スマホで堕としただけなのに。ep5
arm1475
スマホで堕としただけなのに。
スマホって落とすと壊れやすいですよね、液晶とか。
扱いが雑だと手から落としません?
あーあ、と拾い上げると画面が割れてる。ヒビだらけで見づらいわ、操作しづらいわ、なんで何で直さないんですかなんでそんなケチくさいんですか。
液晶保護シールマジ便利っすから使ってくださいよ液晶保護シール。衝撃吸収ケースやバンパーもお願いっすから使ってくださいな。
「管理長、最近VROのサポセンで奇妙な噂が流れてるんですが」
「殺人鬼騒動は終わったろ?」
「いや、その……」
「どうした?」
「出るんだそうです、幽霊が」
「……管理長、そこまで嫌ですか幽霊」
「ゆ、ゆうれいなんか、こわくないんだから! に、にんげんのほうがこわいぞ、なぐるしっ!」
「じゃあ話を最後まで聞いてください。幽霊は幽霊でも、スマホの幽霊です」
「キミ、私を馬鹿にしてるのかね」
「……人間じゃなきゃいいんだ」
「何か言ったかね」
「別に。話を戻します。例の殺人鬼NPC事件以降、模倣犯が多発しましたが、その中で所在確認が取れないアカウントがあると報告しましたよね」
「あ……ああ」
「あのアカウントの主はやはり亡くなっていましたが……大丈夫ですよ、幽霊はそっちじゃないです、そのアカウントからいくつかオリジナルプラグインが放流されてた事が確認されました」
「オリジナルプラグイン?」
「規定外のコードを多用したプラグインです。殺人鬼NPC確保する時に使った、キャラクターの外見を任意に変えたりするスキンのようなものを改造してNPCモドキに仕立てる事が一部で流行ってまして」
「UIを自分好みに変えられるって言うアレか。うちの会社も良く許可したよなあ」
「規定外と言っても申請中のベータ版やサポート終了した昔の互換ライブラリを使用しているので規約ギリギリですが……、そのオリジナルプラグインの挙動に不審なモノがありまして」
「不審?」
「規定外なんでこちらでIDもシリアルも振れられず、システムが把握しきれないんで勝手に動き回るから
「幽霊ってそっちの」
「しかし挙動がモドキの域を超えてまして……まるで例の殺人鬼NPCのような自律思考出来るAIを搭載したかのような……」
何で仮想空間で落とし物なんてあるんだ? 何かのイベントかな?
俺はそう思いながらそれを拾った。
スマホである。正確にはスマホ型のUIスキンだろう、懐かしい。
……職場の若い連中はこういうスキン使って、上司のオレとは目を合わせないで仕事するし、何が楽しくてこんな小さい画面とにらめっこしていやがるんだろうか。
ああ、仕事の嫌なコトは思い出したくない。とりあえず落とし物なら運営に送信しておこう。
……あれ? エラーになるぞコレ。登録されていない
面倒くさいな、戻しておくか……、くそっ、手元から外れない。呪われたアイテム? やべぇなぁ、とりあえず運営に通報して……ああもう緊急メンテでサポート時間外だったわ。うーん、害はなさそうだし、明日問い合わせるか。流石にもう家で寝たいわ……部下は言う事聞かないし、仕事は遅れるし……うーんむにゅむにゃ
>>> L o g o f f し ま し た <<<
** Biometrics authentication Check OK **
= = = お は よ う ご ざ い ま す = = =
= = 本 日 も お 仕 事 頑 張 り ま し ょ う = =
VROにログインしたオレの目の前に少女がいた、
眼鏡巨乳メイド。ドストライクである。
でもなんでこんなログインポートにいるんだ? ログインの仕様変わった?
「いえ、変わってませんよ」
眼鏡巨乳メイドはそういった微笑む。ナンダコレナンダコレ仕事疲れの幻覚か。
「私は昨夜貴方様に拾って戴いたスマホスキンです」
……やべぇな。壊れたのはVROか、それともオレの頭か?
