君が死に、僕が始まる。

かんてん

プロローグ

 昼休み、友達のいない俺はいつも旧校舎の古臭い屋上で購買の人気のないパンを食べていた。日課はスマホでゲームだ。

 変わらぬ日々というのは唐突に終わっていくもので、俺がそうなったのは一年生の夏頃だった。


「一緒に食べてもいい?」


 聞き覚えのある声を耳にして俺は咄嗟に顔を上げた。

 真夏の太陽がスポットライトになった彼女を見た瞬間、息を呑んだ。


「君がどうして...」


 本当に疑問だった。


 彼女はクラス1の人気者で男子からの人気も高い、俺のような陰の存在、興味もないはずだ。だが、目の前で乱れる髪を抑えているのは確かに彼女だ。

「どうぞ」

 拍子抜けた声で許した。



 それからの日々は目まぐるしいほどに最高のものになった。

 夏の暑さを忘れて彼女と笑い合う。

 俺はきっと充実を知った。

 生きていると実感していた。

 俺と彼女の関係性は友人に等しいものへと変化していった。




 ある日のことだった。

 彼女はお昼休みにいつもの調子で呟いた。

「明日、ここで死ぬんだ」

 冗談だと思い軽い声で言葉を返す。

「そっか」

 彼女は笑った。

「ねぇ、私が死んだら何人の人が悲しむかな」

 俺は考えずとも答える。

「たくさんだろ」

 俺とは違って、なんて付け加えることはもうできない。

「そうかな」

「そうだろ」

「ねぇ、君は悲しい?」

 その目を忘れることはできない。

 今でも鮮明に覚えている。

 最後の選択を委ねる瞳。


「俺はーーーー別に」


 素直じゃないからさ。

 許してくれよ。

 俺なんかに答えを求めた方がバカだろ?

 そうだって言ってくれよ。



「バイバイ」



 次の日、放課後屋上に俺を呼び出して空へ飛んでいった彼女は笑顔を浮かべていた。

 そして俺は思ってしまった。

 死ぬ時も綺麗なんて反則だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る