第71話 悪霊は、やっぱり性格悪かった!?

「あ、アマーリエさん!?」


 思わずそんなふうに叫んじゃうぼく……

 でも、内心はわかってる。

 アマーリエさんはもう……【悪霊】に身体を取り替えられてるって!?


「こ、【金色こんじきの大獅子】!?」


 そしてぼくらの前に現れた、巨大なライオン……

 いや【6体の魔物】のうちの1体を唖然と見つめながら、アプリルさんがいう。


(【万物真理ステータス】っ!)


 パッ!

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【ネメアンライオン】

 出典:万物真理事典『ステペディア(stapedia)』


 巨大な体躯をもつライオンの魔物。

 2対の前脚を持つ6本足のライオンで、そのサイズは全長10メートルを超える。

 背中に1対の翼を持つが、飛行することは出来ず高くジャンプする程度のもの。


 その金色の毛皮はいっさいの剣や弓矢は通さないと言われ、

 実際に挑んできた数多の英雄たちを食い殺しているという。


 また、その毛皮に包まれた者は【不死】を得ると言われているが、

 その効果は定かではない。

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「なっ……これ、物理攻撃無効ってこと!?」


 あの大カニの【カルキノス】も頑丈な魔物だったけど……

 それでも【ただ大きくて堅い】、そんな相手だから討伐できたんだ。


「ならっ 魔法で倒すしかないじゃないか!」


 ぼくは動けずにいるアプリルさんの前に出て……


「【シュミンケ】!」


 ぱぁぁぁっ


「セーラーコス☆美少女戦士! エルフィー・シルフ♡」

「風にかわってぇ……おしごとですっ♪」


 きゅぴーん☆


「先手必勝! 囲みこめっ【塵旋風じんせんぷう】!!」


 ここは室内だけど、そうもいっていられない。

 ぼくは【塵旋風】を発動させ、同時に風防壁を展開する!


「巻き上げて!!」


 室内で発生したその竜巻は、ネメアンライオンのカラダを取り囲む。

 そして積もりに積もったホコリを巻き込み、凶悪な風刃を作り出した!!


 ギュバァァァァァっ!!


「どうで──あぁっ!?」


 バキィィ!?


 【塵旋風】の巻き上げる上昇気流は、なんと天井をブチ抜いてしまった!?

 そしてその中に居たネメアンライオンは、その身を高く跳躍させた。


「しまった!?」

「に、逃げたんでしょうか?」

「いやあれは……ダメっ ここはあぶない!?」

「えっ? きゃぁん!?」


 ぼくはアプリルさんと神官さんを後ろにかばいながら──


「切り裂けっ【烈風斬れっぷうざん】!!」


 ドバン!?


 5本の風刃でその壁をふっとばし、慌てて部屋から逃げ出した。

 その瞬間──


 ガァァァァァっ!?


「なっ!?」


 ネメアンライオンが大きく咆哮すると、それは衝撃波となって、

 さっきまでぼくらがいた部屋の家具をぺちゃんこにした!?


「あ……あれは【風弾】!?」

「ま、魔法まで使うだなんて……」


 しかも風の魔法とかっ ぼくとかぶってるじゃないかぁ!?

