無人島へひとつだけ持って行けるとしたら

桜もち

第1話

「無人島に一つだけ持って行けるとしたら何が良い?」

「そりゃあスマホだろ」


 いつだったか、高校の部活仲間と雑談をしていたとき『もし~~だったら』のようなこの手の話で定番のひとつに俺ははっきりと手に持つスマホを選んだ。

 もちろんネットがあればという前提なのだが、連絡して助けを求めたりできるだろうし、調べ物ができたりとスマホの利便性、汎用的な代物である。

 そんな役に立つものを持って入れさえすれば問題ないだろう。


── その時はそう思っていた。


 今俺はこの大空の下で小さな無人島に命からがら漂流してきた。

 持ち物はあの時のもしも話でした通りポケットに入れていたスマホただ一つ。充電は十分にあり、防水機能が幸いしたのか問題なく作動した。


「あとはネットが繋がるかどうかだけど……よし、繋がるっ、繋がるぞ!!」


 電波は届いているようで少なくても金属の板ではないことに一安心した。

 さっそく地図アプリを開き現在地を確認する。名前も知らない島だが、日本の領海内にあることが分かり早速助けを呼ぶことにした。


 本来であれば、この地に1人流されてきたのだがらパニックになる場面なのだろうが、スマホのおかげで人と繋がることができると分かっているからはそこまで焦りはなかった。


「もしもし、すみません今無人島に流されてしまったようで……はい。実は……」


 現在地と現状の説明をしたところ、1時間程度で海上自衛隊が救出に来てくれることとなった。


「ふぅ、これで一安心、助かった……」


 冷静に助けも呼ぶことができて安心できた俺は「よいしょ」とおもむろに立ち上がり辺りを散策することに。

 浜辺を後にした俺は林を進み川を見つけた。喉がカラカラになっていることに今更ながら気づき両手で身体の渇きを潤した。


 この島は林の中にあるこの川があるだけ。顔をあげても山のような起伏が激しい箇所がない平らな土地だ。


「まぁ、どうせ助けは来るんだし残りの時間は何するかな」


 俺は残りの時間、手持無沙汰から呑気に自撮りした写真をSNSにアップしたり、ゲームをして過ごした。


──。

────。


 日が暮れてきて俺は身体が震えてきた。ゲームして時間を忘れていたが、もう3時間以上は経過していた。


「さすがに遅い……」


 ぽつぽつと不安が入り混じる。先刻から心配になってきていたのだが、もう少し立てば助けが来る、もう少しすれば……などと自分に言い聞かせて今に至っていた。


 もう一度警察に連絡する。最初に連絡した時とは打って変わって声色は大分低くなっているのが自分でも分かる。


「もしもし、先ほど通報したものですが海上自衛隊の助けが来ないのですが」

『はい。海上自衛隊に救出の要請を出し、すでに現地に到着しています』

「えっ!? そうなんですか?」


 電話越しから聞こえる声にハッとなり海岸に見渡すが人の気配がしない。


「誰もいません。俺はどうすれば良いですか?」

『そちらの島は小さな島とのことで20分もすれば捜索隊が海岸一周し見つけることができるとのことです。ですのでその場を動かず居てください』

「分かりました」


 流石にこれ以上救出されるまで時間を無駄に過ごしたくはないため電話をつなげたままその場を動かず待つことにした。

 しかし30分経っても誰とも会うことができるどころか辺りは暗く、スマホの明かりしか視認できなくなっていた。


『もしもし?』

「はいっ、もしもし」


 藁にもすがる思いで電話の向こうの人とコンタクトを取る。すると電話の向こう側の人物が


『海上自衛隊の方が島を一周したとのことですが人物の姿がないとのことです。あなたは海岸にいるんですよね?』

「はい。そうです。すっと居ます」

『状況を的確に行うために海上自衛隊にあなたの電話先にかけて直接連絡を取ってもらいます』

「えぇ、わかりました。お願いします」


 なぜか俺の姿を発見できない? この暗さで見つけることができないとか? しかし今現に俺のスマホの明かりはあったし、向こうも捜索の際に明かりを灯すだろうから近づいてきたらそれに気づくだろう。


 段々、怖くなってきて改めて地図アプリを開いて俺は目を大きく開いた。


「は? なんで……さっき表示された島と違う!?」


 最初に見た現在地と今表示されている場所の島の名前が違っている。

もしかしてGPSの不具合で違う場所を取得されていた?

もしそうであれば今捜索してもらっている島に俺はいない……。その事実に冷や汗が止まらなくなった。


(やばい、やばい、やばい……)


 すると着信音が鳴った。


『海上自衛隊のものですが……』

「すみませんっ!! 助けてください。 もしかしたら違う島に居るかもしれなくて……とにかく早く来てください」

『落ち着いてください。どうされましたか?』


 電話が来た途端、この島にたどり着いてようやく落ち着きがなくなった。

自分のいる場所の不確定さ、助けが来ると思っていた安心感、日が完全に落ちて暗闇に取り残されている現状……。

 すでにそれだけで冷静さを欠くには十分だったのだが──


『もしもし、もしもし、だいじょ──』

「もしもし!? えっ!? もしもし!! あっ……」


 電話の向こうから声が聞こえなくなったと思ったらスマホの充電が遂に切れた。


「終わった……」


 なぜ、救出してもらう時間スマホを使って遊んでバッテリーの無駄遣いをしたのか……冷静になっていると高を括って無為な時間を過ごしたのか……。


 スマホはとても便利なものだ。1つのものだが、色々な用途に使用できる。

 しかし汎用的がゆえ良い使い方をすることもできれば余計なことにも使えることができる。その結果悪い結果を引き起こすことも。


 詰まるところ使うもの次第ということで、役に立つものにも役立たずにもなりうるというのだ。


 実際役立たずにした俺自身を恥じたが、すでにもう後の祭り。

 俺は残りの時間をただそのことに後悔しながら自然に溶け込んでいったのだった。

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