スマホ忍者相田本斗
武海 進
スマホ忍者相田本斗
あまり知られていない事だが、現代にも忍者はいる。しかし彼らの存在は風前の灯火と言えよう。
徳川幕府が倒れ、それに伴い各地から大名と呼ばれる存在がいなくなったことにより忍者達は主君を失った。多くの忍者達は裏家業から足を洗い、それぞれの技能を活かして新たな道へと進んでいった。
しかし、一部の者達は新政府軍に雇われ、その後も明治以降の激動の時代を駆け抜けたのだが、それも第二次世界大戦が終戦するまでのことだった。
軍が解体され、いよいよ本当に主を失った忍者達は、それでも意地になって足を洗わず、政治家や企業にフリーランスで雇われ、非合法な仕事をこなす何でも屋となって現代まで生き残った。
彼、相田本斗もそうやって代々忍者を続けてきた一族に生まれた忍者だ。
そんな彼は今とある企業から受けた仕事の真っ最中であった。依頼内容は彼からすればごく簡単なものだ。
ライバル企業に潜入し、極秘裏に開発されている新商品の情報を盗み出すというシンプルな仕事だ。
時刻は草木も眠る丑三つ時、警備の隙をついて目的の情報を手に入れた本斗はビルの屋上へと出た。
いつもと変わらぬ簡単な仕事に飽き飽きしながらビル伝いに逃げようとした時、殺気を感じた彼は素早くその場を飛びのく。
カッカッカッカ、と小気味いい音共に先程まで本斗が立っていた場所に手裏剣が刺さる。
「誰かと思えば相田の家の若造ではないか。先代は息災かな」
声のする方を見上げると、給水塔の上に古式ゆかしい忍び装束に身を包んだ老人が仁王立ちしていた。
「なんだ、安藤のご隠居じゃねえか。相変わらず手裏剣なんて時代遅れなもん使ってんのかよ」
どうやら本斗が依頼を受けた企業とは別の企業が雇った忍者と鉢合わせてしまったらしい。
本斗はポケットからスマホを取り出し構える。その様子を見た老人はため息をつく。
「はあ、お前もそんな物を使うのか。近頃の若いもんは誰もご先祖から受け継いできた道具を使いたがらん。全く嘆かわしい事じゃ」
老人も懐から苦無を取り出し構える。
「道具は時代と共に変化するもんさ。そして忍者こそ最新技術はどんどん取り入れるべきだと思うけどな」
「抜かせ若造が。ではどちらが正しいか試してみようではないか」
老人は言うが早いか、本斗に襲い掛かった。苦無による鋭い一撃を本斗はスマホの背で受け止める。
彼のスマホのケースは特別製で、軽さと堅さを併せ持つ特殊な合金を一族と長い付き合いのある刀鍛冶に鍛え上げてもらった物だ。
「ほう、儂の苦無を止めるとはのう。道具はともかく腕はそれなりに悪くは無いようじゃの」
久しぶりの鉄火場に血が滾っているのか、老人はニコニコとしながら苦無をスマホ越しに本斗に押し付ける。老人とは思えぬ力に本斗は歯を食いしばって押し返そうとする。
「ご隠居、腕の問題じゃなくてあんたが老いただけかもよ」
本斗は何とか苦無を受け流して一旦老人から距離を取る。距離が空いた二人は再び互いの隙を狙う為睨みあう。
「儂はまだまだ老いてはおらんさ。それの証拠を見せてやろう」
老人は今度は懐から手裏剣を取り出し、本斗に投げた。本斗は難なく避けるが、それは陽動で、老人の本命は飛び上がって投げる2枚目の手裏剣だった。
しかし本斗はその攻撃を読んでおり、老人が2枚根の手裏剣を投げる前にスマホのライトを起動し、老人に向ける。
普通のスマホのライトの数倍明るく輝くそれは老人の視界を一瞬だが奪った。本斗はその隙にスマホを老人に向かって投げつける。
高速回転しながら一直線に飛ぶスマホから4本の刃が飛び出す。その刃はスマホカバーに仕込まれていたもので、スマホが高速回転すると遠心力で飛び出す仕掛けになっていたのだ。
強力なライトに視界を奪われた老人に避けることなど不可能で、スマホが肩に刺さる。そのままビルの屋上に落ちた老人は体に違和感を感じたと思ったら、たちまち動けなくなってしまった。
「刃に毒を塗っておったか」
老人からスマホを抜き取り、刃を仕舞った本斗は首を振る。
「俺は殺しはやらないんでね。ただのしびれ薬さ。これで分かったろう、古い道具も悪くはないけど最新技術で作られた道具だって馬鹿にはできないって」
笑顔で老人にそう言い残すと本斗は屋上から姿を消した。
「やれやれ、若造に教えられるとは儂も老いたようじゃな」
老人は悔しそうに呟きながらも顔は笑っていた。他の家の者にとはいえ、これ先の時代も忍者が生き残ることを確信させられたからだ。
「だが儂もまだまだ若いもんには負けんぞ!まずは伝書鳩からスマホに変えるとするかのう」
スマホ忍者相田本斗 武海 進 @shin_takeumi
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