第80話 ぼくからママたちへのプレゼント

 アイナママ、ルシアママ……ごめんね? ウソをついて。

 【ステラママの遺したアイテム】そんなのは、ホントはないんだ。

 でもそれは……ミヤビさまとの約束だから、ホントのことが話せないんだ


(だってこれから使うのは、【勇者魔法】だから)


 ぼくがルシアママを【剣技】で超える……そんな魔法が【勇者魔法】にはある。

 【超越身技オーバークロック

 その魔法の発動中に限り、筋力、知力、攻撃力、防御力などのパラメーターを、

 【英雄級】冒険者の3倍相当の能力値に高めてくれる魔法。


(そんなまさに勇者らしい、チートな魔法だけど……)


 欠点は、その消費魔力量が莫大なこと。

 だからこそ、20万を超える【MP】マジックポイントもつ勇者だからこそ使える魔法なんだ。


(それはアイナママたちのおかげで、MPが増えた今でも全然足りない)

(けど──)


 本来ならMP不足で使えないはずの【超越身技オーバークロック】を……

 今のぼくが【4秒だけ】発動させる魔法がある!


 そんなことを考えている今も、毒のブレスは室内に充満して……

 ぼくらは風の結界に閉じ込められた状態になってしまう。


「私は左から、ルシアさんは右からおねがいします!」

「ああ、わかった」

「じゃあ数え3つで行きます!」

「さんっ」

「にっ」

「いちっ」

「いまっ!!」


 ぼくは【増魔倍押マーチンゲイル】と【超越身技オーバークロック】を同時発動する!

 そして風の結界を、飛行魔法で飛び出した!!

 見ればルシアママも、ぼくとシンクロするように駆け出していて──

 そんなルシアママの信頼に、ぼくの胸がかぁっと熱くなる!


「「てやぁぁぁっ!!」」


 シュバッ! シュババッ!


 ふたりの剣の刃にまとわせた【ソニックブレードが】……

 やすやすとヒュドラの首を落としてゆく。

 そしてルシアママが4本目の首を落としたその瞬間──


「たぁぁっ!!」


 シュバっ!!


 ぼくが5本目を首を落とす。

 この間、わずか4秒──

 すべての首を失ったヒュドラは、もう再生することはなく……

 そのカラダをぱぁっと光らせて、ポトリと魔石を落とした!


 パッ

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増魔倍押マーチンゲイル

 種別:勇者魔法

 状況:常時

 対象:術者

 効果:魔法の発動に対し、規定量以外のMP量を適用する事で、

    その威力を変動することができる魔法。

    その威力は規定量に対する比率に準ずる。

    戦闘時のみ発動、魔力消費は任意のMP量。

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 つまりMP消費が100の魔法なら、200で2倍。

 そして500で5倍!……と、倍率を変えられるんだ。


(これはもう、なりふり構わず──)

『【見敵殲滅アナイアレイト】、倍プッシュだ……!』

(……って時に使うんだろうなぁ)

(おぅふ……なんという男之浪漫おとこのロマン


 そして『増魔倍押』の説明には最後にこうあるんだ

 【魔力消費は任意のMP量】って……

 これ、逆に少ない魔力量ならどうなるの?

 そう疑問に思って、以前実験してみた事があった。


(で【増魔倍押マーチンゲイル】を発動後、MPを1だけ残して……)

(残り全てを【超越身技オーバークロックにブチ込んだら──)


 ホントなら魔力不足で発動しないはずの【超越身技オーバークロックが発動!?

 今のぼくのMP量でも、4秒だけなら発動する……という結果になったんだ。


「やった!」

「おぉっ 本当にやってしまうとは……」

「クリスっ ルシアっ!」


 笑顔でよろこぶルシアママ♪

 そして涙を流しながら、駆け寄ってくるアイナママ♡


「ありがとうございますっ 二人のおかげで勝てまし──」


 その時……


 パッ

-------------------------------------

 【レベルアップ報告】

 出典:万物真理【管理ログ】より


 パーティーメンバー【アイナ】がレベルアップしました。

 パーティーメンバー【ルシア】がレベルアップしました。

                            下画面があります▼

-------------------------------------


(え? これって【万物真理ステータス】のレベルアップレポート?)


