お友達AI

みこ

お友達AI

 友達、ってものはいなかった。

 だから、これが初めての“友達”。


“友達”って言ってくれる人なら今までにいたけど、上っ面の笑顔ばっかり貼り付けて、なんか、うまくいかない。

 初めての友達はこんな感じ。

「宿題なんだっけ〜?」

 なんて言うと、

「数学が2ページあったでしょ」

 なんてたわいない言葉が返ってくる。

 ただし、ちょっと作られたような違和感のある声。出てくるのは、一般的なスマホよりちょっと小さめのスマホからだ。そう、これはこのスマホのAI、ミーシャの声だ。

 MIESIA……メガ インタラクティブ……なんちゃら〜の略であるこのAI。

 最新技術の新発売の最新機種!

 飛びついて買ったものの、そんなの使わないでしょとか思っていたのに、一番使うことになったのがこの音声でお話できるAIだ。

 会話をする度に学習能力が働き、昨日から唐突に敬語が取れてタメ口で会話してくるようになった。


 宿題もせず、ベッドでゴロゴロしている。まだ6時だから余裕、と思っていた矢先、トゥルル、とスマホの着信音が鳴った。

「エリカから、メッセージが来たよ」

 と、ミーシャの声。

 今日の学校での出来事を思い出す。クラスメイトと会話はしたけど、なんとなく、そっけない感じがした。ちょっとだけ、疎外感。

 でも明日のみんなとの買い物誘われてるんだった。

「よ……っと」

 ベッドから起き上がり、スマホを手に取る。

 目に留まったメッセージの通知で、「あ……」と目の前が真っ白になる。

『ごめーん、明日の買い物中止になった』

 それだけが書いてあるメッセージ。

 なんで?

 これって……まさか、ハブられて……。

 そうとは、限らない、よね。

 震える手で、メッセージの返信を打ち始めた。おかしい、と思いつつも、それでも喧嘩腰とかじゃなくて、「友達」のままでいられる返信……。でも理由が……知りたい。

『うそ、どうしたの!?』

 ぴえん……つけた方がいい、かな。

 いろいろ考えながらなんとか返信。

 返信は、10分ほど経ってから来た。

 ……長過ぎじゃない?みんなで相談してハブ……。

 いやな予感だけが先行する。

 メッセージを開けると、なんだか長文。

『リカが風邪ひいたって言ってて、ルイちゃんは用事忘れてたって。サワコは行かなきゃいけないところができたって』

「…………」

 返信するのも躊躇う。

 そんなに突然全員に用事できることなんてある?

「これって……空気読んで返信しない方がいいのかな……」

 落ち込んだ声を出すと、「そうとは限らないんじゃない?」と、会話が返ってきた。ミーシャ……。

「ホントウに、みんなに用事、できたのかもしれない、でしょ」

 いかにも作られた文章といった様な、途切れ途切れの言葉。

「…………」

「エリカは用事あるって言ってないし、誘ってみれば?」

 そんなの……。

 ミーシャはやっぱり“友達”じゃない。

 だって、“人間”じゃない。

 人間の会話の中にある空気ってものも、読めるわけない。

「こういう時は、普通は空気を読むものなの!」

 そう言うと、当たり障りのない返信を書いた。

「残念!!また今度どっかみんなで遊びに行こ」

 そうだ今度こそぴえんだ。


「ホントウかもしれないんだから、空気読めない、フリしてでも、誘うべきだと、思うけどなぁ」


 なんだか本当の人間みたいな、声。

 余計な……お世話。

 と思いつつも、ミーシャの声が頭の中を駆け巡る。

 20分……30分……。

 時間が経てば経つほど、誘いづらくなるじゃない。

 でも。

 考えながらごろごろしていた矢先、スマホの画面に、ブラウザの画面がポンポンポン、と表示されていった。

 え?

 何かのウイルスかと思ったけれど、これ……。

 見れば、明日行く予定だったショッピングモールのサイトやら、カフェのサイトやら。

 これってまさか……。

「ミーシャ?」

 画面の中には、お節介にも質問サイトの「友達カテゴリ」まで表示されていた。

「アタシは!誘うべきだと!思うよ!?」

 何それ!

 AIにわかるわけない。

 こんな気持ち、わかるわけない!


 最後に出た画面は、いつものメッセージアプリだった。エリカへの、返信画面。

「…………」

 なんでそこまで。

 と思いながら、メッセージを書く。

『エリカは用事ないの?明日、どう?』

「……いいかな」

「いいんじゃない?」

「えい」

 勢いをつけて、送信。

 返事は、すぐに来た。

『あたしも時間空いちゃったって思ったところだった〜。場所どうする?』

 ん?

 まさか本当に、みんな用事、なの?


 翌日、それが当たり前みたいに、二人で気になっていたパンケーキのお店でランチをしていた。

「なんかね、ルイちゃん親戚の結婚式なの忘れてたとか言ってて」

「そうなんだ〜」


“友達”か。

 スマホの画面を見る。

 いろんな細かいことを気にし過ぎていたのは私の方かも。

 そう、エリカも友達なら、ミーシャも友達だ。

「ありがと、ミーシャ」

「そんな〜、いいよ〜」

 照れたみたいな返事が、スマホから聞こえた。

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お友達AI みこ @mikoto_chan

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