第72話 アイツっ ホントに生き物なんですかぁ!?

「焼き尽くせっ 【御神火ごじんか】!!」


 ボヒュっ!!


 アマーリエさんが放った火の魔法……

 それは地面から、まるで噴火のように吹き出した大量の炎!

 その極大の炎が、ネメアンライオンを包み込む!!


「やった!?」

(はっ!? いまのセリフ……これって失敗フラグだぁぁ!?)


 ガァァァァァっ!?


(やっぱりぃぃ!?)


 案の定……ネメアンライオンは【咆哮】で炎をふっ飛ばした。

 そしてその毛皮には、焼け焦げひとつついていなかったんだ!?


「なっ!? 火の攻撃まで無効なのぉ!?」


 ガフゥゥ ガフゥゥ……


 今度は火で焼かれ、さすがに頭にきたのか、息も荒くこっちを睨みつけ……

 牙を向いて、ぼくたちに襲いかかってきた!?


「【ミズガルズ】!」


 ガシィ!!


 それを防いでくれたのは、アイナママの聖防壁だった。

 しかしネメアンライオンは悔しげに、4本の腕の爪で防壁を引っ掻きまくる!?


「あ、アイナさん!?」

「だ、大丈夫ですっ 先日のカルキノスに比べれば」

「それにさっきの炎の攻撃は、ずいぶん嫌そうにしていましたが……?」

「でも、ああして【咆哮】で、すぐにふっ飛ばされては!?」

「でしたら延々と、その身体を炎で焼いてやるまで!!」

「そ、それでも上空に逃げられたら……」

「それに、風や水で拘束してしまっては、火の効果が薄くなるんじゃぁ」

「くぅっ ならいったいどうすれば……」

「っていうかアイツっ ホントに生き物なんですかぁ!?」


 さっきから【御名方みなかた】──ウォーターカッターの魔法を弾き返されまくり、

 アルタムさんが悔しそうに吠えた。

 ぼくもそれには同意見だけど……ん?【生き物】?


「そうだ!」

「なにか手を、思いつきましたか? アプリルさん!」

「ええ……アイナさん、魔力はどれくらい残ってますか?」

「それなら、まだ8割以上は──」

「でしたら──【アスガルド】、いけますか? しかも長時間!」

「え、ええ……半日程度の間でしたら」

「そんなに!? っていうか十分すぎます!!」


 ぼくはみんなに作戦を伝えて了承を得ると、カウントダウンをする。


「じゃあ数え3つで行きます!」

「さんっ」

「にっ」

「いちっ」

「いまっ!!」


 フッ


 アイナママの聖防壁が消失すると同時に……


「喰らいなさいっ【鉄砲水】!!」


 ドドドドっ!!


 アルタムさんの呪文で吹き出す大量の水!

 しかも極太の水流が一気に吹き出し、ネメアンライオンを吹き飛ばした!


 ガァァァァァっ!!


 しかし、当然怒ってまた襲ってくるヤツに向かって……


「クリスくんっ」

「はいっ」

「「捉えよっ 【四旋風】よつつむじかぜ!!」」


 ギュルルルっ!!


 ぼくとアプリルさんが同時に放った風精霊魔法は、8つの旋風を作り出し……

 ネメアンライオンの6本の脚と背中の羽、そのすべてを拘束した!!


「アイナさんっ 今です!」

「はいっ ……来たれっ 神々の塞壁!【アスガルド】!!」


 【アスガルド】はアイナママの使える最上級の聖防壁。

 あらゆる物理攻撃はもちろん、炎熱や電撃……

 果ては光や空気まで遮断してしまう、究極の防壁なんだ!


 ぱぁぁぁっ


 アイナママの掲げた杖から、神聖魔法が放たれる。

 そしてその光の奔流は、きれいな幾何学模様を描きながら──

 ぼくたち──ではなく、ネメアンライオンをとり囲んだ!!


「アマーリエさんっ」

「承りました! 焼き尽くせ──【火之迦具土ひのかぐつち】!!」


 ヒュボォォォ!!


 まるで地獄の業火を思わせる、激しい火がネメアンライオンを襲う!

 そしてアスガルドの防壁に囚われたまま、苦しげにもがき──

 毛皮は燃えないまでも、その熱さは防げないみたいだ。


(もしかしたら、このまま熱で討伐できるかもしれない……)


 けど──


「アイナさんっ 【空気】を遮断して!」

「はいっ」


 見た目こそ変わらないその防壁だけど……

 その瞬間、空気の供給はいっさい絶たれた。

 それでも燃え続ける【火之迦具土】の炎は……

 あっという間に防壁内の【酸素】を、消費し尽くした!!


