ヤンデレな先輩とツンデレ幼なじみが俺を狙って離さない
天江龍
第1話 きっかけは些細なことだった
「べ、別に先輩のことなんか好きでもなんでもないんだから!」
後輩女子の大きな声が廊下に響き渡った。
ちなみに先輩とは、俺のことである。
俺は別に声の主に告白をしたわけではない。
ただ廊下ですれ違った時に挨拶をしただけだ。
なのに新学期早々から彼女の挨拶はずっとこんな感じ。
今となっては休み時間の恒例行事として多くの生徒に認知されている。
その行事の中心たる俺の名前は
高校二年生という高校生活における一番いい時期を過ごす者だ。
なぜこの時期が一番いいかって?決まっている。先輩も後輩もいるからだ。
人生において自分が高校生で、且つ先輩も後輩も高校生なのはこの一年のみ。
だから三年間の貴重な高校生活の中でも最も有意義で、重要な一年だと俺は思っている。
まぁ一言で言えば俺は先輩萌えであり後輩萌えなのである。
欲張りかもしれないが実際そうなのだから隠すこともない。
後輩から「早瀬先輩」と呼ばれたり、逆に憧れの女子に対して〇〇先輩と呼んだりすることにひどく憧れているのである。
ちなみにさっき俺に挨拶とは到底呼べない無礼な口をきいてきた後輩女子の名前は
ショートカットのとても可愛らしい見た目で、入学早々校内美女格付(もちろん公式ではなく誰かが勝手に始めたアンケートだが)で堂々の二位を獲得したほどである。
幼さの残るあどけない表情と、それでいて出るところは出ているエロボディが多くの男性からの支持を集めている。
そんな彼女だが、中学の時は毎日俺と一緒に帰る仲ではあった。
その頃はよく「お兄ちゃん」なんて呼んでくれて、俺も妹のように可愛がっていたものだ。
なのに高校に入ってからいきなりの先輩呼び、加えてあの態度なので俺は心底驚いている。
とは言っても、たまに用事でうちに来たりするし二人でいる時は普通に話をしたりするので、まぁ思春期特有の何かがあったのだろうとあまり相手にしてはいないのだが、毎日毎日これでは少しばかりうんざりはする。
ちなみに後輩萌えな俺ではあるが、桜にはなぜか萌えたりしない。理由は特にないが、本当に妹のような存在だから、ということなのだろうか?
俺の願望を知ってか知らずか、今は俺のことをとってつけたように先輩と呼ぶが、あざといというかわざとらしいのであいつにそう呼ばれても俺の食指は動かない。
まぁ急成長を見せるおっぱいに関しては評価しているが。
そんな俺は帰宅部でプラプラしているだけのどこにでもいる生徒だ。一応頭は良い方だし細身で見た目も悪くないと思っているのだが、昔から何に対しても大したやる気を見せず友人もいない俺は当然だが彼女なんていたこともない。
しかしこれも当然と言えるが、健全な男子として可愛い彼女を作ってイチャイチャして、愛妻弁当をあーんしてもらいたいなんて願望はもちろんもっている。
もちろんただの願望、というよりもはや妄想である。
実際にそうなりたいと努力もしないし目立つのも嫌いなので桜以外の女子とは話した記憶すらない。
そんな感じの俺は放課後になると人が部活やらで出払って下校ラッシュが過ぎるまで教室で時間を潰してから真っすぐ家に向かう。
あまり人とすれ違いたくないので、みんなの通らない校舎裏の階段を使うのが俺の帰宅ルートだ。しかし階段に差し掛かる角のところで、廊下にプリントをまき散らした女子生徒が一人、それをかき集めていたのを偶然発見した。
「大丈夫ですか?」
俺はその後ろ姿に惹かれてつい声をかけてしまった。
普段は絶対こんなことはしない。しかし俺好みのロングヘアーでとても華奢なその姿は、俺の気を引くには十分すぎた。
「すまない。ちょっと風が強くて」
「ああ、ここの窓いつも開いてますもんね……ってもしかして結城忍先輩?」
「私の事を知っているのか?光栄だな」
知っているも何も、今俺が話しかけたのは校内美女格付(何度も言うが公式のものではない)で堂々のナンバーワンに君臨するわが校一の美女、
頭脳明晰、運動神経抜群、加えて生徒会長。去年のホワイトデーの日には全校の男子生徒からチョコが届いて騒動になったなんて伝説も持っている超美人だ。
少しきつそうな顔がまた男心をくすぐる。はっきり言えば俺はタイプだ。
しかしこの人とお近づきになるなど、地下アイドルなんかと仲良くなるよりはるかに難しいとさえ言われている。
凛とした態度に加え、風紀にも厳しく男子など汚らわしい俗物のように一蹴するその姿は、女子生徒からも多大な支持を集める。
ちなみにそんな彼女についたあだ名は『パーフェクトクイーン』、その大層な呼び名に恥じぬだけの美貌と器量を兼ね備えている。
そんな彼女と、偶然ではあったが話をすることができただけで俺は幸せ者。
今日は良い夢が見れそうだな。
「拾いますよ、それ」
「……」
「あ、あの……」
「す、すまない。君はあまり見ない顔だが下級生か?」
「ええ、二年の早瀬って言います」
「早瀬か。覚えておく」
凛としたその横顔はもは尊いまである。
ただ見ているだけで誰もが幸せになれそうなほど綺麗な結城先輩の顔に見とれていると、俺を睨みながら彼女が言う。
「なんだ、私の顔に何かついているのか?」
「い、いえあまりにも綺麗だったのでつい……」