 なんてぼくが、思わず【おこ】になっていると──


「あら……残念。相変わらずしぶといですのねぇ」

「あ、悪霊!?」

「いつのまに、そんなところに!?」


 アマーリエさんの姿をした悪霊は……

 おとなりの屋根の上から、ぼくらを見下ろしてる。

 そのお顔はいつもどおりキレイなのに、とびきり冷たい目をしていたんだ。


「アマーリエさんのカラダまで……卑怯なっ!?」

「あら? んふふ……最高の褒め言葉ですわ♪」

「その悔しそうな顔♡ それだけで、この罠を仕掛けた甲斐がありました」

「くっ……」


 そうだった……この【悪霊】、

 その【身体を取り替える】という能力で、人族に嫌がらせを繰り返してる。

 それだけでも大迷惑なのに、あの馬鹿にしたようなあざけり顔。

 相手を絶望させることを、心から愉しんでるみたいだった。


「ともかく……クリスくんにアプリルさん?」

「あなた方にはここで、死んで頂こうかと思いまして♪」

「さ、させないっ」

「ええ……ですが、その【ネメアンライオン】の毛皮は、矛先や刃を通しません」

「ですから【風使い】であるあなた方には……相性が最悪なのでは?」

「くっ!?」


 確かに……風刃はあくまで刃の一種。

 そしてあのネメアンライオンの毛皮はたぶん……

 単純に【防御力が高い】とか、そういう問題じゃないんだと思う。


(やっぱり【物理攻撃無効】とか、そんなスキルがあるのかもしれない)


 しかも大型トラック並みのサイズのくせに、とにかく動きが機敏だし!?

 その羽根のせいで、飛べないまでも高く飛び上がるし……


「そして、あなたがたがここから逃げた場合……」

「そのままあの魔物に、街を襲わせます」

「なっ!?」

「そ、そんな……」

「それがお嫌でしたら……どうぞ、殺されてください♪」

「アプリルさん? あなたの封印魔法はやはり厄介ですので」

「うぅ……」


 すると悪霊は、どこからかナイフを取り出して……


「さらに、この私の身体が【人質】になっていることをお忘れなく」

「ああ……それとも、この顔に傷でも付けたほうが……」

「クリスくんには喜んでもらえるかしら? んふふ」

「そ、そんなこと……許さない!!」

「それにお前だって、無事じゃ済まないでしょ!?」

「ふふ……その時は、この身体を捨てるまでです」

「ひ、卑怯な……」

「そすからそれ、褒め言葉ですよ♪」


 カラダを捨てて逃げる……

 前にルシアママともお話したけど……やっぱりそんな事もできるのか!?

 なら、もしかしたら【悪霊】に対しては──


「なら──」

「ん? なら……どうしましたか?」

「ならやっぱり、【浄化魔法】が効くんじゃないでしょうか!」

「なにを──」


「【キリエレイソン】!!」


「ぐわあぁぁっ!?」


 そんなぼくの声に応えるように、神聖魔法が発動して悪霊を包み込む。

 しかもこの魔法【キリエレイソン】は、タフクの塔にいたあの【魔族】。

 あいつをさんざん苦しめて、胸に大穴を開けた……アイナママの呪文だ!


「来てくれたんだね!? アイナママ!」

「はぁっ はぁっ 遅くなりました……クリス──いえ、アプリルさんっ」

「あ、いけないっ アイナさん……てへ♪」


 そんな可愛いポーズでごめんなさいするぼく。

 なんだか最近……すっかり女の子らしいしぐさに抵抗、なくなっちゃったなぁ


「うぐ……な、なぜここに聖女が!?」

「それを教える義理はありませんっ」


 そんな無慈悲なアイナママだけど……

 もちろんアイナママがここへやってきたのには訳がある。

 アイナママを含むぼくたち4人は、こんなアイテムを持ってるから。


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【方位人針】

種 別:マジックアイテム

制 限:無制限

価 値:金貨4枚

性 能:これを持つ者同士の、居場所の方角を示してくれるマジックアイテム。

    そのスイッチを押すと、他の同アイテムに光と音で緊急を知らせ、

    かつその居場所を、針の向きで教えてくれる効果がある。

    ただし、2つ以上同時にスイッチが押された場合、

    最後に押されたものが優先され、先のものはキャンセルされる。

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 そんな緊急と居場所を教えてくれるっていう、ぼくお手製のアイテムなんだ♪

 見た目は懐中時計っぽいシルエットで、方位磁石みたいな針が付いてる。

 そして時計の【竜頭】っぽいボタンを押すと……

 他3つのアイテムに、ぼくの緊急事態と居場所がわかるって仕組みです。


(おお急ぎでつくったカンタンなヤツだったけど、役に立ってよかった♪)


 だからもちろん、アイナママだけじゃなくて──


「両断せよっ【御名方みなかた】!」


 光り輝く水の一筋! その【ウォーターカッター】が、

 ぼくらに襲いかかろうとしていたネメアンライオンを迎撃する。


 ガァァァァァっ!?


