第32話 栗木と本橋順子の仮夫婦


 クラシックが流れる喫茶店で、栗木と本橋順子が話している。自見と、真地間一郎の自殺真相について話し会った、あの喫茶店だ。

 「自見さんから連絡がきた、本橋さんも」

 「視察の予定表を受け取ったわ」


 自見から、遠藤専務とバルザック内野副社長がK市外れの温泉郷、ホテル瑞閣で密会する、お二人にその現場写真を収めて頂きたいとの指示が来た。


 栗木は、親から引き継いだ写真店を営んでいたが、スマフォの普及やパソコンの影響を受け、止む無く自分の代で終わりとなった。その後、大同警備に就職し、総合ターミナル物流センター警備隊に配属となった。

 本橋順子は、PDFファイルの件で新支社長に睨まれ、それならと潔く自主退職した。今は、クリーニング店でパートとして働いている。独身で、親からの遺産もあるので、暮らしには困らない。


 本橋順子から

 「二人で別々に行動するより、夫婦として行動した方が良いじゃない」

 「え、俺、本橋さんより10歳以上も年上だぜ」

 「そんなこと、誰も気にしていないし、誰も見ていないわ」


 確かに、その方が、都合が良い。それに、栗木は元写真屋だ、カメラの扱いは慣れている。


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