メルティー×メルティー

鈴木カプチーノ

俺の名はスサノオ

俺は素戔嗚(すさのお)ミヅキ。このホストクラブ、「Arkadias ーアルカディアスー」でホストとして働いている24歳のカリスマだ。自分でカリスマとかトリハダ立つような事を言っているが、この店のNo. 1ホスト暁ハルは自分を神格化しているほどなのでホスト業界では驕らなければ始まらない。だが、いかに驕ろうがホストである俺の仕事は常に客を持ち上げて気持ちよくさせることに変わりはない。


「ミヅキー!会いに来たヨォ!あ、そこの人メーカーズお願いしても良い?」

「はい!畏まりました!コールはどうしますか?」

「勿論アリで!」

「畏まりました!」


ここ、アルカディアスでは入ってきた客(女性であれば姫と呼ぶ)を10番まであるテーブルの各番号テーブルに御通しし、指名が少ないホストが姫に注文を聞きに行くのだ。


ちなみに注文のコールというのはシャンパンコールとは別で、普通のお酒や食事を頼んだ時に行うものである。頼まれた酒名とテーブル番号をコールし、他の席のホスト、客へアピールするような役割を果たす。


「3番テーブル様よりメーカーズマーク注文承りましたァ!」

「「「ありがとぉございまぁす!!」」」


俺を指名して来たのはゆゆ。2ヶ月前程に初来店し、その時に相手したのが俺とNo.2ホスト雁夜坂メルティーホイップ涼矢。


ゆゆの友人はメルホ目当てで来ていたらしく、俺もちょくちょく店で見かけてはいた。ただゆゆは俺の方に興味を持ってくれたらしく二週に一回か二回くらいこうして店に来て俺を指名してくれる。


「この前さ、会社のコと飲み行ったんだけどさ、そのコの話クソつまんなくてー」

「どんな話されたん?」

「いや、同僚の男に口説かれてるとかなんとかでー」


ゆゆが持ってくる話は本当にどうでもいいような、話さなければ記憶のどっかに埋もれるような下らない話ばかりだ。


しかし酒が入ればこれもまた一興で。


気付けばゆゆはいつものように気持ち良くなって微睡んでいた。メーカーズマークにハイボール5杯、ビール3杯とくれば飲み過ぎの部類に入るだろう。


微睡むゆゆに会計をしてもらい、

いつものようにゆゆを下に送ろうと店を出てエレベーターホールまで向かうとそこには雁夜坂メルティーホイップ涼矢がいた。


「あのアホ女もう飽きたんだよなぁ…、なぁ素戔嗚クーン、その女ヨコしてくんない?」

「ア?」


No.2ホスト、この雁夜坂メルティーホイップ涼矢は他のクラブにも悪名が轟いている女喰いなのだ。その雁夜坂メルティーホイップ涼矢はゆゆを下品びた笑みで舐めるように見ている。


クソ、マジで面倒なことになって来た。


雁夜坂メルティーホイップ涼矢は顔が凄くイイ男だ。高身長でスリムな身体付き、そして女を堕とす色目使い、極め付けは空手合気道、この2つにおいて三段を保持するスポーツマンでもあり、ホストとして見た目と性能はほぼ完成域に達しているといっても過言ではない。


性格面を除けば。


「早くしろよこの愚図が!!」


初動凡そ2秒、遅い。


「ッ!?」

「何驚いてんだ?」

「ハァ?」

「こんな遅いの躱せてあたりめーだろ?」

「ッ!!テメゴラッ!!!」


三段とはいうが所詮雁夜坂メルティーホイップ涼矢の学生時代の栄誉でしかない。俺には児戯にしか見えない。極めた達人であれば同じ三段であれ動きの格が違う。


「これで沈めや愚図が!」

「グズはオメーだ雁夜坂」


渾身の回し蹴りを繰り出す雁夜坂メルティーホイップ涼矢の蹴りの隙を縫って俺はその腹部へ渾身の掌底を叩き込んだ。


「ガッハ…ッ」


嘔吐し崩れ落ちる雁夜坂メルティーホイップ涼矢。それに見向きもせず俺は近くに呼んでいたタクシーをビルの下まで電話で誘導するとゆゆをエレベーターに乗せた。


幸いにもまだ微睡んでいるゆゆには雁夜坂メルティーホイップ涼矢のこの惨状は見えていないだろう。


「えへー、ミヅキ、また来るね?」

「ん、待ってるよ」

「うん!じゃあね!」


ゆゆを見送り店へと戻る為歩を進める。

俺は素戔嗚ミヅキ。かつて八岐大蛇を退治したあのスサノオの生まれ変わりであり、このホストクラブ、アルカディアスで働くカリスマホストだ。

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メルティー×メルティー 鈴木カプチーノ @sasa333

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