元カレモドキにスマホをトられる。
中川さとえ
元カレモドキにスマホをトられる。
電車がついて乗客が降りて、待ってた客が乗って。電車が出て、降りた客たちが改札を出る。いつもの通りの当たり前のこと。でもいつも、でもないことがひとつ。うわ。なんかコワイ顔したお姉さんがドカドカドカッて、「すっ…すいません、すいまっせん!」はいっ!どうされました。答えるのは駅員。大概こう言うときは、切符がないんです、か、財布がないんです、か…。「す、スマホがないんです!」…あ、それですか。
「乗ってこられた19時37分着は当駅止まりでして、今、車庫に向かってます。連絡入れましたので到着次第お捜ししますね。」
駅員が言ってる。
すいません、すいません、お願いします。
「…車内ではスマホお持ちだったんですよね?」
ええ、途中でLINEきて慌てて止めたんで。確かです。
「見付かるといいですね。…連絡はどちらにしましょうか、」ああ、そうか。パッと出てくるアドレスてないな…。こういうときって皆はどうするんだろう。
「あのっ、明日もこの駅に来るんで、そのとき聞いてもいいですか?」
あ、はい。もちろんです。て駅員は言って、捜します、捜します、そして、見付かるといいですね。をもっかい言った。
サイテイサイアクサイチイサイアクサイテイサイアクサイチイサイアク………クッソオォォォォォォ!!
…はあっ、はあっ…ああしんど。
あーもう最悪だ。ペイたちオートチャージにしてなくてよかった。ホンとに良かった。そう言えば今日は朝からヘンだったんだ。全然触った覚えないのにアラームが鳴らなかった。お陰でチコクで笑われた。作業増やされた。あーーー、ムカつく!…ごはん、買ってくるの忘れた。うーばでもする…。
あっ、あーーーーーーーー、…ムカつく。
ピチョン。お風呂の蓋についた水滴。ピチョン。はあぁ。お腹すいたままお風呂に入ってる。はあぁぁぁ。…スマホがないとすることが何もない。ンーーー。潜ってみた。ぶくぶくぶくぶくぶく。。。
タオルで頭をごしごししながらやかんを見てる。あたしのやかんはピーって云わない。沸いたかな。…湯気は出てる。湯気出てるからいいだろ。こんなもんだ。
カップ麺に湯を注ぐ。…ぬるいかな。ま、いいや。
なんか静かだな。そんなもんなんかな。テレビをつけてみる、…そっか音て遠いんだな。あ、離れてる、か。蓋を捲って箸で掴む。ずるずる。…ぬるかった、か、早かった、か、両方か。…ま、いい。喰えるから。
けど、どうしたのかなあ、スマホ。落とした、なんだろけどさ。鞄から出したかなあ?出さなかったんじゃなかったか。…そうだよ、電車の中でLINE♪て鳴って、慌てて鞄覗き込んで電源オフにしたんだ…。そうだよ!鞄のなかのまんまで切ったんだよ。出してねーよ。…じゃなんでないんだ。なんでっかなーあ。あーあ。ついてねぇ。
なんかもうすっかりウチヒシガレタので今宵は寝てやろうと思った。髪まだ少し湿ってるけどもういいや。ベッドにいってびっくりだ。驚愕てやつ。
スマホがそこにあったんだ。
………はぁ?なんで?…だろ?
あたし、今日スマホ持ってくの忘れたてことなのかな。マジかよー。電源が切れてる?あ、電池切れか。充電器、充電器っと。片っ方スマホ片っ方コンセント。充電持たなくなったなぁ…、機種変ドキなんかな。んー、ニネン?あ三年もっと経ってるぞ。五年は経ってないか…経ってるか?そっかぁ。買い換えようかな。
あ、LINE来てる。
…そうだよ?電車の中できたよなあ?え?
あ、なんかイッパイきてる。だれだ?これ。
『いきなりでごめん。』
うーん、誰だっけか。
『僕のことは忘れてると思う。ほんとごめんね。』
うーん、…誰だったっけか。すまぬ。ガチで忘れとる。
『僕は君が好きだった僕をちゃんと覚えておきたくて、こんなことしてしまってる。ごめん。気持ち悪いよね。』
うん。じゅーぶん、キモチわるい。て、あ!…あ、あ、あ!
『でも君のことほんとに好きだったんだ。あ…今もだ。好きだよ。』
こいつ、こいつこいつ、……思い出した!
