめたのだ。

「あんたみたいなオッサンには分かんないよ!」

「オ、オッサン!?」

 総一郎はまだ28歳なんだけど、中学生からしたらおっさんかな。

「一回でも仲間外れにされたら、いつイジメられるかわからないんだ!特に同じクラスのKはやばい奴だから、何をされるか……。スマホは僕たちが平穏無事に生きる為の道具なんだ!」

 智君は両手でギュッとスマホを握っていた。

「……あれは藁人形だよな?」

 智君が自殺をしようとした木の根本を、総一郎が指差した。

「ああ、そうだよ。自分が死ぬ前にKを呪いたかったんだ……。釘は持ってきたんだけど、金槌を忘れちゃったんだ」

 智君の言う通り、木の根本には藁人形と釘が落ちていた。

「……自殺は止められるし、呪う事も出来なかった。結局、僕は中途半端だな……あ、ちょっと!」

 総一郎は突然、智君のスマホを奪いとった。そして藁人形と釘を拾うと、藁人形を木の幹に打ちつはじめた。釘を智君のスマホを使って。

「ちょっと!なにやってるんですか!?」

「いいか智少年。スマホだってただの道具だ。食材を切る包丁で人を殺したり、それこそ君みたいに物を縛るロープで自殺しようとしたり、結局道具は使う人によるんだ」

 総一郎はスマホにヒビが入るが、気にせず釘を打っている。

「お前の心を殺そうとしたこのスマホだって、釘を打つ事に使える。どうせなら自分を含めた人間を幸せにするような使い方をしてやれよ。それが道具を作った人の願いだろ。何かを殺すためじゃなくて、心を豊かになるような事をさ」

 全力で打ち込んでいた釘が、耐えられなくなったスマホを貫通した。

「それでも仲間外れにされる事が怖いよ」

「大丈夫だ。お前よりそいつらの方がビビってんだよ」

「どう言う事?」

「人と繋がろうとするのは、1人が怖いからだ。誰かを虐げようとするのは、そいつを恐れているからだ。人を虐めるような奴らは、いくら怖い見た目をしていても、自分の世界を壊されたくない唯のチキンヤローだ。だからさ、そんな奴に負けるな!


 

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