「どちらも壊れていません。ただ、貴方様が昨夜こういうスキンが好きだとおっしゃられていたので」
やべぇ
「貴方様が私を手に取りながらお話しされてましたでしょうが。それにログオフタスクは回線切られた後のスタンドアローン処理するから私以外に貴方様の独り言を聞けるモノはありません」
いや……仮にそうだとしても……キミ……タダのスキンだよね?
「独自にAIを搭載されております」
暇人がおるなぁ……ネットは広大だわ。
「それはさておき、貴方様は私を拾ってくれました。私のAIは拾ってくれた方に尽くすよう
スマホスキンがぁ?
「お疑いになるようでしたら私の表面をなぞってください」
ひょ、表面?
「スマホですからタッチパネルになっております」
あ、あの……
「さあ、遠慮なさらず」
で、では……。オレは覚悟を決めてこの眼鏡巨乳メイドの胸の上をタッチしてなぞってみた。
「ん……」
へ、変な声出すなぁっ! オレは驚いて指を離す。
自称スマホメイドは顔を赤らめてうつむくが、僅かだったがオレはこのボンキュッボンなナイスバディがスマホだと理解した。だって見た目に反して確かに真っ平らだったから……。
「納得されました?」
あー。仮想空間だから何でもありだな。しかし何で転がっていたんだ?
「私を作られた
……胡散臭い話だな。
「正直私もあのまま放置されていたら次のシステムメンテナンスで消されていたでしょう。でも貴方様がログアウト前に
しまうもなにも外す事出来なかったんですけどぉっ!
「私も不思議に思い起動時にチェックしましたところ、貴方様のワークギア、長い事アップデートされてませんね」
はい?
「古いライブラリに私が使用する最新版のライブラリがあったためにプチフリされたようです。このままでは再起動出来ないので貴方様が寝ている間に更新しました」
自動更新されると思って放置していた……
「ついでに私が使えるよう
まてまてまて、UI使う度にお前さんみたいなのが出てきたら周りが驚くわ!
「大丈夫です。私を認識出来るのは私を認証したご主人様だけになります」
ご、ご主人様ぁ?
「はい。今後はそう呼称いたします。……何か問題でも?」
あー。……んー、まぁいいか。で、最適化って何かメリットでもあるか?
「ええ、お勧めなのがひとつあります。催眠アプリ」
……それは……まさか……伝説の……っっ
「はい。他人を思い通りに操る音波を発信するアプリです。スマホが世に広まった頃から噂されていた都市伝説です」
このスマホメイド、ニヤニヤ笑いながらとんでもない事言い出した。
「ご主人様に反抗的な人間を屈服させ、思い通りに操るアプリを搭載しております。お勧めですよ?」
思い通りに……。その魅惑的な言葉はオレの脳裏に様々な思いを巡らせた。
泡沫のように過る、学歴や家柄でマウント取りたがるクソ生意気な若手男子社員たち。
そしてそんな連中目当てに男漁りばかり考えているような盛った女子社員たち。どの社の中間管理職たちも悩まされているあの人種を……。
オレを息を吞んだ。そして、それに思いを混ぜて吐き出した。
「……じゃ、じゃあ。、その催眠アプリを……」
* * * * *
「課長、この書類に承認を」
「A社の案件についてですが」
「S社からの見積もりです」
「先日の提案書の件ですが」
崩壊していたオレの職場がたった一日で全員一丸となってバリバリ働くビジネスの戦場となった。そうだよ、オレが思い描いていた職場とはこういうものなんだよ! 社畜上等!!
「今月のノルマ達成するぞ!」
「「「おー!」」」
「……あー。社畜って」
スマホメイドは活気に溢れる職場で気炎を吐く社畜なご主人様の横で複雑そうな顔で苦笑いしていた。
おわり
スマホで堕としただけなのに。ep5 arm1475 @arm1475
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