あいつ、どこから湧いてきた?

最早無白

あいつ、どこから湧いてきた?

「そういやスマートフォンってさ」


「まーたなにか気になることがあったんだね」「そそ」


 私とコイツは現在休憩時間、というか昼休みを満喫している。後ろの席に座っているこの女と私は、世間一般で言う『友達』の関係である。

 なぜ回りくどい説明の仕方をしているかというと、それこそ私達が『そういやスマートフォンってさ』なんかで会話が始まるほどに、この世のモノゴトに意味を求めてしまう性だからだ。コイツがだけど。私はあくまでも聞き役だ。


 以前コイツが『ウチらって席替えしても一緒に弁当食べてるけど、そういやなんでかなぁ?』などとのたまってきたので、じゃあ、友達かなぁ……と。

 ただでさえ規格外な会話が逸れた。聞き役は話の流れを戻す役目も兼ねている。


「んで、がどうしたの? 便利なもんだよね」


「そう、それだよ! その『スマホ』って略し方がさ。ウチ最近気づいたんだけど、あの略し方に納得いかないんだよね」


「あー……」


 言われてみればそうだな。むしろコイツが今まで話題に出さなかったことが不思議に思える。ノーマークだったけど、確かに意識しだしたらむず痒い概念してるなぁ。


「だってさ、スマートフォンを略してスマホなわけでしょ? いや『スマフォ』ならわかるよ? なのに『ホ』って! あいつ、どこから湧いてきた?」


「はいはい、あんたの言いたいことはわかる。なんで『スマ』の相方がフォじゃなくてホなのかって話ね。スマートフォンとか名乗ってるくせに、略し方がスマートにできてないって話ね」


「そう! 略すとしたらスマフォなんだよ! ホの野郎がフォのスマを寝取ったんだよ! スマとフォはニコイチなのに……電波ビンビンの関係なのにっ!」


 華のJKが白昼堂々、スマ×フォのCPを語っている。世界よ、これが日本だ。てかそれじゃフォ×スマじゃん。乗り換えリバ可なのね。


「こら。お昼時なんだから、センシティブな発言にはフィルタリングして。それで、あんたはホをどうしたいの?」


「ん~……。ウチが勝手にうなってるだけで、ホ事体に罪はないんだよね。フォの位置を奪えたからにはそれなりの理由があるんだろうし、第一公式がホ派だから……」


 私の人生で今後、『ホ派』なんて言葉の出る幕はないだろうな。あったら色々とまずい気がする。


「電話会社を『公式』呼ばわりするの、全世界で多分あんただけだよ。じゃあ、突如湧いてきたどこの馬の骨とも分からないホが、なんで我が物顔でスマの隣にいられるか考えますか……」


「おぉ~! さすがウチの『友達』だぁ!」


 バカなのか純粋すぎるのか。コイツはこんな調子で、言われて気恥ずかしいことを平気でぶち込んでくる。私は私で、こんなのにいちいちドキッとしてしまう。

 まあ、真にコイツを受け止めてやれるのは私くらいだし……。ちょっとだけ意識してないこともないかもしれないけども……!


「まずは、そもそもホが湧いてきた理由だよね。公式が何を以てスマとフォの電波繋がりを割くような真似をし始めたのか……」


「まあ、発音しやすいからじゃない? スマの後にフォはちょっと言いづらいじゃん。だから代替案としてホが現れた、と」


「あ~、その説はある。けど、一般受けを良くするためとはいえ公式がそんな愛のない仕打ちをすると思う? 無理矢理三角関係に持ち込むとか……人の心は無いの?」


「そもそも対象が人じゃないからね。電話会社は基本的に効率しか求めてないから、愛なんてものは一ミリも入ってないでしょ。その代わりにAIは入ってるけど」


「また誰か増えた!? スマとフォの恋路ふぉいじには、一体どれほどの通信制限があるというのっ!?」


「4Gみたいに言うな。それに公式の展開プラン次第でキャラはまだまだ増えるぞ。モンスターとか出るぞ……ってまた話がずれた」


 ホの登場理由を明らかにしたところで、次はフォがもっと流行るきっかけを探すとしますか……冷静に考えるとこんな話をやってる時点でヤバいのだが、もう後には引けないので貫き通す。今だけは道理をもねじ伏せていく。


「んじゃ次は……。フォがホに勝てるようにするには、どうしたらいいと思う?」


 お、思ってたことをしっかりと言ってくれたな。だいぶ物騒になったけど。


「あえてホじゃなくてフォを選ぶのなら……フォにしかないモノを見出すしかないっぽいよね。そんなのある?」


「ホに無くて、フォにあるモノ……。フォ……フォ……。フォー! わかんない! ウチ、フォがなんなのかもうわかんないよ!」


 電話フォンだよ。それ以上でも以下でもないよ。って、待てよ!?


「フォー……それだ! フォは伸ばし棒でテンションを上げられる!」


「え? マジで何言ってんの?」


 おい、マジでぶっ飛ばすぞ。腐女子をこじらせて脳みそまで腐ったか? それか5Gにでもやられたか?


「あなたねぇ……あなたが持ってきたお話でしょ? 私はあなたのお友達だから、ってわけじゃないけど……。まあいいや、スマホをテンション上げて言おうとしても、なんとなくホがつっかえて邪魔するじゃん? でもフォだとスマフォー! って簡単にテンション上がるかなーって」


「スマフォー……スマフォー! 確かに、めっちゃテンション上がる! これはフォの特権かもしれない! いける!」


 いけるって何がだよ。とはいえ、話が一段落ついた後のコイツの弾けるような笑顔を見ると、なんだかんだ一緒にいて良かったなと思える。

 シンプルに仲良くしてくれるのが嬉しいってのもあるけど、最近の私はコイツに頼られることに気持ち良さを覚えている気がするな。コイツには絶対言わないけど。


「解決した? それじゃ昼ご飯の続き、今回は特別に玉子焼きを授けよう」


「うん! ありがとう~、さっすがウチの友達ですわぁ!」


 またその笑顔か、本当にずるいな。


「そういやさ、あんたはこれからスマフォでいくの?」


「いや? ウチはずっと『携帯』って呼んでるから、別に変わんないと思う」


 はぁ……。こういう所もコイツの魅力だったりするのかな?

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あいつ、どこから湧いてきた? 最早無白 @MohayaMushiro

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