宇宙船サスペンス〜異星人、殺して、騙して、暴かれる〜

池阿 似鳥

第1話 惑星冒険家アレクセイ

「やっちまった。」


 俺の溜息混じりの呟きがモバイル号に響き渡る。モバイル号は俺が操縦する小型宇宙船だ。そして、知り合いから格安で買い取った俺の相棒でもある。

 船内には俺しかおらず、今にも機能停止しそうなヤバイ音が船内にこだましている。どうやらアッパーエンジンが故障したようだ。


「ついに壊れちまったか。すぐに緊急避難要請しないと、宇宙のチリと化してしまう。」


 今俺がいるのは、未踏破惑星区域の手前である。俺ことアレクセイは、惑星冒険家をしており、未知の惑星を見つけるため、この区域までやってきていたのだ。幸いなことに、モバイル号はまだ母国の踏破区域に位置しているため、緊急避難要請を発信すれば、なんとか母国に戻ることができる位置にいる。だが、あまり期待はできないだろう。なんたって母国の最果てにいるのだから。

 俺は一縷の望みをかけ、緊急避難要請発信ボタンを押した。発信音が船内に鳴り響く。しかし、発信音は鳴り止まず、母国の宇宙船管理局に繋がる気配はない。そして、こときれたように発信音はブツりと切れた。


「おいおい、嘘だろ。こんなとこで死んでたまるかよ。」


 俺はもう1度、緊急避難要請発信ボタンを押した。だが、結果はさっきと同じ。何も変わらず、ただ発信音が鳴り響き、切れるのを待つだけだった。


「マジかよ、こんなことで俺の人生が終わるのか。」


 俺はいつか繋がるかもしれないと信じ、何度もボタンを押した。しかし、結果は変わらない。

 そうこうしている内に、船内にエマージェンシー音が流れ、船内中のライトが赤に変色する。赤のライトは点滅し、その光景はモバイル号に対する死のカウントダウンのように思えた。


「これは、酸素供給が危機に達したときに起こる現象。クソッ!!」


 俺は一目散に酸素室に向かう。何とか修理できないかと思いながら向かっていたが、酸素室の現状を把握して、俺は絶望せずにはいられなかった。


「嘘だろ、、、酸素タンクが破損して、船外に漏れてやがる。頑張って節約しても、あと10分持つかってところじゃないか。」


 自分の余命があと10分という現実に、何もできないと悟ることしかできなかった。

 俺は限りなく酸素を節約し、ぐったりとした足取りでナビゲーションルームへと戻る。本当にどうすることもできない現実が俺の心を深く抉り、虚無感が心を満たしていく。

 俺は椅子に腰掛け、ナビゲーションルームに映し出された宇宙をぼんやりと眺めていた。どこまでも広がっているような真っ黒な空間。その中に光る惑星。俺がかつて求めていたロマンが死の瀬戸際でも、ありありと輝いている。


「もうちょい、生きてみたかったな。」


 そんな言葉が無意識に俺の口から出ていた。穏やかな声で放たれた言葉に自分でも驚いている。

(死を悟ったからなのだろうか。)


 そんなことを考えていると、惑星でもない、人工的な光を俺の目が捉えた。俺は急いで椅子から立ち上がる。そして、ナビゲーションを操作し、人工的な光に焦点を当てた。


「あれは、宇宙船だ!しかも大型、救難信号を発信すれば助かるかもしれない!!」


 俺は興奮を抑えきれなかった。生きることができる喜びが、諦めかけたロマンが、俺の心を駆け巡る。

 そして、正確に宇宙船を操作し、大型の宇宙船に救難信号を送ることに成功する。


「よし!これであの宇宙船がモバイル号を認識すれば、助かるぞ!」


 ピリリリリリ、ピリリリリリ。その音は、俺に希望をもたらす知らせだった。俺は受信した電波に呼応するように話しかける。


「こちら、モバイル号の船長アレクセイだ。モバイル号が故障したため、そちらの大型宇宙船に救助をさせていただきたく救難信号を送った。」


「こちら、ファイブG号の船員グリシャである。モバイル号の救難信号を受信した。あなたの要請通りに救助を行う。しかし、こちらの都合により、あなたのいる場所まで動くことができない。通過ルートをそちらに送るので、そちらまで来て頂きたい。」


「了解した。通過ルートを送ってくれ。すぐに向かう。では。」


 ツー、ツーと途切れた音声がナビゲーションルームに鳴り響く。その音が消えると、俺は思わず拳を握り、ガッツポーズをしていた。


「よしっ!これでなんとか生き延びることができるぞ!しかし、ここからが重要だ。モバイル号、なんとか持ってくれよ。」


 俺はそう言い、ファイブG号から送られてきた通過ルートを確認する。


「酸素的にも、エンジン的にも、ギリギリってところか、、、

 でも、泣き言なんて言ってられない。やってやる、そして必ず生き残ってやる!」


 俺はすぐにアッパーエンジンに向かい、1分足らずで修理を終わらす。そして、操縦室に向かい、モバイル号を動かすことに成功した。


 直進すること5分、なんとかファイブG号が通過するルートまで来ることができた。ファイブG号はまだ来ていない。俺は船内の薄くなった空気を肌で感じながら、焦燥にかられる。正直船内の酸素は持ってあと1、2分ってところだ。


「頼むぞ、早く来てくれ。」


 俺は心の底からファイブG号の到着を願った。


 ぶぅぉぉぉぉぉぉ。

 大気を震わすほどの大きな音がモバイル号に響き渡る。


「この音は、、、」


 俺は音のする方を見る。すると、モバイル号の何十倍もの大きさの宇宙船が迫ってきていた。


「俺の願いが通じたのか、、」

 そして、船内に発信音が鳴り響く。俺はすぐさま応答した。


「こちら、ファイブG号。1分ほどモバイル号のそばに宇宙船を近づける。その間に、こちらへと移って欲しい。こちらも諸事情があり、1分ほどしか止まれないことをご理解いただきたい。」


「了解した。止まり次第、ファイブG号に移らせていただく。また会おう。」


 俺はそう言い残し、すぐさま宇宙服に着替え、ファイブG号に乗り移る準備をする。同時に俺は、モバイル号を捨てる覚悟をした。


「モバイル号、今まで俺を乗せてくれてありがとな。一緒に未知の惑星を見つける旅は楽しかったぜ。生き延びることができたら、お前を迎えに行くからな。」


 ゴーンッ!

 モバイル号に何かがぶつかった音がする。おそらくファイブG号だろう。


「こちら、ファイブG号。モバイル号のそばに宇宙船をつけた。至急こちらに向かってくれ。」


 無線が船内に鳴り響く。俺はその無線を切り、脱出ゲートへと向かう。


「迎えが来たみたいだ。じゃあな、相棒。必ず迎えにくる!」


 こうして、俺はファイブG号へと乗り移った。


 これからファイブG号で起こる、壮絶なミステリーが待ち受けているとも知らずに、、、

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