面白い小説のイントロだけがある空間

ヨカワ

『私と一緒に死ぬ?それともハローワーク行く?』

 天倉未来あまくらみらいからそう言われた時、僕は後者を選ぶしかなかった。


「お前が死ぬのは別にどうでもいいけど、まぁハローワークには興味あるからな」

「ど、どうでもいいって……ひどいよ」

 ハローワークに興味なんかあるわけない。


 僕の人生はいつも完璧だった。

 完璧であるために生きてきた。

 三年間ずっとトップの成績を維持してきた僕は、当然の流れで日本一の大学に入った。そんな僕がハローワークに?バカバカしい。


「一緒に行ってやると言ってるんだ。文句があるんなら――」

「う、ううん!文句ない!ありがとう!」

 天倉未来。小学校からの幼馴染で、考えが読めない女の子。

 最初はちょっとした不思議ちゃんだった。だが高校を卒業してからの就活で、50回以上面接に落ちてしまったせいで今はこんな廃人になってしまったのだ。


 なのになぜ僕はそんな廃人女の子の言いなりになっているのか。


 それは仕方のないことなんだ。

 僕には、致命的な弱点があるから。

 それも絶対に彼女にだけはバレてはいけない弱点だ。 


「未来。お前また髪の毛ボサボサになってるぞ」

 僕はもう何年も前から……


「ご、ご、ご、ごめんね港くん。今すぐ洗ってくるから」

「まったくもうダメなやつだな。それだから面接にも落ちるんだよ」

 この女の子に、猛烈な恋をしているのだ。


「ふう……」

 ああ、どうしよ。もうすでに心臓がはち切れそうだ。


 一緒にハローワークデートなんて。

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