第56話 グラップリングは実戦で使えるか?
『NEO麗』の格闘技の練習会が始まる前、アップをしながらそれぞれのバックボーンを俺に教えてくれた。
流麗が俺をギブアップに追い込んだ技は彼女が通うグラップリングの道場で学んだものらしい。
何でもサンボ・柔道・レスリングを合わせた様な競技を教えられるらしく、組技、とくに関節技が主体だが、実戦を意識して打撃への対応も想定された格闘技らしい。
流麗はこの競技の道場を週3日通い、打撃以外にも組技が出来るようになったらしい。
しかし、部活で週5日ボクシングの練習が終わった後、フルコンタクト空手で週2日、グラップリングを週3日練習していると聞いたが、俺に劣らず、いや、もしかすると俺以上にハードな練習をこなしているかも知れない。
因みに神子はシュートボクシングが週3日でMMAが週2日。フルコンタクト空手も週1日やっており、火受美は日本拳法を週4日、フルコンタクト空手を週2日やっている。
姫野先輩と違い、火受美がフルコンまでやっている理由は直接打撃に慣れる為と、日本拳法の弱点であるローキック対策らしい。
孝子はグラップリングの道場に週4日通い、フルコンタクト空手を週2日やっている。
グラップリングの道場では打撃コースも週1日あるらしいが、それだけでは不安なのでフルコンタクト空手もやっているそうだ。
しかし、打撃への対応を学びたいならグラップリングの道場じゃなくてMMAを習えば良いと思うのだが、孝子曰く「プロレスが好きだから」という理由でMMAのジムではなくグラップリングの道場に通っているらしい。
そう言えばプロレスのアキレス腱固めってサンボかSAW《サブミッション・アーツ・レスリング》から取り入れられたんだっけな?
こんな感じで、彼女達のバックボーンを聞いた後に孝子は何でグラップリングを練習するのか説明を始めた。
「多人数との喧嘩じゃ、一人に技かけている間に他の奴からボコられるだろうから、役に立たないかも知れないけれどね。只、一対一の時に自分より体格が上回る相手、階級が上の相手に立ち向かう為には選択肢が多い方が良い」
「でも、コンクリートの地面でゴロゴロって、技かける方もリスクあるんじゃないのか? 流麗もそんな事言ってたよ? それにタックルの時、膝を擦りむいたりする可能性もあるし」
孝子が少し流麗を睨むと、流麗は口笛を吹くような素振りで横を向いて知らないフリをしていた。
「それはそうかも知れないけれど、地面がコンクリじゃなくて土の場合ならリスクは減るよ。膝は予めニーガードか膝サポーターでも付ければいい。あと、コンクリの地面の場合、パウンドよりも関節技をかけた方が安全と言えるね……武っチ君一寸来てみな」
孝子が俺を手招きしたので、彼女のそばに寄ると、いきなり掴まれて大外刈りで地面に倒された。
「なっ!」
不意打ちをかけた孝子は素早く俺の上に乗り、マウントポジションを取ると、俺の頬を掠める様に軽くパンチでマットレスを叩いた。
「パウンドを外すと、こうやって地面を叩いて拳を痛める可能性がある。でも締め技なら」
孝子は俺の頭を起こすと、枕になる様に右足を俺の後頭部に滑り込ませると、頭を右膝で挟み固定した。
「なっ! 何するんだ!」
いきなり技をかけられそうになったので、抵抗しようとすると、孝子に右腕の内側を抑えられ抵抗を封じられると、孝子は左足を回して、右足でトライアングルの形になり締め付けられると、息が詰まり、俺は堪らず孝子の腿を叩いてタップした。
「もう一寸耐えて欲しいんだけどな……」
残念そうに孝子が言うと、俺を解放した。
「無茶言うなよ! 心の準備も出来ていない時にやられたんだから!」
「これだから競技化した格闘技の使い手は弱いのよね……まぁ、そんな事より今のが三角締めね。完全に決まらなかったら体を半回転して下から頭を抱え込むバージョンもあるんだけど、続けて良い?」
「遠慮しとく……。というか技かけるなら始めから言ってくれよ!」
「次からそうするわ。でも、こんな感じでグラップリングの有効性も分かってくれたかな?」
「まぁ……、今のなら少しぐらい体格差があっても、打撃系しか練習していない相手は対処出来ないかもね」
俺は喧嘩では使えない物という認識を若干改め、グラップリングに取り組む事にした。
「そう言う事。じゃあ、練習を始めようか」
サブミッション・ティーチャー略してサブティーと言われている孝子が練習会の指導をするようだ。
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