魔法が混ざり会うとき
古宮半月
第1話 魔法
ここは日本の首都東京。
時刻は夜の11時半。
8月とはいえ辺りは暗く、明かりは何故かこの時間まで灯っているビルの室内からのものだけだ。
東京タワーのてっぺんまで見えるほど、雲ひとつなく、空は黒く澄んでいた。
東京タワーの上に立つ彼女は夜空よりも黒い。
闇に滲みとけるように佇み、しかし、輪郭をはっきりと認識できるほどに強い気配。刀を握った武士のごとく殺気。
実際、彼女の腰の両側に一本ずつ長い日本刀が携えられていた。
瞼をそっと閉じ。
***
「おはよ。マフィ」
家を出たところに、何のポーズを取るでもなく棒立ちで待ち構えていたのは、
相変わらず右目だけ隠す長い前髪が暑そうだ。
なにせ今日は8月の最高気温を記録するほどの猛暑日。ちなみに見えている方の目、つまり左目が険しい目つきなのは暑さのせいではなく、もともとの目つきの悪さである。
そんな彼女に対し、マフィこと俺、
「最近暑いね。汗かくし、蝉がうるさいし夏は嫌いだ。私が魔法使いになったら地球の地軸を捻じ曲げて日本だけ一年中涼しくなるようにするね」
「ああ、まだ魔法使いじゃないんだっけ?」
俺は明と中学で知り合って4年間近くにいるが、正直よく分からないことが多い。
「私は魔法学者だ。いわば魔法使い見習いさ」
特にこの魔法使い(本人いわく違う)という『設定』だ。
中学2年生が患いし心の病だとしても、それを高校2年生まで引き伸ばすとなるとこちらは対応しづらい、どころか互いに開き直って扱いに慣れてきてしまった。
俺と明は、
道路に接する片側一面黄色いトウモロコシ畑。
トウモロコシの群れの上には青い空。
俺の横で赤毛のショートの髪がさらりと流れる。
「トウモロコシって、変な植物だ」
明はトウモロコシを見ずに唐突にそう言った。
「なんでさ?」
「だって。何だ、あの形状は?なぜ小さな竹みたいな茎の上から黄色い粒々が生えているんだ?」
「何も変じゃないだろ。そういう植物なんだから。俺には君の感性が分からないよ。それに、俺たちはせっかく生物の授業受けてるんだから理解しようという心持ちが大事だ」
「さらに言うと、人様を利用して世界中で繁栄しようという企みが解せない」
「そんなに賢い考えを持って生息しているわけじゃないと思う」
こんな感じで、今日も特に中身のない会話をしつつ図書館までの道のりを過ごす。
借りた本は期日までに返さなければいけないのだ。
すると、5メートルほど前に1人の少女が立っている。というより、待っている。
「知り合い?」
「マフィ。君の知り合いではないの?」
一応、後ろを振り向いて確認。誰もいない。
「でも、俺たちの方を見てるよな」
「マフィの知り合いでもないのか。ならば、少し離れた方がいいかもしれないな」
目の前の、青髪の女性は長いポニーテールを地面すれすれまで垂らし、こちらを見つめるばかりだ。
すると、青い彼女はノースリーブから伸びる細長い腕をこちらへ向けるように静かに上げた。手には、糸のついていない小さな釣竿が握られている。
「
そう言いながら、腕をさらに真上に向けて上げる。
瞬間、頭上に2メートル×6メートルの長方形の青く輝く図形が出現。装飾なのか文字なのか分からないが、細かな線が刻まれている。
「っ!?逃げて、マフィ。いや、間に合わないか…」
明は制服のポケットから小刀を取り出して空中に切り込みを入れた。
「…
「待て、おい!どういう…」
切り込みは円形に広がり空中に穴を開けた。
明に押されて穴の中へ入ると、硬い石畳の上に落ちた。
慌てて穴の方を見るが既に閉じていた。
***
マフィを神社に押し込んで、円を閉じた瞬間、長方形の式印からは水槽をひっくり返したように大量の水が放出された。
「刻印…」
私は再び、小刀で空中に円を開けて、そこへ入る。
出口は青髪の彼女の後方、すぐ背後。
さっき私達がいた場所に大量の水の塊が落下して道路に叩きつけられたが、すぐに蒸散する。
道路の熱によってではなく、単に魔法の効力を解除したからだ。
「それで、
「問答無用。式印、一斉開示」
今度は私を囲むように、ごく狭い範囲の四方に長方形の式印が現れ、洪水の如く水流が襲いくる。
「聞く耳なしか。刻印…自分でくらえ」
私は小刀を水平に持ちながら体を一回転させる。自分の体を中心とした小円を描く。
刻まれた簡易的な式印は円柱状に上下に伸びて、水流は円柱の壁に吸い込まれる。
青髪の彼女の周りに円柱状に繋がれた空間。
大量の青い水は円柱の内側へ一気に流れ込む。
「何!?くっ…」
彼女はすぐに魔法の効果を解除したが、間に合わずに3分の1ほどの水量をかぶることになった。
彼女の青い髪は水に濡れ艶々と太陽の光を反射し輝いて。服はぐっしょりと水分に浸り、長いポニーテールの先から水滴が滴り落ちている。
「…そうですか。その赤髪。赤眼。そして空間転移の魔法。
「何のことを言っている?」
「私の家に危害を加えようとしていたのは、あなたですよね。
彼女の蒼い瞳はとても真っ直ぐだった。
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