第87話 勇者魔法はやっぱりスゴかった!?

「っと……は~い、到着でーす♪」

「ふぅぅ~ ま、まさかあたしが、空を飛ぶ日が来るなんてねぇ」


 ぼくはレニーさんを抱っこして、ケストレルの街まで飛んできたんだ。

 今日の精霊魔法の特訓は、レニーさんだけだったから、送ってあげたんだ~

 レニーさんがスリムで軽かったから、わりとあっけなくイけちゃいました♪


(アマーリエさんだったら……ちょっと厳しい?)

(アルタムさんは……背はともかく、意外と重そう?)


 な~んてぼくが考えてると、もじもじとレニーさんが身体をよじるのが判った。

 そう……いまぼくはレニーさんをお姫様抱っこ、しているのです♪


(あぁっ やっぱりこうでないとねぇ♡)

(前はレニーさんにぼく、お姫様抱っこされちゃったし?)


 ともあれ、そろそろレニーさんを下ろしてあげないとね~


「あ、じゃあ下ろしますよぉ?」

「ちょ、ちょっとまっとくれ!? も、もう少し……このままで」

「あ、はい~」


 とちゅうからは少し慣れたみたいだけど、やっぱりお空の旅は怖かったみたい。

 よく見れば、また脚がすこし震えてるみたい。

 そしてぼくに【ぎゅっ】ってしがみついてくれるレニーさん。


(かわいい♡)


 そうして数分後、なんとか自分で立てたレニーさんだけど……


「しかし……空を飛べるってのは、ホントに反則だねぇ」

「あの距離が、こんな短い時間で着いちまうんだから」

「ですよねぇ、って……コレはナイショですよぉ?」

「ああ、判ってるさ」

「けど、パーティーメンバーにも言えない秘密が、いくつも出来ちまったねぇ」

「ですよねぇ」


 あの【悪霊】の件で、レニーさんは【姫巫女の従者】として覚醒して……

 神官なのに、超強力な【火の精霊魔法】を使えるようになっちゃったんだ。

 しかも精霊魔法は、原則的にエルフにしか使えない魔法……

 だからこのことを知ってるのは、ぼくの家族と【姫巫女の従者】のメンバー、

 それから冒険者ギルドの一部の人しか、把握してないんだ。


「おかげでこんなヒモパンまで、装備するハメになっちまったしねぇ」

「あー」


 【姫巫女】と【その従者】が装備する【変身ヒモパン】は、

 いわゆる【魔法少女】における【変身ステッキ】みたいなモノ。

 だから常に装備してないとダメなんで、レニーさんたちはいつも履いてて……


「で、でも? その透けレースの重ね履き、カッコいいですよぉ♪」

「そ、そうかい? クリスにそう言われると恥ずかしいねぇ」

「街でもその重ね履き? マネしてるヒト、いっぱいいますもんね♪」

「ま、そうみたいだねぇ」


 なんだか悪い気はしないみたいなレニーさん。

 やっぱり女の人って、そういうファッションにはビンカンなんだなぁ……


「それで~ 精霊魔法の特訓は、どぉですか?」

「ああ……ルシア様のおかげで、だいぶ上達してきたつもりだけど……」

「ルシア様や姫巫女──アプリルには、まるで勝てる気がしないねぇ」

「ですよねー」


 それはまぁ? ふたりとも生まれながらのエルフで精霊魔法使いだし?

 いくらミヤビさま特製のチート能力だとしても……ねぇ?


「それにいくら強力な魔法でも、普段の依頼じゃ使えないしねぇ」

「え? もしかして……精霊魔法使うの、禁止されてるんですか?」

「ああ……いや、禁止されてるワケじゃないけどね……」

「だったら──」

「その……あたしが精霊魔法を使うなら、あの格好をしなくちゃいけないだろ?」

「あー」


 そうでした。

 あの【姫巫女の従者】のコスチューム……

 いわゆる【えろえろ系コスプレイヤー】みたいな【セーラー服ビキニ】

 そんな格好をしないといけないんでした。


「それはクリスだって同じだろう?」

「ええ! それはもう、できるだけ使いたくないですね!」

「というか……なんでぼくが使えるのぉ!? ぼく、男の子なのにぃ!?」

「ふふ、あの格好のクリスも可愛いけどね」

「むぅ、かわいくなんてありませんのだ!」

「ははっ 悪かったよ」

「とはいえあんな格好でも、魔物にやられるよりはマシだからね」

「いざとなったら使う……それだけでもずいぶんと心が楽になるってもんさ♪」

「あー、なるほどぉ」


 いざというときの保険、って感じ?

 いくらレニーさんのパーティーが強くても、死の危険はいくらでもあるし……


「さてと、送ってもらって悪かったね」

「いえいえ~」


 ここは街の門から10分くらいの、街道からちょっと離れた森の中。

 さすがに街に直接、飛んで降りたりできないしねぇ?


「じゃあクリス、またね……ちゅっ♡」

「あ……レニーさん♡」


 レニーさんは、ぼくの頭をナデナデして……

 ほっぺにちゅって、キスをしてくれました▽


 ◇◆◆◇


「う~ん、レニーさんたちも頑張ってるし?」

「ぼくももっと頑張らないと~」


 そう……それはぼくの戦闘スタイルのこと。

 ぼくは【勇者】転生者だから、その知識と勇者スキル……

 そして勇者魔法が使えるんだ。


「けど、ステータスが【レベル1相当】だからなぁ」


 だから、ぼくの剣はとにかく軽くて、攻撃力が低い。

 レベルが低い魔物ならそれでも倒せるけど……

 この前みたいな【中ボス】クラスの魔物だと、ほぼ剣は使い物にならないんだ。


「う~ん、どこかで魔剣でも探すかなぁ」

「でもそんなのがあるダンジョンに、ママたちが連れてってくれるワケないしー」


 なら【勇者魔法】をメインに? って考えると~


「それも、【MP】マジックポイントが足りないしー」


 さっきのステータスが低い件、そしてMPだけ少ないせいで……

 ぼくは満足に勇者のチカラを使えていないんだ。


「前世でぼくが読んだ小説だと、もっとカンタンにチートしてるのになぁ」

「それに、【姫巫女の従者】のチカラは問題外だよね!?」

「女装とか、ありえないし!!」


 それに、ただでさえ『しぐさが女の子っぽくなった』って、いわれてるし!?


