Case7

 武術の体験ができて少し浮かれ始めた妻は、正面を向いてまた右に左にステップを踏み、ダンスをしばらくしていたが、目を閉じた。


「後ろから抱きしめて!」

「イェーイ!」


 何をしてくるのか。颯茄はそれを考えると、ワクワクするというよりもドキドキに襲われるのだった。足音が近づいてくる。それは少し早歩きのようで、頭の中で候補を絞り始めるが、一番最初のゲームを思い出した。絞りすぎて、正解を見逃したことを。


 プルプルとかぶりを振って、硬くなった頭を柔らかくする。誰がくるのか。耳をすましていると、足音が止まった。体の右側だけに腕が巻きついたかと思うと、フワッと体が浮いた。


「っ!」


 思わずびっくりして、目を開けようとしたが、静かにまぶたを閉じたまま、颯茄は考える。今、床はどっちになるのか。重力のかかる方向を見極めると、どうやら背中にあるようだった。ということは――


 お姫様抱っこされている!


 誰だ、こんなことをするのは。颯茄は焦る思考を何とか落ち着かせ、今までの夫たちを上げる。


 貴増参、蓮、光命、焉貴、夕霧命、張飛。


 となると、残りは――


 月命、孔明、明引呼、独健だ。


「残り三十秒!」


 そこで、颯茄はこのゲームを違う視点で見ることを思いついた。それは、どうやったら妻に気づいてもらえるかが勝利への道だ。つまり、目立つことをすればいい。


 そんな考え方をするのは、残りの中で、月命と孔明だ。そうなると――


「孔明さん!」

正解せいか〜い!」


 ふんわりと春風が吹いたみたいな声が聞こえると同時に、颯茄はまぶたを開けた。凛々しい眉をした孔明がこっちを見下ろしている。


「くるくるくる〜!」


 颯茄をお姫様抱っこしたまま、孔明はその場で回り始めた。


「いやいや、何で遊んでるんですか?」


 妻は無事に床に降ろされ、


「ふふっ」


 春風みたいに微笑む孔明は、颯茄の前に回り込んでくると、紫のタキシードを着ていた。漆黒の長い髪が艶やかさを匂い立たせていた。


「それでは、誓いの言葉を……」


 いつも凛々しい眉は、男らしさを精一杯表現するようにキリッとして、孔明の声色から柔らかいものは消え去った。


「俺はお前のことが好き。お前は俺のことが好き。神様がめぐり合わせてくれたことは、どんな策にも敵わない。それでも……」


 孔明はふんわりとして雰囲気に戻った。


「ボクは颯ちゃんが笑顔でいることがとっても嬉しい。これからも笑顔で生きていこう」

「相変わらずわかりづらいというか、策が張られている」

「ふふっ」

「でも、そういうところも好きです」


 颯茄は口づけを受けると、エキゾチックな香の匂いが体の内側へ入り込んで、愛撫するようだった。


 孔明が離れたところへ、


「理由は何すか?」

「これはちょっと難しかったんですけど、結局、この最終目的って、私にどうやってわかってもらうかですよね? だから、目立つことをした方がわかりやすくなるわけです。そんな理論と可能性で測ってくるのは、光さんと焉貴さんに孔明さんと月さんの四人しかいないわけです。光さんと焉貴さんはもう終わってます。そうすると、孔明さんか月さん。お姫様抱っこは、私はされたら嬉しいしと思う。つまり成功することを選んだから、孔明さんってわけです」


 颯茄が説明を終わると、ずれてしまったベールを孔明が優しく直した。

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