とある思想警察官僚の日記
ヒトデマン
偉大な兄弟があなたを見ている
スマホのおかげで国民の監視もだいぶやりやすくなった。
これまで国民の監視はテレスクリーン(監視カメラ内臓のテレビ)と盗聴器の二つで行われていたが、スマホはその役割を一つの端末で行え、そして民衆は片時としてそれを手放すことはない。さらにGPS機能で居場所までわかるというおまけ付きだ。
SNSの発達も統制に一役買った。国民がSNSに吐き出す不満、思想、その他諸々の言葉を分析することで、反逆の疑いがある人間を事前に察知することができる。昔は皆を一つの部屋にあつめて行っていた二分間憎悪(敵や敵の思想に憎悪をぶつけさせる行為)も、今ではSNS上で自発的に行ってくれる。
驚いたのは、その憎悪の行き先が党が敵として用意したゴールドスタインのアカウントではなく、同じ国民のアカウントに向けられていることだった。彼らは互いに、思想の異なる相手に向け、あいつらは国家への反逆者だと憎しみをぶつけている。
私から見ればどちらも党に忠誠的な愛国者なのだが。
過去記録の改竄も今の時代はぱぱっと進む。今の書類は大半が電子データだから書き換えるのは容易い。安易にコピーされてしまうという欠点はあるが、党によって改竄後が真実となった後ではそんなデータは何の意味も持たない。
これまでは二重思考(改竄をしておきながら改竄後の情報を真実と認識すること)を要求されていた改竄作業も、人口知能の発達により人の手が入らなくなった。これにより矛盾に気づき反逆しようとする党員も少なくなるだろう。
スマホと共に広まったソーシャルゲームは、国民から時間と金を搾取する最高の娯楽だ。射幸心を煽るガチャは人々から金を奪いとり、終わりのない冗長なコンテンツは際限なく時間を浪費させる。国民が反抗しようと思っても、資金も時間も奪い取ってくれるのだ。
スマホの普及によってSNSは新たなマスメディアとなった。その時疑問に思ったのが、党のプロパガンダは信じないのに、SNS上に載せられるソース不明な情報は無条件で信じるものがいるということだ。初めは我々の情報操作に惑わされない者が現れ始めたと警戒したが、実の所は自分の信じたい情報を信じているだけだとわかって拍子抜けした。どちらにしても真実にたどり着けていないのなら、放っておいてもいいだろう。
それにしても、なぜ皆自分のことをSNSに載せたがるのだろうか。無論、自分から個人情報を晒してくれるのなら思想警察の身としては願ったり叶ったりなのだが、これではあまり張り合いがなくなってしまう。日記を付けたいのならば、前時代的かもしれないがやはり本に書くべきだろう。党に改竄されることのない、私の生きた思い出だ。
ノートや日記に自分の考えを書いて整理するという行為は禁止されている。この高級官僚の地位であっても、だ。だがバレさえしなければ問題ないだろう。それに、このノートが私以外の誰かに読まれてしまうなんてことは、よっぽどのことがない限りありえないのだから。
■■月■■日 ■■■■・■■■■■(検閲済み)
とある思想警察官僚の日記 ヒトデマン @Gazermen
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