「さて、どうしよう……?」


 う~ん……

 うかつに【HP】ヒットポイントが高くて、勇者魔法のスキルがあるから混乱するんだよなぁ。

 勇者魔法というと──


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超越身技オーバークロック

 種別:勇者魔法

 状況:戦闘時

 対象:術者

 効果:筋力、知力、攻撃力、防御力などのパラメーターを増強する魔法。

    いわゆる【バフ効果】で、術者のパラーメーターを、

    1等級冒険者の3倍相当の能力値に高める。

    効果は術者が望む限り継続するが、魔力消費が膨大なので注意が必要。

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 これが使えればベストだけど、いかんせん魔力消費が多すぎる。

 常時発動じゃなく戦闘時専用だから、戦闘が10回なら魔力は10倍掛かるし~


「そのうえ、発動中は魔力を消費し続けるし……」

「ウン、やっぱりムリすぎる」


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見敵殲滅アナイアレイト

 種別:勇者魔法

 状況:常時

 対象:術者

 効果:広範囲の敵の殲滅を目的とした戦術級広域攻性魔法。

 術者の視界内に入る全ての敵に、超高熱の連続爆裂攻性体を叩き付ける。

 相手は死ぬ。

 威力は常にMAXで調節不可。

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 これも魔力消費多すぎ。

 しかも威力は常にMAXで調節不可だし。


「そもそも戦術核クラスの破壊力とか、平時に使える訳がないよぉ!」

「っていうかコレが勇者の使える唯一の攻撃魔法とかっ 極端すぎるよ!?」

「ハァハァ……ええと、他には」


万物真理ステータス

 各種ステイタスがゲーム画面風に閲覧できる。

 なお鑑定も可能。


全能翻訳トランスレイト

 あらゆる言語を理解し、会話&読み書きができる。

 常時発動。


異空収納インベントリ

 異空間にアイテムを収納し、無限に持ち運べる。

 ただし生物は収納不可。


「戦闘時にどう使えと?」

「あーもうっ、いっそ異空収納にでも魔物が放り込めればいいのに!?」


 とはいえ魔物も一応『イキモノ』だし?

 異空収納には入れる事は出来な──


「ん?」


 ◇◆◆◇


「さてと、レーダーだとこの辺に──あっ いたいた♪」


 ぼくはおうちの裏山に入り込むと、魔物をさがしていた。

 そしてそこには、角が生えたうさぎさん【ジャッカローブ】がいた。


「よーし、じっけんっ♪ じっけんっ♪」


 そうしてわざと声を出すと、ジャッカローブはこちらに気づく。

 そしてひとしきりぼくを見つめると……

 すごいスピードで、ぼくに突進してきた!


「【異空収納インベントリ】」


 いつもなら、剣で討伐する魔物だけど、ぼくは【異空収納インベントリ】する。

 そして手のひらに展開した魔方陣を、ジャッカローブに向ってかかげると──


 キィンっ!


「ピギっ!?」

「おぉっ はじいた!」

「しかもぜんぜん衝撃がない♪」


 ふつうの盾と違って、その手応えは……


「堅いというか、【反射】したみたいな感覚だ~」

「おっと、また来た!」


 またもやジャッカローブが突進してくるけど……


 キィンっ!


「うんうん♪ これで確定だね♪」


 ズバっ


「ピギ──っ」


 ジャッカローブには悪いけど、ひっくり返ったところで剣で突き刺した。

 あっけなく魔石になったソレを拾って、今度は【異空収納インベントリ】に投げ込むと……


 ス──


「おぉ そのまま収納されるんだ?」


 原理は理解してたけど、今まで投げて収納したことなんて、一度もなかった。

 ちゃんと手で持って、そのまますっと差し込む感じ?

 なぜだかそうしないといけない気がしてたけど……


「ええと……じゃあコレなら──えいっ」


 ぼくは右手の剣で、【異空収納インベントリ】を切りつけた!


 ス──


「おぉう♪ ちゃんと収納された!」

「じゃあじゃあ……【ケースショット】!」


 ぼくは土魔法の呪文を唱え、右手のてのひらから礫弾を発射した!

 おしてそれは……左手の【異空収納インベントリ】の魔法陣に吸い込まれて──


「だ、だったらこれはどう!? 【ファイアショット】!」


 今度は火魔法を発動させ、小さめな火炎弾を数発発射する!

 すると……


「これも収納されたぁ♪」


 そして【異空収納インベントリ】の目録を見れば、

 【火炎弾×5】【礫弾×5】と表示されて──


「すごいすごいっ これって大発見だよぉ!?」


 つまり……

 魔物や人族の体当たりやパンチ、爪や牙なんかの攻撃は【はじく】

 そして剣や槍、それに矢や魔法弾なんかは【収納】する……


「防ぐだけでも最高なのに、敵の武器や魔法弾まで奪えるんだ!?」

「【異空収納インベントリ】さん……しゅごいぃぃっ!?」


 それは【万物真理ステータス】さんに引き続いて、

 【異空収納インベントリ】が【さん付け】されるほど……

 ぼくにとって、有能な勇者魔法の再発見なのでした♪

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