Case2

 颯茄は一問正解したのが嬉しくて、その場で右に左にステップを踏んで踊り出した。いつまでもかけ声がかからず、時間が無駄に過ぎていきそうだったが、満足した彼女は目を閉じて叫んだ。


「後ろから抱きしめて!」

「イェーイ!」


 そして、静寂がやってくると、足早に近づいてきた。さっきとは違ってぶつかるのではないかと言う勢いてやってくる。


(誰?)


 腕が巻きついてくる感触を待っていたが、すぐ近くで足音は止み、パシンと後頭部を殴られた。


「痛っ!」


 妻のウッキウキ気分はあっという間に消え去った。


「蓮」

「ふんっ!」


 幸せいっぱいのチャベルではなく、殺伐をしたものになっていた。


「正解っす!」


 頭をさすりながら、颯茄は目をかっと見開いた。勝ったという顔でのそ着込んできた蓮を、彼女はきっと睨み返す。バチバチと火花が散り始めたが、他の旦那たちが忠告した。


「キスは?」


 颯茄と蓮は何とも言えない顔になり、気まずそうに視線をそらした。キスをするような気分ではなく、今は喧嘩したいのである。純白の服を二人とも着ているが心がバラバラみたいだった。


「ルールはルールです。きちんと守ってください」


 光命が言うと、蓮は気まずそうな顔をしたが、すぐに真顔に戻り、颯茄のあごに手を添えた。しかし、祭司が待ったの声をかけた。


「誓いの言葉を……」


 蓮は軽く咳払いをし、あちこち眺めながらなぜか言いづらそうにしていたが、


「いつまでもそばにいてやる、ありがたく思え」


 俺さま全開の言葉だったが、妻はなんだか子供みたいに可愛く思えて、素直に頭を下げた。


「はい。お言葉に甘えます」


 軽く唇を重ね、一番馴染むキスをした。何とか無事にゲームは終了したが、焉貴が純真無垢でありながら猥褻な雰囲気て言った。


「今のって、お前の作戦だった?」

「……………………」


 蓮は何も言わず動きもせず、そのまま立ち尽くした。そして、颯茄と焉貴の声が重なる。


「ノーリアクション、すなわち、予想外」


 旦那たちから笑い声が上がった。考えていなかった。妻が浮かれているのがただ気に入らなかっただけなのだ。


「理由を教えてくれっす」

「妻を引っ叩く旦那は、蓮しかいないからです」


 みんなからまた笑い生まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る