イリュージョンライト~伝説覚醒~ヤンキー女子高生の下僕は〇〇になりました

麗玲

序章 出合いは既視感と共にやって来る

第1話 既視感


「じゃあ一緒に死んで……生き返らせてやるよ……来い! 姫野!」


 美夜受みやずの声に呼応するかのように、下からクラクションの音が聞こえたような気がするが、それどころではない。


 耐久力の限界を超えたカーテンレールが完全に破損し、再び落下が始まった。


 俺の人生は今度こそ終わった。


 だが、意識を失う事を美夜受の凛とした声が遮り、先程のように記憶がフラッシュバックする事は無かった。


「歯ぁ食いしばれ!」


 声につられ咄嗟に目をつぶり、歯を食いしばり衝撃に備えた。


 そして地面にぶつかり、体が中に沈むような衝撃を襲った。


 ……だが、それはアスファルトにしては余りにも柔い、高跳びの時に使うマットに落ちた時のような衝撃だった。


 いや、それは比喩ではなかった。


 目を開けると体を叩きつけられたのはアスファルトではなく、何時の間にか置かれていた軽トラックに積まれたウレタンマットだった。


 棒高跳び用のマットは大体5~6メートル位の高さから落ちる事を想定されている。大体校舎2階ぐらいの高さから落ちても怪我をしないような設計である。


 屋上からの高さから飛び降りたら流石に無事では済まないだろうが、3階の高さからなら、2つ折り用のマットを折りたたみ、2重の状態にすれば耐えられるかもしれない。


 しかも、このマットは軽トラックの荷台に置かれ、地面より少し高い位置にあり、車体とタイヤもクッションの役割を果たした。


 俺達二人の体は反動で大きく弾み、マットを乗せた軽トラックの荷台から地面に転げ落ちた。


 俺は無様に鼻の頭を地面にぶつけた。


「つっー……痛ってー……オイ? アンタ……無事か?」


「な……何とか……」


「そっか……予定通り成功して良かった……って。てめぇ! 殺すぞコラ!」


 安堵したかと思えば怒り出す。あまりもの感情の起伏の激しさについていけないところだが、俺は手にした美夜受のスカートを見て、理由を悟らざるを得なかった。


 美夜受を見ると、先程顔が滑り落ちたために肌蹴た胸元以外にも、下半身はスカートが脱げ、黒い下着姿を晒していた。


 どうやら、落ちる直前、引っ張っていたベルトが外れ、麗衣のスカートごと降ろしてしまったらしい。


「いや……その……あのぉ~……これは不可抗力でして……」


 九死に一生を得たと思ったのは間違えで、新たな命の危機が迫っていた。


「こっち見るんじゃねぇ! 本当に死ね!」


 下着姿の美夜受はスクと立ち上がると、次の瞬間、彼女の上履きの底が目に見える光景を遮る。


 ……そして俺の意識はそのまま暗い世界へと飛び立った―



 ◇



(ねぇっ……ねえっ! 生きている?)


「んっ……」


 声に誘われ、薄っすらと目を開くと、健康的に焼けた褐色の肌にツインテールの金髪美少女が愁いを帯びた表情で俺の顔を覗き込んでいた。


 あれ……もしかして……。麗衣か?


 前頭部はガンガンするが、後頭部は何か柔らかい感覚で支えられ気持ちいい。


 以前もよく似た様な状況があったし、さっき見た夢は過去の記憶だったよな?


 まだ夢と現を彷徨っている俺は、もう一度俺の顔を覗き込んでいる美少女を見直してみた。 


 他人の空似か?


 ……麗衣に似ているが麗衣はツインテじゃないし、麗衣より少しだけ幼く見える。


 それにしてもよく似ているよな……。


 もしかして妹さんか?


 いや、それは無いか。


 麗衣の家に何回も行った事はあるけれど妹らしき子と逢った事は無いし麗衣から妹がいると言う話も聞いた事が無い。


 そんな事より、この状況は何だ?


「あっ……あれ? 俺は……何を?」


「ヤバっ! ……もしかして……記憶が無い?」


 このやり取り……以前も似た様な事があった記憶があるが状況が全く違う事に気付いた。


「君は……誰だ?」


 後頭部が気持ちいいのは膝枕をして貰っていたからで、これは以前俺の自殺を止めようとした時、服を破いてしまい、蹴りで気絶させられた後、麗衣にされた事がある。


 だが、決定的に違うのは膝枕をされるようになった経緯と、俺に膝枕をしている女の子が麗衣では無い事だ。


「サーセン……。自己紹介していなかったね。あーしは流麗るれいって言うんだ。よろぴく♪」


 顔は似ていてもヤンキーの麗衣と違い、この子はギャルっぽい話し方だったし性格が全然違いそうだった。


 てか、よろぴくって何時の時代の言葉だ?


 それはとにかく、この顔と言い名前といい麗衣と似た美少女は第三ボタンまで外しているのか?


