第116話 病院
俺が立国川病院に着くと、麗衣のチームと勝子チームだった吾妻君が手術室の前の廊下で待っていた。
「武! 勝子が! ……勝子がっ!」
麗衣は病院に着いた俺の顔を見るなり、俺の胸に飛び込んで来た。
麗衣らしくない行動だが、電話で事情を聞かされていた俺は麗衣の不安も理解できる。
「落ち着け麗衣。今、勝子は如何しているんだ?」
「ああ……ワリィな……取り乱しちまって……」
麗衣は慌てて俺から離れると、現状を説明し始めた。
「勝子は今手術を受けている……太腿を撃たれたけど命には別状は無いらしい……でも……」
そこまで言い、麗衣は唇を噛み締めた。
「でも、何だって?」
「勝子は……もしかすると歩けなくなるかも知れないって……この先車椅子の生活になるかも知れないって……」
麗衣の言葉を理解するのに数十秒の時間を要した。
俺だけじゃない。
皆黙り込む中、勝子が俺に語っていた夢を思い出した。
「嘘……だろ? ……アイツは……アイツにはボクシングでオリンピックに出るって言う夢があるだろ? その夢は如何なるんだよ!」
「武君! 落ち着いて!」
今度は俺が落ち着く様に恵に促された。
「ワリィな……全部あたしのせいだ……あたし何かに着いてきちまったせいで……またアイツの夢をぶち壊しちまった!」
麗衣は病院の壁を強く叩いて嗚咽した。
「……麗衣先輩! 勝子先輩の事も心配ですけど、僕は一人でも香織ちゃんを助けに行きます!」
こめかみに絆創膏を貼った吾妻君は麗衣に言うと、麗衣は首を振った。
「駄目だ。お前まで危険な目に遭わす訳には行かねぇ……ケジメはあたしが取る!」
麗衣が涙を拭いながら毅然とした表情を浮かべた。
「でも、勝子先輩の手術の結果が分かるまで待ってはいられません! こうしている間にも香織ちゃんが危険な目に遭っているかも知れないんです!」
そう言えば、勝子のグループに居た吾妻君だけ何故無事なのだろうか?
聞くのは憚れたが、そんな空気を察したのか?
吾妻君は自分から説明を始めた。
「女子と勘違いされていた僕も
「伝言役?」
「ハイ。その伊吹って奴は武先輩に興味があるらしくて、武先輩に立国川ホテルまで来いと言ってました」
麗のリーダーである麗衣では無く何故俺が?
理解し難いが、伊吹と言う男の御指名は俺の様だ。
だが、そんな誘いに乗る気は無い。
「俺は行く気が無い」
ビビっている訳ではない。
香織には悪いが、勝子がこんな状態で放っておくわけには行かない。
だが、俺の言葉を聞いた吾妻君が目を見開いて激昂した。
「何でですか! 香織ちゃんはアンタが助けに来てくれる事を待っているんだぞ!」
普段は柔らかい物腰で、あたかも俺に好意を寄せている様な仕草を見せている吾妻君は、人が変わった様に俺の襟首を掴み、睨みつけて来た。
「止めろ! カズ!」
澪が吾妻君を羽交い絞めにして、俺と吾妻君を引き離した。
「臆病者! アンタなんか居なくても僕が香織ちゃんを助け出してやる!」
勝子が重傷を負っており、他の事に気が回らないのだが、的外れな事で俺を罵る吾妻君に対して、流石にカッとなり言い返してしまった。
「みすみす香織が攫われたのは吾妻君の実力不足も原因じゃないか?」
「何だとこの野郎!」
吾妻君は完全に男の表情に戻り、澪を押し分けてでも俺に殴り掛かろうとした。
「香月止めろ! アイツ等の言うままに武が行っちまったらアイツ等の思うツボじゃねーか!」
麗衣まで間に割って入り、俺達を引き離すと、麗衣は俺を見て頷いた。
「お前には勝子の側に居てやって欲しい。アイツにとって一番の
「……ああ。悪いがそうさせて貰うよ」
麗衣はまだ俺を睨みつけている吾妻君の方を振り返って言った。
「二手に別れよう。香月、澪、静江、恵はあたしと来い。武と流麗と火受美は勝子の為に残っていてくれ」
つまり、麗のメンバー全員が香織の救出に向かい、NEO麗のメンバーはここに残れという事だ。
だが、澪は意外な事を言い始めた。
「麗衣さん。俺達が何人行ったところで返り討ちに遭うだけですよ。考え直してくれませんか?」
◇
日本人初のラジャナムダン及びルンピニースタジアムの統一王者・吉成名高選手がムサマサで紹介されました! 吉成選手は軽い階級程選手層が厚いムエタイのミニフライ級でチャンピオンに十代でなれたので、キック経験者の私から言わせると神みたいな存在ですw元はミニフライ級なのにバンタム級まで3階級上げた試合でも楽勝という漫画みたいな選手です。そんな吉成選手が注目され始めたのは、いよいよ時代が吉成選手に追いついたという事でしょうか? ぶっちゃけ那須川選手には武尊選手よりも吉成選手とやって欲しいですね。
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