第29話 株主の古川邸


 社長と自見は、大株主の古川が、金沢兼六園を模して造成した庭を眺めながら、静かに待っていた。最初、自見は、私では古川様に失礼になりますと固辞したが、いえ、それは逆です、顧問のことは、古川さんは承知です、一度会って見たいと。

 「お待たせしました」

 角刈りで幾分白髪があるが、引き締まった身体に一部の隙もない和服で現れた。

 「古川様に、何ら良いご報告も出来ず、突然お邪魔しましたことを、先ず以ってお詫び申し上げます」と、社長と自見が低頭するのを、

 「そんな堅苦しい挨拶は抜きにして、それより、バルザックや遠藤専務の動きに何か変化はありましたか」


 社長は自見を促し、自見は、バルザック内野副社長の真の狙いは、永年の宿敵ベコムを抜き警備業界のトップに君臨すること。5年前、東北6県のバルザック関連会社6社を、直接支配下に置いたのはその始め、大同警備の吸収合併はその仕上げ。しかし、対等合併ではバルザックに何ら益はない。大同警備の経営改革を阻害し、経営不振を誘導、株価を下げ、M&Aを持ちかける。

 遠藤専務の役割は、大同警備の経営改革を遅らせ、もって社内内紛を株主に流し、昨今の大同警備の業績不振は現社長の無能にある、とアピールすること。

 古川は、一言も口を挟まず、自然体で話す自見を見つめていた。

そして、社長に笑顔を向けて、

 「お聞きした通りの方でしたね。分かりました、全てお任せします」

 池の鯉が激しく跳ねた、まるで自見を後押しするかのように。

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