『ごめん、ほんとに。迷惑だよね。ごめんね。』
…それはたぶん2年かもしかしたら3年か4年前か(今パッと出てこないだけでゆっくり考えたら解るよー)そのときの付き合いで入れたマッチングアプリで知り合った奴だ。アプリでお喋りして、デートもして、確かおセックスもした、した、したぞっ、うん。した、は覚えてる。…でもそれしか覚えてない…。飲んでたしな…。でも考えたらこいつのあと、まだ付き合ってる、をしてないから、…元カレか?そうなるのかな。ならないのかな。
…とりあえず返事しよう。
『迷惑なことないよ。元気だった?』完全に忘れてたは黙っておこう。聞きたいことを聞くぞ。
『でも、どうしたの?』
そうだ。用件を言え!速やかに且つ明確に、だ。手短ならなお宜しき。
『ほんとにごめんね。』
…あーまたグズグズと。そうそう、そーゆー奴だ。すぐグズグズと停まる奴。ヤサシイひとが好き、とか言う女にほれっほれって売り付けてやる。ヤサシイはヤサシイ奴だからな。いくらで売れるかな。でもたいがいそーゆー女は激しくケチだからめっさ買い叩くんだろな。おっと…。
『だいじょうぶ。そうだ、会おうか?いつがいい?あたしね、土曜なら空いてるよ。』あ、サービスしすぎたか。
『ありがとう。ほんとにありがとう。』
あ?こいつメソメソしてんな?見えないけど、わかる。こいつすぐメソメソするんだ。そうだった、そうだった。写真を欲しがったよな、ねぇよ、て言ったら泣き出したんだ。シクシクシクて。…ぶっ飛んだわ。
最近は女でもしねえぞ?て泣きかたでさ。だから逢いに行ってやったんだぞ。写真の替わりにホンモンだぜ、文句ないだろて。それが始まりのデートだったな。
『君といると楽しくて嬉しくて、ほんとに幸せだったよ。』『ごめんね、連絡しないで。』『いいんだ。僕つまらないし。』『そんなことなかったよ。』『ううん、いいんだ、』あー、めんどくさっ。こういうのがあたしにはメンドクサイ。グズグズしないでさっさと逢おうぜ。があたしの好み。『じゃ、月末とかどう?来月でもいいよ。日取り決めちゃおうよ。…都合悪くなったらまた代えたらいいし。』『ありがとう。僕ね、』?はよ言え。『やっぱり君が大好きだ。大好きだよ。』…いや、あのな、なんていうかなあっ。…たぶん一生交わらないな。『やっぱり君の写真欲しいな。ずっと見ていたい。』あー…。あー…。(あたしはクビがかゆい。)『わかったわかった。こんど会ったときにイッパイ撮ればいいよ。』
『逢えないんだ、』え?
『ごめん、ごめんね、でももう逢えないんだ。』
そのときなんでそう思ったのかはわからない。でもふっと浮かぶように届いたんだ。…もしかして、死んじゃったのか?
空からサーっと雨が落ちてくるのがわった。暗い夜の狭い窓から少しだけ見える空から、サーっと雨が落ちていた。
『写真送るよ。今から撮るから。』写真を送らなかったのはマジで撮ってなかったから。自撮がイヤでだから苦手で1枚も今もないから。でも撮る。今度は撮る。あたし撮るよ。背景が平たくて白っぽいところを探す。カシャッカシャッ『送るね。そうだ、一緒に写ろ?おいでよ。』半分開けてカシャッカシャッ。ちゃんと入ってる?引っ付くんだよ。カシャッカシャッ泣いてたらダメだよ。記念の写真は笑顔で、だよ。そうだ!『あたしね、明日スマホ代えようと思ってたんだ。このスマホ置いとくからさ、あげるよ。写真いっぱいにしておくね、』
『ありがとう、』
カシャッカシャッ
『ありがとう、ありがとう。』また泣いてる。
「じゃこちらになりますね。前のスマホは…?」
「あ、持って帰ります。」
新しいの実はiPhoneにしたのだ。ちょっと欲しかったから。
前のスマホ、可愛い紙袋に入れて家の机んとこ置いといたんだけど、いつの間にか無くなってた。
ちゃんと持ってったのかな。
いつまでもシクシクシクしてたらダメだぞ。
ほら、あんたは知らないだろけど、お泊まりした朝にさ「おはよう、」て言ったあんたの笑顔が最高だったんだよ。あたしもほんとにシアワセってなったんだ。
ねっ。
元カレモドキにスマホをトられる。 中川さとえ @tiara33
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