「山紅葉の座敷小僧」

「では爺様、山の葉が紅に染まる頃に、またお会いしましょう」

 ――山紅葉の座敷小僧



 流行り病で孫を亡くした爺は、たった一人、座敷で四季の移ろいを眺めていた。

 朝にさえずる小鳥と、ときおり山から降りてくる狸以外に、語らう相手もいない。

 障子の隙間に吹き込んだ谷風に、孫の声だと振り返っても、座敷におかっぱ頭の童子はどこにもいなかった。

 そうして葉は落ち、冬が来て、溶けた雪が春の訪れを知らせると、すぐに蝉の声が聞こえてきた。けれど、爺のそばには誰もいない。座敷に一人寂しく、山が夕暮れ色に染まっていくのを見届ける。

「爺様、爺様。茶でも飲みませんか」

 はて、風にしてはやたらとはっきり、童子の声がしたではないか。振り返れば、座敷に小僧が座り、湯呑みも二つ。

 だが村に、童子はいない。どこから来るのか、その小僧は紅葉もみじの色付く季節が巡るたび、座敷へとやってきた。孫とは似ても似つかぬ静かな小僧は、寒空に木の葉が散るまでずっと、爺と茶を飲み、話をした。ほんの僅かな、秋のひととき。それでも爺は、幸せだった。

 山紅葉の色が変われば、座敷にあの小僧がやってくる。

 爺はもう、冬の凍える冷たさも、孤独の寂しさも、つらくはない。

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