(ど、どうだっ!?)


 魔物も【生き物】である以上、酸素が必要なはず!?

 じっさい【アスガルド】の中の炎は、徐々に弱まり……消えそうになってる。

 そして酸素の無い防壁の中で、ネメアンライオンは──


(炎の熱と窒息の2段構えなんだっ お願いだから……効いて!)


 ぼくはもちろん、その場に居た全員が、祈るような気持ちで見つめてる。

 そして……


 ズゥゥン


 そんなぼくたちの祈りが届いたのか……

 ネメアンライオンは白目をむいて倒れ込み、地響きを立てた!


「今ですわっ 姫巫女さまっ!!」

「あ、はいぃぃ!?」

「からめ取れ!【志那都風しなつのかぜ】!!」


 その呪文と同時に解除される【アスガルド】。

 そして吹き荒れる幾筋もの風がネメアンライオンに渦巻き、とりまいてゆく。

 そのまま、どんどん小さくなって…………


 コロン……


 カルキノスのときと同様に、手のひらに乗るサイズの球になった。


「【ネメアンライオン】っ 封印しました♪」


 きゅぴーん☆


(うぅ……またかってにカラダがポーズを──)

「やりましたわっ 姫巫女さまぁ♡」

「さすがですぅ アプリルさんっ♪」

「むぎゅぅ!?」


 アマーリエさんにはぼくのお顔に、アルタムさんには背中に……

 そのセーラービキニおっぱいが押し付けられた!?


「うふふ、みんな嬉しそうですね♪」

「ええ……ほんとうに」


 ボール状になったネメアンライオンを、しっかりと確保するアプリルさん。

 もちろんそんなアプリルさんもアイナママも、嬉しそうにニコニコしてる♪

 そしてぼくは……


(お、おっぱいの海でおぼれるぅぅっ♡)


 ◇◆◆◇


「んふふ♪ アプリルさん……このお菓子、美味しいですぅ♡」

「えへへ♪ クリスくん、こっちのも美味しいですよぉ?」

「じゃあひとくちづつ、交換しましょう♪」

「そうしましょう♪」


 なーんて……ぼくたちはいま、冒険者ギルドの一室にいます。

 そしてぼくたちの前には、美味しいお菓子がいっぱい並んでるんだ♪

 それは冒険者ギルドのギルドマスターが、差し入れてくれたから♡

 それというのも~


「でも……アマーリエさんも被害者なんですし、仕方ないですよねぇ?」

「ええ、ですがアルタムさん……形はどうあれ【ギルド職員が罠にかけた】」

「そんな結果になってしまいましたから……」

「そんなものですかねぇ ま、おかげで美味しいものにありつけましたけど♪」


 というわけで~ コレはぜんぶギルマスからの【お詫びの気持ち】みたい。

 そんな気を使わなくてもいいのにねぇ?


「ええ! それにアマーリエさんは【四人の乙女たち】だったんですし!」

「むしろ叱るどころか、褒めてあげたいくらいですよね♪」

「ですよねー」

「しかも入れ替わりのあと目覚めるなり、クリスくんを心配して」

「ワタシに同行を頼み込んできましたからね」

「アルタムさん……そうだったんですね?」


 そんなアマーリエさんはこの場にいなくて、残務処理で大いそがし。

 勤め人って、ホントたいへんだなぁ


「あ……ワタシ、ちょっと失礼してお花摘みに♡」

「はぁい、ごゆっくり~」


 そんなアルタムさんが部屋を出ていって……アプリルさんがぼくを見る。

 そして──


「あの、ちょっと思ったんですけど……」

「なんですか?」

「アルタムさんとアマーリエさんが【四人の乙女たち】になったのって……」

「【アプリル】じゃなくて、【クリス】が原因なんじゃないかって」

「え? それってどういう……」

「つまり、今の姫巫女の【魂】は、クリスくんでしょう?」

「そうですね──あっ まさか!?」

「ええ、だから【アプリル】じゃなくて【クリス】に縁近い女性……」

「つまり【クリスくんを想う乙女】が、選ばれてるんじゃないでしょうか?」

「な、なんと……」

「ええ……それはわたしも薄々感じていました」

「そもそも彼女達とアプリルさんは、面識こそあれど【縁近い】とは言えない仲」

「ですがその姫巫女の身体に宿る【魂】に惹かれるとなれば……あり得るかと」

「あ、アイナ……さん」


 でも……この人選は、そうとしか考えられない……よね?


「ともあれ、これはむしろ【幸いだった】と思うべきでしょうね」

「さいわい?」

「ええ、以前わたしがアプリルさんに言ったでしょう?