 そういえば~ 前世でも勇者のパーティーメンバーだった、

 アイナママ、ルシアママ、ステラママの3人には……

 レベルが上がったら報告するように、登録しておいたんだっけ?


(というか~ ぼくだけは上がらないんだよねぇ はぁ~)

(ん? って……まだ続きがあるの?)


 パッ

-------------------------------------

 パーティーメンバー【アイナ】のレベルアップに伴い、

 現在の装備が装備不可能になりました。

 強制解除されます。


 パーティーメンバー【ルシア】のレベルアップに伴い、

 現在の装備が装備不可能になりました。

 強制解除されます。


 今後の戦闘の継続のため、速やかな対処をお勧めします。

-------------------------------------


「……え?」しゅるっ ハラリ

「……あ?」しゅるっ ハラリ

(なっ!? ビキニアーマーが……かってにパージされたぁぁ!?)


 おかげでアイナママとルシアマアの……

 おっぱいとおまたが丸出しに!?


「きゃぁぁぁっ!?」

「むぎゅぅ!?」

「あぁっ ズルいぞアイナっ わ、私も……きゃー(棒)」

(る、ルシアママまでぇ!?)


 ぼくはふたりのママに【ナマ】で抱きつかれ──


(あ……もう、限界ぃぃぃ きゅぅ~)


 その【幸せサンド】のままぼくは……

 魔力枯渇で昏倒したんだ。


 ◇◆◆◇


「【リターンスピリッツ】!」


 ぱぁぁ


 ぼくとアプリルさんのカラダが、暖かな光に包まれる。

 そう、これはアイナママの、魂を正しい身体に戻す魔法……


「さて、いかがですか?」

「ええと……あぁっ もどってるぅぅ♡」

「ええっ ちゃんと私の身体になってます♪」

「アプリルさんっ」

「クリスくんっ」

「「戻れてよかったぁぁぁ♪」」


 ひしっ


 そのうれしさのあまり、思わず抱きあって喜んじゃうぼくとアプリルさん♪

 なんというか……ずっとアプリルさんのカラダで過ごしてたから?

 もう他人のような気がしなくて~


「ふふ……よかったよかった♪」

「ルシアママ♪ ありがとう!」

「ああ、だがな? そろそろ離れたほうがいいぞ?」

「え?」

「レイナが嫉妬のあまり、泣きそうになっているからな」

「な、泣いてなんかないわよっ ルシアママ!!」

「ははっ そうかそうか♪」

「た、ただ……もとに戻れてよかったなって、思っただけなんだからね!?」

「レイナちゃん……ありがとう♪」

「ありがとうございますっ レイナちゃん」

「ふーんだ!」


 うーん レイナちゃんは怒っててもかわいいなぁ♡


「あなた方の【なりきり】が様になっていましたので、大丈夫だと判断しました」

「ですが万が一、身体から魂が抜けてしまったば場合は──」

「ぜったいにそばを離れずに……その場で待機! だよね?」

「ええ……それならば、わたしがもとに戻せますからね」

「アイナさん……本当にお世話になりました♪」

「ですが……」

「ああ、確かに【6体の魔物】はすべて封印、もしくは討伐したが……」

「ええ、【悪霊】はまた、その姿を消していましたね」


 そしてあの悪霊が、【6体の魔物】をすべて封印されたからといって……

 そのままルシアママのカラダを諦めるとは思えない。


(嫌がらせがシュミみたいな、イヤなヤツだからなぁ)


