君からの連絡

瀬川

君からの連絡





 そのメッセージは突然来た。

 家でスマホゲームをしている時に、画面の上から通知が現れた。



 でも名前を見て、俺は間違いだとすぐに思った。

 送信者の名前は、よく知っている人物だったけど、絶対にメッセージを送ってくるはずが無いからだ。


「太一……」


 それは俺の恋人だった人。

 一年前に、交通事故で死んだ。


 事故にあったのは、俺の家に来る途中の道でだった。

 バイクに乗っていて、信号無視のトラックにひかれ即死だったらしい。

 遺体はあまりにも酷い状態だからと、お葬式の時に顔を見ることも出来なかった。


 俺の家に来る途中に事故にあったから、俺のせいだと責めていたけど、太一の両親は優しく一度も責めてこなかった。

 それからしばらくはショックで食事も上手く食べられなかったが、時間が経つにつれて傷は癒えた。

 今はたまに思い出して寂しくなるぐらいで、俺は前に進んでいたのだけど。



 突然思わぬ所でから名前が出てきて、俺はゲームをしていた手を止めた。

 通知はすでに消えてしまっているせいで、送られてきた内容は分からない。

 間違いじゃないとしたら、誰かのいたずらだろうか。

 俺は自然と指を震わせて、メッセージのアプリを立ち上げた。


「……嘘」


 メッセージのアイコンは、間違いなく太一のものだった。

 そんなことがありえるわけがなくて、夢なんかじゃないと目をこする。

 でも、それが消えることは無かった。



 未読のメッセージがあると知らせている数字を眺めながら、俺はしばらくの間固まっていた。

 でもこんなことをしていても何も進まないと、俺はゆっくりと時間をかけて画面に触れる。


 メッセージが読める画面に切り替わり、俺はすぐにその内容を視界に入れた。


『会いたい』


 ただ一言。

 でも俺は懐かしさに、涙がにじむ。


 太一はメッセージだと素っ気なくて、いつも俺は文句を言っていた。

 それなのに今は、それがとても愛おしく感じる。


「俺も、会いたいよ……」


 これを送ってきたのは、きっと太一だ。

 俺はそう確信して、返事を打つ。


『俺も会いたい』


 すぐに既読を示すマークがつき、そして向こうからメッセージが来る。


『好きだ』


「なんだよ急に、いつもは言ってくれなかったくせに」


 恥ずかしいからと、そういう言葉を生きている間は、なかなか言ってくれなかった。

 それなのに、今このタイミングで言ってくるなんて酷い奴だ。


 俺は涙を拭い、そして返事を送る。


『俺も好き』


 送り終わると力が抜けて、そしてベッドに身体を沈めた。

 柔らかい感触に、俺は誰にも見られることは無いと、ボロボロと涙を流した。


「た、いちっ。俺も会いたいっ!」


 その願いが叶うはずがないことは分かっていた。

 でもそれ以上に、会いたいという気持ちが強かった。


 俺はまたスマホを見る。

 新たなメッセージを視界に入れれば、もう耐えきれることは出来なかった。


『愛してる、ごめん』


「……たいちっ!」


 どうやってメッセージを送ってきたかなんて、もうどうでも良い。

 今こうしてやり取りをしているだけで、俺は幸せな気分だった。


『愛してる、俺の方こそごめん』


 何とかそれだけを打つと、スマホを胸に引き寄せる。

 太一がこれからもメッセージを送ってくれれば、俺は生きていけそうだ。

 スマホが消えてしまわないようにと、力強く抱きしめた。



 太一の言葉を噛み締めることに意識がそれていて俺は、新たなメッセージが来ていることに気づかなかった。

 この部屋に、俺以外の気配が増えたのにも、気づくことはなかった。





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君からの連絡 瀬川 @segawa08

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