素直じゃない人のハーレム
@watakasann
第一章 扉
第1話 ルーティーン
私の仕事は定時制ではない。その日その日で仕事の量が違い、終わって家に帰るのだが、最近は早く帰れるので大助かりだ。
「ねえ、この頃どうしたの? 凄くはつらつとしているけれど」
「痩せた? 」
「何か特別な美容法でも実践しているの? 」
「もしかしたら再婚でもするの?」
私より年上、年下の女性の同僚たちは、何かを聞き出そうと必死の様だが、悪いがそのつもりは全くない。昼休み中もしつこく聞かれるので、六十過ぎの女性が図書館通いをしている。最近の図書館は設備の充実が素晴らしく、ちゃんと食事をできるスペースもある。だが現在はコロナのため出来ない。そのため、図書館付近のベンチで昼食、本選び、そして午後の仕事、帰宅、私一人の夕食の準備、そしてお風呂、給湯タイプではなく沸かすタイプだがこれが助かる。何せ本業同様、いつ終わるかわからないのだから。
「えっとメラニンスポンジを多めに持って行こうかな、床が大理石だったら、普通の汚れも取れるでしょう、屑が出るからハンディークリーナーもいるかな、いや、箒と塵取りで十分か」
家に帰り、自分としてはかなり明るめの独り言を言いながら、いつものように大き目のバケツに、たわしやスポンジ、雑巾、古タオル、高い所を掃除するための長くなる棒などを一式そろえ、トイレの前に立った。
「先に用を足してから行きます」と大き目の声で宣言して私は普通にトイレに入り、出てくる
「それではいいですよ」
と今度は片手にバケツ、片手に箒に棒を持って姿勢を正し、一旦深呼吸をする、一分ほどいつも待つ、ちょっとスポーツ選手のような気分だ。
「これから試合みたいだけれど、きっとプロの選手の方が何倍も大変だわ、決まった時間で絶対に成果を出さなければならないのだから。まあ、不思議さはさておき」
するとトイレのドアから、微風が吹き込んできた。少し冷たくひんやりしたものだ。
「やっぱり床が大理石ね、当たった、さあ始めよう」
私はトイレのドアを開けた。
そこは大きな広間の様だった、一度行った東京駅のようなドームが天井に見えたが、その天井には所狭しと天使が飛んでいる、これでは語弊があるか、「天使の絵」が描かれている。床の大理石は、タイルのように様々な色と細かな幾何学模様が美しい。これが今でもどこかの国にあるのかもしれないが、それは長い歳月のみによって醸し出される落ち着いたものであろう、だがここにあるものは出来立ての様で、少々安っぽくも感じてしまった。
そしてそれがすべて見渡せる、中心部分にまで歩いて行った。所々落ちているティッシュを想像力で除けば、今まで見た中でも最高クラスの建物の出来だろう。
が、
「ああ、靴、靴!! 」
トイレのスリッパのままだったので、急いでトイレのドアから自分の家の玄関に取りに行き、大理石の上で、もたもたと履いた。
いつまでたっても、私はどこかぬけている。
「まあ、いる人は来たばかりの美女で・・・どうかな・・・ちょっと」
一目住んでいる所を見ただけで、その人の性格まで読み取れるようになったのは、経験以外の何物でもない。
とにかく、天使の下で、大理石の床に散乱しているティッシュの方向へ進んだ。もちろんこのティッシュは彼らが落としたものではない。
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