 ともかくあのヒュドラやキマイラが、街を襲う前に討伐できてよかった~

 そしてぼくにはひとつ……考えがあったんだ。


 ◇◆◆◇


「クリス……私とアイナに用があるそうだが──」

「あ、そうなんだよ! ルシアママ♪」

「【レッスン】なら、私だけを呼べばいいだろう? ん♡」

「ルシア? 貴女また……抜け駆けを──」ゴゴゴゴゴ……

「いやちがうからね? それよりもっとだいじなご用だから!」

「ふむ、大事な用とは」

「なんでしょうか……?」


 そんなママたちにぼくは~


「ええと……まずはアイナママ? 右手をだして?」

「右手ですか? はい」

「えへへ、サイズはあってるはずだけど~」


 ぼくはアイナママの右手の中指に、大きな石のついた指輪を差しこんだ。


「まぁ……」

「えへへ♪ これ、アイナママへのプレゼントなんだ♪」

「わたしに? あぁ……クリス♡」


 アイナママ、眉をきゅ~ってして、喜んでくれてる♪

 喜んでもらえて、ぼくもとってもうれしい▽


 すっ


 すると……ルシアママがワクワクしたお顔で、右手を差し出してきた。


「え? ルシアママのはないよ?」

「がーんっ!?」

「えっ! ちょ……泣かないでぇ!?」


 ぐずぐずと泣き崩れるルシアママを、ぼくはあわててフォローする。


「ちがうからっ ルシアママにはもっといいものをあげるから!」

「ぐすっ……いいもの?」

「うんっ それにはその、アイナママの指輪が大事なんだ」

「この指輪が……ですか?」

「うん、それね?【ヒュドラ】の魔石のカケラなの」

「まぁ」

「なんと……」


 そう……すべての首を失ったヒュドラは、光になって魔石を残した。

 とはいえ? またエルフの森のときみたいに【復活】するといけないから?

 この指輪のぶんだけすこし削って、あとは【志那都風しなつのかぜ】で封印したんだ。


「で……この魔石でどうするのだ?」

「うん、あのヒュドラの【再生能力】、すごかったよね?」

「ああ、どんなカラクリかは知らんが、凄まじい再生力だったな」

「ええ……わたしもあんな早い再生は、初めて見ました」

「だからね? ヒュドラの魔石が持っているチカラは……【再生力】なんだ」

「そうなのか?」

「うん、それでステラママの遺してくれたご本に……」

「【魔石加工学】っていう魔導工学書があってね?」

「魔物の【魔石】を加工して、その特性を活かしたマジックアイテム作り……」

「そういうのが作れるご本なんだ♪」


 ぼくがそういうと、アイナママが息を呑んで──


「クリス……これはまさか──」

「うん、そうなんだ♪」

「ん? 何なのだ? 私にはまだ要領が掴めないのだが……」

「ルシア……わたしの治癒魔法の【リジェネレイト】で……」

「あなたの失った右目と左手首を……もとに戻せるかもしれません」

「なんと……」


 そう……アイナママの治癒魔法は、傷を癒やしHPの回復はできるけれど、

 【死者の蘇生】と【大規模な欠損の回復】……この2つはできないんだ。


「だ、だが……私が目と手首を失ったのは、もう十年以上前なのだぞ?」

「うん……だからルシアママ? しっかりとイメージしてね?」

「な、なにを──」

「その手首と目がちゃんと自分にあるって……強くイメージするの」

「イメージ……」


 大事なのはその【想い】なんだ。

 だからそれさえあれば、あとはアイナママの魔法が後押ししてくれる!


 ◇◆◆◇


 そしてビキニアーマーを装備したアイナママがもどってきて…


「では……ルシア? 始めます」

「あ、ああ……頼む」


 ぼくも初めて見る、ガントレットを外したルシアママの左手。

 そして髪をかきあげて、大きな傷の残る閉じたままの右目──


「【リジェネレイト】!」


 キラキラキラ……


 アイナママの杖から放たれる神聖魔法が……

 ルシアママのカラダにふりそそぐ。

 そしてその、聖なる光に包まれると──


「あぁっ ルシア……貴女──」

「お、おぉぉ……見えるっ そして……左手があるっ」

「よかった……」

「あ、あぁぁ……く、クリスぅ アイナぁぁぁ」

「よかったですっ ほんとうに、よかった!」

「ルシアママっ!」


 ルシアママに……失われたはずの右目と左手が戻った。

 そしてルシアママは、まるでちいさな子供みたいに泣いちゃって……

 けど『嬉しい涙だから止めなくていい』って……いっぱい泣いたんだ。


 そうしたらもう……

 ぼくもアイナママもいっしょに泣いちゃって──

 気がついたら3人で抱きしめあって、わんわん泣いたんだ。


 ◇◆◆◇


 そしてその晩……ぼくたちは──

 はじめて3人でいっしょに【レッスン】をしました♡


「アイナママもルシアママも……」

「ぼく、だーいすき♡」




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 これにて【第2部】完となります。

 ご愛読ありがとうございました。

 引き続き【第3部】をお楽しみくださいませ♪

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