死告獣《しこくじゅう》に復讐したい僕と怠け者な師匠

秋月

第1話 死告獣と僕

 死告獣しこくじゅうという魔物がいる。


 村や街の近くに現れては病や災害を起こし大量の死者を出す厄介者で、国からもこいつを見つけた場合はすぐに駆除するか衛兵に知らせる決まりがあるくらいだ。


 僕の村もこいつに滅ぼされた。


 あの日僕は山で山菜を取っていて、そこで死告獣しこくじゅうを見つけた。

 そいつは夜中みたいな真っ黒い毛並みの狼みたいな姿をしていて、金色に光る目が特徴的だった。


 見つかったら食われてしまう。


 しばらく物陰に隠れて様子を見ていたら死告獣がこっちを見た気がして、思わず走り出して戻ったら村は、村だけじゃなくて家も母さんも、皆何もかもなくなっていた。


 あの死告獣しこくじゅうが土石流を起こして皆を殺したんだ。


******


 部屋の前に立って、一度深呼吸してから僕は持っていたフライパンにお玉を打ちつけてガンガン鳴らしながら思い切り叫んだ。


「師匠! 師匠ー!! もう朝過ぎてお昼です! いつまで寝ているんですか!!」


 あの後行く当てもなく彷徨っている時に出会ったのが師匠だった。

 襲ってきた山賊を剣であっさり倒して、怪我をしていた僕を何も聞かず魔法で綺麗に治してくれて……。


 その強さと優しさに憧れて、この人みたいな力があればあの死告獣しこくじゅうを倒して家族や村の皆の仇も取れるとその場で頼み込んで弟子にしてもらった。


 それが間違いだったと気づいたのは三日後。


 この人、めちゃくちゃだらしないというか、怠け者だった。

 大体いつも寝ていて、部屋から出てこない。家のない僕は師匠の家に住まわせてもらっているけど、三日ぐらい会わないなんてザラにある。


 というかこれだけだらけた生活しておいてあんなに強いって何かズルい。

 今だってドアに結界魔法張られていて開ける事が出来ないから、大きな音を立てて叫ぶ事しか出来ない。


 本来なら魔物が入ってこないようにする為の結界魔法をこんな事に使うのは師匠ぐらいだ。


「あー、はいはい。起きます起きます、起きてますよっと」


 十分ぐらいフライパンを叩きまくって叫び続けて、ようやく師匠は部屋から出て来てくれた。

 酷いと三十分かかる時があるし、最悪出てこない時もあるから今日は早い方だと思う。


「うわ、髪ボサボサじゃないですか。早く顔洗ってきてください、食事はもう出来てますから。とうに冷めてますけど」

「へーい」


 寝ぼけているのか師匠は少しふらつきながらも顔を洗いに家の裏にある井戸へと向かっていった。

 最初こそ心配していたけど、三年も一緒に暮らしていればそれは無駄だと悟った。


 あの人は寝ぼけて派手に転けようが、うっかり井戸に落ちようが絶対怪我をしない。むしろ助けようとしたこっちが捻挫したり酷い目に合うから近づかないのが最善。


「流石に顔洗うと目ぇ覚めるな、このままベッド入ったら気持ちよく寝れそう」

「もう十分寝たでしょう。それより早くご飯食べてください、髪は僕がやりますから」

「はいはい、いただきますっと」


 師匠の朝ご飯(もうお昼だけど)はトーストに目玉焼きとベーコン。

 野菜は絶対食べないから入れない。最初こそあの手この手で食べさせようとしていたけど、どんなに細かくしようが好物の肉料理に混ぜ込もうがすぐに気づいて一口も食べなくなるからこっちが折れた。


 師匠が食べている間に師匠の髪をといて一つに括る。

 師匠の髪は結構長くて背中ぐらいまである割にまとまりはいい。寝起きはボサボサなのに、くしは引っかからず一回通すだけで綺麗になった。


 僕も師匠と同じ黒髪なのに全然違う。


「ご馳走さん、っと。さて、腹も膨れたしちょっと寝てこようかな」

「今起きたばかりなのにもう寝るんですか?」

「食後の昼寝はまた違うんだよ。今日は天気もいいし外で寝るのもいいかもな」


 この人このまま放っておいたら食事もせずに一日中寝てそうだな。


 好き嫌いも激しくて、野菜は絶対食べない。勿論料理はしないし掃除もしない。


 僕が来るまでどんな生活していたんだろう……?


「って、寝るんだったら僕に剣や魔法を教えてくださいよ!」

「眠いからヤダ。また今度な」

「そう言ってもうどれだけ経ったと思っているんですか!」

「えー? じゃあ自主練頑張れ」

「師匠!!」


 本当、この人の弟子になったのは間違いだったかも……。

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