「女王殺しの剣」

「そのとき酒場で、俺は聞いたんだ。なぜ剣を二本も持っているんだってな。そいつは言った。背負った方は、特別な相手にしか使わないと。はじめは、その言葉の意味がわからなかった。だが、今ならわかる。あの剣が何に使われたのか、誰を斬ってきたのかも」

 ――サントゥ城の衛兵スティーブン



 女王殺しと、呪いの銀剣。この二つは数世紀にも渡り、吟遊詩人によって語り継がれてきた。また、その両手剣はどの地方、どの時代であっても、波打つ銀の刃を持ち、刀身全体には、蛇のようにうごめく黒い模様が刻み込まれていると伝えられている。

 ときに眉唾の噂話だと揶揄されることもあるが、そのように事細かに姿が語られる様子こそ、剣が確かに実在し、いつか誰かが、それを目撃しているという証左であろう。

 しかし肝心の名前については、それを握る人物と同様に確かな情報はない。ある者は、その剣には名前が無いと言った。そしてまたある者は、最初に殺した女王の名がついているのだと語る。結局誰もわからずじまいで、だからこそこの剣は、女王殺しの剣と称されるのだ。


 女王殺しは数世紀に渡り、王族の死に関与する話に名が挙がった。そのことから同一人物ではなく組織的なものであるとされているほか、長命種のエルフであるなどという根も葉もない噂すらささやかれた。

 だが歴史上、女王殺しの顔と名を知る者は、ただの一人も現れていない。しかし、今もどこかで、あの剣は玉座を血で染めているのだろう。

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