 けど、そのカラダに当たっても切断されることはなく……

 逆に咆哮の衝撃波で、その魔法を打ち消してしまった!?


「お、遅れてすみません!」

「アルタムさん♪ それに……そのひとは?」


 すでに【エルフィー・ウンディーネ】の姿のアルタムさん。

 けどその後ろには、ぼくの知らない女性冒険者……剣士さんがいた。


「あ、このヒトは──」

「アマーリエですっ クリスくんっ アプリルさんっ」

「えぇぇ!?」

「私……クリスくんが狙われてるって聞いて……心配でっ」


 あっ そうか……

 アマーリエさんは悪霊に、この剣士さんのカラダと替えられちゃったのか!

 だけど……その時。


「ね、ネメアンライオンっ 先に聖女を始末しなさいっ」

「っ!? させないっ! 【風樹嘆ふうじゅのたん】っ!」


 ブワっ!


 ぼくの放った風魔法が、ネメアンライオンを突風でなぎ倒す!

 けれどその瞬間──


「あぁっ アマーリエさん!?」


 悪霊はアマーリエさんのカラダのまま、屋根の上から身を投げた!?


「間に合えっ!」


 ぼくは俊足のスキルを発動し、その落下地点に向かって駆ける!

 そして風の精霊を呼び集めて──その落下スピードを堕とす事に成功した♪

 けれど……


「あ、あれ? アマーリエさん?」


 受け止めたカラダを揺らしても、ぜんぜん起きる気配がない……まさか!?

 そのとき……


 ぱぁぁぁっ


 ぼくの腕の中のアマーリエさんのカラダが、暖かな光に包まれる。

 そして気絶している神官さんと、こっちに駆け寄ってきた女剣士さん。

 その3人のカラダが光り輝くと……剣士さんが地面に崩れ落ちた!?


「ちょ……大丈夫ですか!?」

「あ、あれ? 私の身体が……元に戻ってる!」

「えっ アマーリエさん……ですか?」


 ぼくの腕の中のアマーリエさんが目をさまし、そういったんだ。


「ええ……今のは【リターンスピリッツ】、正しき身体に魂を戻す呪文です」

「あ、アイナさんっ」」


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【リターンスピリッツ】

 種別:神聖魔法

 状況:常時

 対象:術者、対象者

 効果:神々の神聖なる慈悲の力で、対象者の魂を正しい身体に戻す魔法。

    ただしその身体と魂が、範囲内に揃っていなければ発動しない。

    また正しい身体と魂の組み合わせを、意図的に入れ替えることは不可能。

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「アマーリエさんたちは、まだ身体を入れ替えられたばかり……」

「ですから急ぎ、魂を戻したのです」

「え? じゃあ……」

「ですが……どうやら悪霊はアマーリエさんの身体を捨てて、逃げたようです」

「そう、なの?」

「ええ、屋根から堕ちる寸前に、飛んで逃げる気配を感じました」

「アイツめぇ……」

「それよりも、今はあの魔物を!」

「そうでした!?」


 見れば、アルタムさんが【御名方】ウォーターカッターで攻撃しつつ……

 アプリルさんが風防壁を張ってフォローしてる。

 けど、水の魔法はどうあっても【物理攻撃】……

 さっきから何度も当たっているのに、決め手になってないみたいだ。


「あ、アルタムさんっ 今助けに──えぇ!?」

「え……私──」


 ぱぁぁぁっ


 ぼくに抱きかかえられたアマーリエさんのビキニショーツが……

 さらに面積少なめの、きわどいモノに変化して──


「これって……変身ヒモパン!?」


 そしてアマーリエさんのカラダが、虹色の光に包まれ──


「火の精霊! 火の元素を司る、情熱の紅き炎! エルフィー・サラマンダー参上!」

「火にかわってぇ……断罪しますっ」


 きゅぴーん☆


「【姫巫女】さまぁ♡ また巡り会えましたわ♡」

「あ、アマーリエさんまで……【四人の乙女たち】なのぉ!?」

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