「なっ……そ、そんな目で私を見るな」
「す、すみません」
怒られてしまった。
まぁジロジロ見ていたのは俺だし、俺みたいな男に彼女は見向きもしないだろうから当然だろうが。
「……早瀬、下の名前はなんという?」
「え、俺のですか?」
プリントを拾い集めながら、結城先輩が俺の名前を聞いてきた。
「い、一応私もフルネームを晒しているのだから君も言うべきだろう」
「航っていいますけど」
「航……わかった、航だな。うん、覚えておく」
また散らばったプリントを集めていると、偶然結城先輩の手に触れてしまった。
「す、すみません!」
「……構わん、それより集めたものをこっちにくれ」
俺が集めた分を渡すと、先輩がプリントをトントンと床で整えてから立ち上がり、俺の方を向いて頭を下げた。
「早瀬航君、今日は助かった。よかったら明日生徒会室に来てくれないか?お礼がしたい」
「いやいや、いいですよ。俺、そんな大層なことしてないですし」
「いや、一宿一飯の恩義は必ず返せというのが我が家の家訓でな」
「一宿でも一飯でもないんですけど……」
「細かいことを気にするな。とにかく明日の放課後、待っているぞ」
そう言い残して結城先輩は去っていった。
俺は一人で家に帰る途中で、思わず「よっしゃー」と叫んでしまった。
なんか知らんがあの結城先輩と話が出来た。しかも、明日また会う約束を、しかも向こうからしてきたのだからテンションが上がらないわけがない。
家に着く頃には足取りもスキップになっていた。それくらい俺は浮かれていた。
「ただいまー」
「おかえりなさい航、ちょうど桜ちゃん来てるわよ」
「え、桜が?」
奥の台所から母の声がした。
そして手前のリビングを見ると、桜がソファに座ってこっちを見ていた。
「遅い、何してたのよ」
「い、いや別に俺がいつ帰ってもいいだろ」
「これ、前に言ってたDVD持ってきてあげたのに」
「そういえばそんな話したっけ。でも学校で渡せばいいのに」
「学校で誰かに見られたらどうするのよ?私、おに……先輩と勘違いされるのだけは御免だから」
桜の奴、機嫌が悪いのかな?ほんと、素直で可愛い妹キャラはどこに行ったんだよ。
「じゃあ私、帰るから」
「ああ、ありがとうな」
「ていうか学校で気安く挨拶しないでくれる?私、彼女じゃないんだから」
怒った様子で桜は出て行った。
全くどうしちまったんだと呆れながら、俺はさっさと借りたDVDを部屋にしまって夕食を食べた。
部屋に戻ると宿題を終わらせてからゲームをして、動画やDVDを見ながら寝落ちというのがいつものスタイル。
誰か夜な夜なラインとかしてくれる女子がいたらこんな虚しい繰り返しの日々から解放されるのに。
そんなことを、動画の途中で流れるマッチングアプリのCMを見ながら思ったりして眠った。
翌日もなんら変わりばえのしない一日だった。
変わったことと言えば、俺が桜を見かけても挨拶をしなかったことくらい。
ちゃんと言いつけ通り無視してやったというのにあいつは「先輩だからって無視?偉くなったものね!」なんて言ってくるから手に負えない。
その後はちょっとむかついたのであいつの言いつけ云々に関係なく桜を避けていた。
代わりに、昨日偶然知り合った結城先輩の姿を探していた。
三年生は校舎が違うのでそもそもあまり会うことはない。
それでもうっかり昨日のように歩いていないか目を凝らしていたが、会うことは叶わなかった。
最も、下級生の校舎にあんな有名人が迷い込んで来たら大騒ぎになるだろう。
昨日はたまたま人のいない時だったから結城先輩と話ができたと考えると、やはり俺はラッキーだったのだ。
ボーっとしているとあっという間に放課後になった。
俺はその少し前から浮足立っていた。
生徒会室に行って、また結城先輩のご尊顔を拝めるのだと思うと誰だってこんな気持ちにはなるはずだ。
放課後を告げるチャイムをまるで陸上のスターターピストルに見立てたように俺はチャイムと同時に生徒会室にダッシュした。
そして部屋の前に着くと妙に緊張した。
大丈夫、慌てるな。失礼のないように。
大きく深呼吸をしてから、俺はドアをノックした。
「失礼します」
俺は恐る恐るドアを開けた。
部屋の中は中央に長めの会議机があり、その奥にある席に結城先輩が一人座っていた。
「うむ、よく来てくれたな」
「あ、どうも」
「まぁそこに座りたまえ」
結城先輩は席を立って俺を椅子に案内してくれた。
そして腰かけていると結城先輩が逆に入り口のドアの方へ向かっていく。
「あ、あれ?どこか行くんですか?」
「違う逆だ。どこにも行かせない」
そう言ってドアの鍵をガチャッと閉めた結城先輩はこっちを見た。
「え……」
「航君、今は二人きりだ。二人きり、二人きり……ふふふふ」
少し笑いながら迫ってくる結城先輩はモデルのような姿勢と足運びで俺の方に再び近づいてくる。
「え、え、え?」
「座っていろと言っているだろ。先輩のいうことは聞くものだぞ」
言葉遣いはそのままだが、声のトーンが明らかにあがっている。
そして少し息を切らしながら先輩は、俺の隣に腰かけた。
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