第152話 チャンスか? 罠か?
「待て! この喧嘩、俺達の負けだ。これ以上恥の上塗りさせるな」
集団戦の喧騒の中、ようやく目を覚ました梅田は、敗色濃厚の仲間達に対し、そう訴えかけた。
「何言ってるんだ梅田! 特攻隊長のテメーがだらしねぇからこんな事になったんだろうが!」
そんな中でリーダーと特攻隊長の梅田の間で揉め事が起きていた。
「うるせぇ! 俺は噂の
やっぱり、梅田が喧嘩に向いてないと感じたのは正しかったのか?
本来暴走族とは関係のない奴だったのかも知れない。
「テメェ! 梅田あっ!」
あろうことか、この情勢でリーダーが梅田に殴り掛かった。
梅田は躱しもせず、大振りのパンチで殴られたが、スリッピング・アウェーでダメージを殺しており、間髪入れず左フックを放つと、一撃でリーダーは地面にひっくり返り、ピクリとも動けなくなった。
その様子を見て、
「
流石に梅田はこれ以上喧嘩を続けたところで格好悪いと思っていた様だ。
大抵の場合、タイマンで収まらず、集団戦で完全に白黒つけるまで喧嘩になるか、警察に通報されて途中で有耶無耶となるか、どちらかだが、率直に負けを認められたのは天網との喧嘩以来かも知れない。
「どうしようか麗衣?」
解散するつもりだったとはいえ、麗のリーダーである麗衣に訊ねた。
「これで二度と関わらねぇなら構わねぇよ。どーせコイツ等はタケルとは関係ねーみたいだしな」
降伏しない場合は澪達の悪名高いヤキが待っていただろうが、降伏した相手にそこまでヤル気は無い様だ。
こうして、
◇
「麗衣! 如何して、ここに来たんだよ? 大体、麗解散したんじゃないのか?」
助かったのは事実だが、入院しているのにまた病院を抜け出した麗衣を責める様に言うと、麗衣は苦虫を潰したような表情を浮かべた。
「るっ……るせーな。恵からお前が一人で喧嘩に行ったらしいって聞いて、慌てて環達に助っ人を頼んで来たんだよ」
「でも、麗解散したら関係無いだろ?」
そもそも、今回の喧嘩は本気で俺一人で片付けるつもりだった。
実際はそこまで甘くなかったし、自分一人では確実にやられていただろうが、流石に入院している麗衣にまで来て欲しくなかったので、少しも嬉しくないし、助けて貰った事よりも怒りの感情の方が強い。
「ああ、解散の話なら白紙だ」
あっさりと解散を撤回したので、俺は二の句をつげなかった。
「不満か?」
「いっ……いや、でも何で?」
「こっちが解散したって言っても納得しないバカどもがどーせ喧嘩売って来るだろ? それに今回のお前みたいに単独で暴走する奴がいるぐらいなら、あたしがしっかりと手綱を握っておいた方が良いだろ?」
「いやいや、病院を二回も抜け出しているお前に言われたくないと思うぞ……イテっ!」
我ながら一言多い俺の頭を麗衣は強く叩いた。
「それによぉ、タケルの仇を知っているか、あるいは仇自身っぽい奴の情報を見つけたんだ」
「それって如何いう事だ?」
警察ですら犯人が分からなかったと言うタケル君を引いた犯人の情報が今になって手に入ったという事なのか?
「ああ。この掲示板を見てくれ」
スマホの画面でみせられたのは、人探し用に使われている匿名の掲示板で、人探しと言っても「八皇子市在住の××のガラを捕まえた人には10万払いますんで連絡ください。コイツには仲間が三人も刺されて居るんで」と言った内容で分る様に、犯罪に利用されている様な掲示板なのだが、勝手に麗を語ったHNで以下の内容のコメントが投稿されていた。
‐20XX年 5月X日 麗
私達「麗」が暴走族狩りをおこなう理由は、リーダーの美夜受麗衣の双子の弟、
防犯カメラの映像から、犯人は暴走族である可能性が高いと警察から聞かされたものの、結局犯人の特定はおろか、暴走族の特定もならず、今に至る。
私達はこの卑怯で卑劣な犯人と暴走族を逃がしはしない。
相応の報いを与えるまで、私達の狩りは終わらない。
このコメントと共に、どうやって手に入れたのか?
タケル君らしき人物がバイクに引かれているシーンと思しき画像がアップロードされていた。
「麗衣、まさか君が書きこんだのか?」
「んな訳ねーだろ? でも、気持ちワリィぐらいこっちの事を把握してやがるな」
だとすれば、麗のメンバーの誰かの仕業と言う事になるが―
「断っておくけど、麗か、以前から事情を知っていた流麗、それにNEO麗の皆がやったとは思ってねぇよ」
「そりゃそうだよな。事情を知っていても、こんな写真まで持っている訳ないもんな」
「ああ……。あたしだってこんな写真初めて見るぐらいだ」
警察か、当時の防犯カメラの動画を観れる者でも無ければ、こんな写真は手に入らない筈だ。
コメント主はどうやってこんな写真を手に入れたのだろうか?
そして、コメントに下には「俺達がやった」と称し「かかって来いや!」と言った威勢のいい暴走族のコメントが複数スレッドを埋めていた。
「これ、俺達の事情を知った上で陥れようとしているんじゃないのか?」
つまり、釣りという奴ではないのか?
恐らく興味本位の釣りではなく、ここまで事情に詳しい部外者が存在する事が気味悪く感じた。
「ああ……そうかも知れねぇ……そうかも知れねぇけど、有難い事に犯人かも知れない連中が次々と名乗りを上げてくれているからな。コレを利用しない手はねーよな」
麗衣の瞳は暗い色を浮かべていた。
利用するにはあまりにも危険過ぎる。
だが、勝子ならこんな時如何するだろうか?
いや、我ながら愚問だな。
勝子も俺と同じ想いに違いない。
「流麗。さっきも言ったけれど、俺、麗に戻らせて貰うよ」
つまり、NEO麗と袂を分かち、再び麗衣の側で戦う決意を伝えた。
「……そんな権限、武っチには無い、って言いたいけれど、力づくで従わせようにもNEO麗で武っチに勝てるようなメンバー何か誰も居ないしね」
流麗は諦めた表情で言った。
「分かった。NEO麗は今日で解散するよ。だから、麗衣ちゃん、あーし達も麗に入れてくれない?」
「ああ。好きにしな」
オイオイ、話が急展開過ぎるだろ?
NEO麗解散までは考えていなかったので、正直驚いたが、麗衣の方も思いの外あっさりと受け入れた。
「流麗? メンバーの意見は聞かなくて良いのか?」
「うん。実は最近、一緒にやった方が良いと思ってたし、正直あーし達だけじゃ力不足を感じていたし、前々から武っチ以外の皆とはそういう話をしていたんだ」
果たしてこれで良かったのだろうか?
何者かの掌に踊らされている様な不吉な予感が拭えないが、どんな危険な罠が待ち構えていようが俺はアイツを守ってやるだけだ。
◇
第4章終了です。
次回、麗一年生データとファントム達のデータ投稿後、最終章投稿予定です。
今後を期待して下さる方は評価を頂けると励みになります!
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