 下から見上げても、きつそうなワイシャツから上乳と黒いブラが溢れんばかりにはみ出していた。


 うむ。


 脳内バストスカウターの戦闘力によればサイズだけならば麗衣以上と見た。


「……」


 状況把握よりも目の前のたわわに実った果実に目を奪われ、思考が停止するのは一度ひとたび男として生を受けた者であれば誰でも理解できるさがであろう。


「アレ? もしかして君……オッパイ覗いているのかな?」


 流麗と名乗る少女は悪戯っぽい表情で俺に訊ねてきた。


「い……嫌、そんな事は決して無いです」


「うーん……でも、君に間違えて痛い事をしちゃったしぃ~、ちょっとぐらいなら触らせてあげても良いかなぁ~?」


 ハイ! 喜んで頂きます!


 俺はそんな言葉を言いかけた時だった。


「オーイ! 流麗るれい! そっちは如何? ……って、一寸少年! 何してるの!」


 流麗とは正反対に色白で黒髪のハーフツインの少女と身長が俺より7、8センチは身長が高そうなベースボールキャップを被った黒髪でショートカットの美少年がこちらに駆け足で寄って来た。


「流麗! まさか殴られたからってイヤらしい事を強制させられたんじゃないよね?」


 そう言うや否や、ハーフツインは流麗の返事を待たずに俺の襟首を掴んで振り回し始めた。


「くっ……苦しい……離して……くれ」


 首が圧迫され、呼吸困難になったので俺はハーフツインの子の腕を必死でタップした。


「オイオイ止めておきなよ……こんなに小さな中学生の子を苛めちゃ可哀そうだろ?」


 ベースボールキャップの美少年は自分も男子としたら平均より小さい位なのに俺の事を中学生呼ばわりした。


「イヤ、この子は全身を嘗め回すような厭らしい視線で流麗を視姦していたし……きっと今夜のオカズにするに決まっているわ!」


 もしかしなくてもコイツ、勝子みたいに凶悪な奴なのか?


 ハーフツインが一向に手の力を緩めぬ為、再び失神寸前になった。


「一寸! 止めてよ神子みこ。あーしたちが悪いんだから、オッパイぐらいで済むんなら良いじゃない?」


「ちっとも良くない!」


 尚も俺を解放しようとしない神子という暴力女の後ろに美少年が立つと、何を思ったのか?


 神子の流麗と比べるべくもない胸をやわやわとさすり出した。


「きゃあっ!」


 ビックリした神子は俺から手を放し、両手で胸を覆い隠し美少年に振り返った。


「なっ……何するのよ火受美ほずみ!」


「落ち着け。今回の事は自分等が悪いんだから、認めないと


 火受美と呼ばれた美少年はハスキーボイスの凛とした声で言った。


 ん……この声と言い、顔と言い、何処かであった事がある様な気がするが……。


「……痛っ!」


 想い出そうとすると頭痛に見舞われた。


 そもそも何故この様な事態になっているのかすっかり記憶が抜け落ちているので、未だに状況を掴みかねていたが、流麗の膝枕の気持ちよさと、神子に首を絞められた苦しさを前に現状把握が後回し後回しになっていた。


「その……記憶が無いんだけど、君たちが俺に何かしたって事?」


「ええっとぉ~……それはねぇ~……」


 流麗が何かを言いかけた時だった。


「オイッ! 警察サツがもう来やがった!」


 美少年の警告と共に、空気を切り裂く様なパトカーのサイレンが鳴り響き、その音は徐々にこちらに近付いてきた。


「ヤバッ! 一旦解散するよ! 連絡は後でLIMEでお願い!」


「「了解!」」


 流麗がそう言うと三人はそれぞれ違う方向へ逃げて行った。


「アレ……?」


 俺がポツンと一人取り残されると、パトカーの音は益々近付いて来る。


 俺の鈍い頭でも、あの三人が何かをしでかしたという事ぐらいは想像できたが、俺には関係ないから良いよな?


 まぁ、あのオッパイは勿体ないけど……。


 急に手持無沙汰になった俺がそんな事を考えていたら、不意に後ろから強く手を引かれた。


「えっ?」


「少年! まだ逃げてなかったの! 急いで!」


 急に手を引かれた勢いで、ふらつきながらも手を握る少女の顔を見ると、それは今別れたばかりの流麗だった。



 ◇



「はぁっ……はあっ……もうパトカー……追って来ないよね?」


 流麗が俺の手を引っ張りながら人通りの少ない裏道に逃げ込むとようやく足を止めた。


「ううっ……頭痛いし、きもちわりぃ……」


 まだ原因不明の頭痛に苛まれていたし、そもそもこの麗衣そっくりな女の子と知り合った経緯すら理解していない。


「ああっ……メンゴメンゴ。さっきまで気を失っていたのに走ったりしたら気持ち悪くなるに決まっているよね?」


 流麗は申し訳なさそうに両手を合わせて謝って来た。


「いや……事情がよく分からないけれど、いい加減に理由を話してくれないかい?」


「えっとぉ~……そのね……」


 今度こそ流麗が説明を始めようとしたその時だった。


「見つけたぞ! うるはのクソアマ!」


 突如背後から響くドスの利いた図太い男の声が俺の心臓を掴み上げた。

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