『ですが……ここはエルフの森から遠く離れた人族の地です』


「つまり知り合いこそ居れど、アプリルさんを、慕い思いやっている女性……」

「そういう人は、この街には居ないのですよ?

「そ、そっか……」

「ですね……そして前回の【カルキノス】、そして今回の【ネメアンライオン】」

「両方とも、彼女たちの助けがなければ、かなり厳しい戦いになったかと」

「そ、そうですよねぇ」


 強いていえば……同じエルフのミラさんとマハさんだけど。

 アプリルさんが有名人だから知ってるだけで、会うのは初めてみたいだし?


「ええ……そう考えれば、今回のこの【入れ替り】って」

「もしかしたら、何かの【お導き】かもしれないですね」

「そ、それって……神さまってことですか?」

「それはわかりませんけど、もしかしたらって」


 う~ん……だとすると、それってやっぱりミヤビさま?

 ミヤビさまはこれまでも、アイナママやルシアママが……

 ぼくと一緒に暮らせるようにしてくれた【きっかけ】を作ってくれたんだ。


(そう考えれば……ありえるかなぁ)


 と、その時。


「すみません、バタバタしてしまって……」

「えへへ、そこでばったり会っちゃいました♪」


 そういいながらアマーリエさんを連れて、アルタムさんが部屋に入ってきた。


「すみません……アマーリエさん、お忙しいのに」

「あ、いえ【姫巫女の従者】の件は、なぜかちゃんと頭の中に入ってまして……」

「ですから私が協力するのは当然ですし」

「あ、やっぱりそうなんですね?」

「むしろこんな大役に選ばれるだなんて、光栄ですわ♪」

「おぉう」


 とまぁそんな感じで、アマーリエさんも【エルフィーチーム】の一員として、

 これからぼくらと一緒に、悪霊たちと戦うことになったんだ。


「ですが……どうしても受付嬢の業務を休むとなると、引き継ぎがあれこれと」

「で、ですよねぇ?」


 ただでさえアマーリエさんは、受付嬢のチーフなんだし?


「しかも下の子たちにはその詳細を話す訳にも行かず……」

「なのにあの子達ったらっ 根掘り葉掘りと~~~」

「あー」


 ま、まぁ? 女の人ってそういうの気になるでしょうし……ねぇ?


「ですがなんとか今日中にキリを付けまして、明日からはご一緒できるかと♪」

「そうなんですね♪」

「ああ、アマーリエさん、その……」

「何でしょうか? アイナさん」

「あれから、体調に不調などはありませんか?」

「不調……ですか?」

「具体的には、あなたの身体と魂の結びつきが、順調かどうか……です」

「今回は入れ替わって短時間ということで、その身体を戻しましたが……」

「え、ええ……今の所はなにも不調もなく、大丈夫です」

「ほっ それは良かったです」

「ですがもし、今後魂が抜け出てしまった場合は……」

「決してその身体の傍から離れずに居てくださいね?」

「傍に……ですか?」

「ええ、それならわたしが魂を元に戻せますから」

「ですが、離れてしまえばそれも不可能ですので……くれぐれも」

「こ、心に刻みますわ!」


 魂を戻す魔法の【リターンスピリッツ】は、そばに魂がないとダメだからねぇ


「あっ あの女剣士さんはどうなんですか?」

「彼女も今の所、不調はないようです……ですが」

「もうひとりの女性神官は、いまだ意識不明のままです」

「そう……です、よね」


 あの悪霊が身体を捨てて逃げたから……

 あの女性神官だけもとに戻らず【魂不在】になっちゃったんだ。


「現在、その神官の魂を持つものが現れるまで、身体は神殿で預かることに」

「まぁ そうなんですか?」

「ただ魂がない者は、そのうち衰弱して死んでしまいますので……」

「一時的な【石化】の処置も検討しているようです」

「ああ、なるほど~」


 石化の状態なら、魔法薬ですぐに戻るし?

 そして時間経過もなくなるから、悪化もしないってワケだね。


「では明日からはアマーリエさんも、精霊魔法の特訓を受けていただきます」

「はい、判りました」

「その教官はアプリルさんと、ルシアが行いますので」

「る、ルシア様……ですか!?」

「ええ、そうですが?」

「はは……はひぃ」ガクガクブルブル……

(あ~~)


 アイナママ……忘れちゃってるみたい。

 前にルシアママが冒険者ギルドに【襲撃】をかけちゃって……

 それ以来、アマーリエさんとレニーさんが、トラウマになっちゃてるのを。


(アマーリエさん? そのぉ……がんばってね?)

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