第82話 吾妻香月の過去② 復讐の誓い 

「言え! 誰が香織ちゃんにあんな事したんだ!」


 僕は背負い投げで地面に叩きつけた不良の首を絞めつけながら訊ねた。


「おっ……俺じゃねーよ!」


 不良は情けなく涙を流しながら僕に言った。


「お前等が香織ちゃんを強姦したっていう情報なら掴んでいるんだよ!」


「だから俺じゃねぇ……ダチの族がやったんだって! 俺はあわよくば女を輪姦まわす時におこぼれ預かろうとしただけだ……がっ!」


 僕が益々締め付けを強くすると、涙目の不良は白目を剥いていた。


 同じように失神した不良達が七人転がっている。


 僕と澪ちゃん、静江ちゃんは香織ちゃんをレイプした疑いがある暴走族グループの集会を襲撃し、締め上げて犯人を吐かせようとしたのだ。


「カズ! その位で止めとけ!」


 僕は本気で殺す気だったけれど、澪ちゃんが僕を後ろから羽交い絞めして止めた。


「如何して! 止めないでよ! 香織ちゃんはこんなクズのせいで死のうとまでしたんだ!」


「落ち着けよ……コイツの言う事が本当なら、香織をレイプした野郎は別に居るって事だろ?」


「そっ……そうだよカズ君。こんな人を殺して、香織ちゃんの仇を討つ前に警察にでも捕まっちゃったら本末転倒だよ」


 澪ちゃんはとにかく、普段は口数の少ない静江ちゃんまで僕を必死になって止めたので、僕は無理矢理にでも気を静めるしかなかった。



 ◇



 香織ちゃんが一命を取り留めた後、僕達はおばさんから香織ちゃんが学校に来なかった事情を聴いた。


 おばさんとしては話したくなかったみたいだけれど、僕達の目の前で自殺未遂なんかしていたぐらいだから事情を話さざるを得ないと判断し、ようやく重い口を開いてくれたのだ。



 香織ちゃんは……暴走族によってレイプされていたのだ。



 心身共に傷ついた香織ちゃんはレイプされた日以来塞ぎ込んで部屋に閉じこもりきりになり、学校に来ていなかったのだ。


 原因が原因だけに、おばさんは僕達に事情を説明する事を躊躇っていたらしい。


「もう少し……あなた達早く会わせてあげればあの子もあんな事しなかったかも知れないのに……それをあなたたちを通して変な噂が流れないかなんて余計な事を気にしていたせいで……私のせいだわ……」


 泣きながらおばさんは懺悔していた。


 悪いのはおばさんじゃない。


 悪いのは香織ちゃんをレイプした連中の方なんだ。


 だから香織ちゃんがまた安心して学校に来れる様に……笑って学校に来れる様に、犯人を見つけ出して制裁する。


 空手経験者の澪ちゃんと静江ちゃん、そして柔道を使う僕の三人で香織ちゃんを犯した犯人を裁く事を決めた。


 だが、この行為は長く続かなかった。



 ◇



「カズ……悪いけど香織の敵討ちは諦めてくれ」


 後日、澪ちゃんにそうハッキリと言われた。


「如何してだよ! 澪ちゃんだって賛成していたじゃないか!」


「駄目なんだ。私達だけじゃ、とても香織の敵討ちなんかできやしねぇ」


 普段勝気な澪ちゃんらしくない事を言っていたので、冷静さを欠いていた僕は八つ当たりだと思いつつも彼女に喰ってかかった。


「如何して? この前だって暴走族の仲間だって言う奴等を七人もやっつけたじゃないか!」


「タコ! あんなの見習いで正式な族ですらねーんだよ! 如何やら相当ヤバいのがバックにいるらしい……」


 自分も暴走族の癖にやたらと澪ちゃんは弱気だった。


「じゃあ、如何するんだよ! 香織ちゃんがやられた事を黙って見過ごせって言うの?」


「そうは言ってねーよ」


「じゃあ誰が相手だろうがやっつけてやろうよ!」


「いや。今のままじゃ私達は勝てない……それよりか先ずは香織のケアを考えよう」


「そっ……それは勿論そうするつもりだけど……、猶更安心して貰う為に犯人を捜した方が良いんじゃない?」


「ハッキリ言うけど、カズの力じゃ香織をレイプした連中に勝てない。勿論私も、静江も三人居てもだ」


 確かに柔道を使うけど身体が小さな僕の強さなんかたかが知れているし、幾ら澪ちゃんや静江ちゃんが強くても女の子だから、格闘技をやっているような強い男子相手には敵わないかも知れない。


 頭ではそんな理屈は分かっている。


 でも、香織ちゃんの事を想うと、このまま諦める事なんか出来ない。


「だったら如何すれば良いんだよ?」


「だから、時間を掛けてでも私達自信が強くなるしかない。あと出来れば私達を理解してくれる強力なバックも必要だ」


「それなら澪ちゃんのお兄さんも暴走族何だっけ? 亮磨先輩とかは駄目なの?」


「一応話はしてみたけどヤル気は無いみたいだ。それに兄貴達じゃ協力してもらったところでマズ勝てないだろう」


 澪ちゃんはキッパリと言った。

 亮磨先輩達にも怖い噂が沢山聞いた事があるけれど、彼らでも勝てない程、巨大な相手なのか?


「でも、兄貴はカズが強くなりたいなら同じボクシングジムで練習を付き合ってやるとは言っていたぜ」


「ボクシングか……」


 柔道ならとにかく、小さな僕が拳で殴り合いなんかしたって強くなんかなれないんじゃないのか?


「僕みたいな身体で強くなれると思えないけど?」


「安心しろ。カズぐらいの身長のボクサーなんか一杯いるし、軽量級だって強くなれる競技だからな。その証拠に今まで日本人の世界王者が何人も居るだろ?」


 確かにTVに放送されている様な世界戦の試合でも身長160センチ以下、体重50キロ前後の軽い階級で活躍している日本人も多い。


 そう考えれば僕にも出来るかも知れない。


「分かった。僕、先ずはボクシングをやって強くなるよ」


 こうして僕は復讐の第一歩を踏み出す事にした。

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