後ろから抱きしめて!

明智 颯茄

結婚式をもう一度

 冬の穏やかな日差しが入り込む談話室に、旦那十人が集まっていた。それぞれのお茶を楽しむひととき。袈裟を今日も着ている張飛がみんなの前に立った。


「今日は、俺っちがみんなに提案があるっす」

「何だ?」


 みんなに聞き返されると、張飛は少し照れた顔をしながら説明を始めた。


「俺っちとの結婚式をあげてから、三ヶ月が経つっす。そろそろ、颯茄さんもみんなと仲良くなったんじゃないかと思うっす」

「だいぶ慣れたんじゃないかなあ?」


 ソファーにけだるく腰掛けていた孔明は、妖艶に足を組み替えた。ニコニコのまぶたにいつも隠れている、月命のヴァイオレットの瞳が姿を表す。


「君がそちらを言うんですか〜?」

「お前が混乱させてたらしいって聞いたぞ」

「会うたんびに、言葉遣い変えて話してたって聞いたぜ」


 独健と明引呼からも意見されて、孔明は春風が吹いたみたいに可愛げに笑った。


「ふふっ」

「しかしながら、颯茄は前向きに取って、ついていこうとしていましたよ」


 妻のそばにいつもいる光命は一部始終を見ていたのだった。貴増参はふむと感心してうなずく。


「さすが我妻です」


 夫十人の胸の内に、あの妄想が暴走する妻がそれぞれの角度から脳裏に浮かんでいた。再び、張飛に話は戻ってきた。


「それで、俺っちゲームを考えたっす」

「どういうのだ?」

「結婚式場でやるっす」

「式場って、遊びで貸してくれるの?」


 孔明は訝しげな視線を張飛に送った。この夫ときたら、何でも前向きに取りすぎて、神聖なる儀式のルールまで曲げかねないのだ。


 張飛は顔の前で手を違うと横に振った。


「遊びじゃないっすよ。みんなの愛を確かめる儀式っす」

「愛を確かめる?」


 全員がお茶を飲んでいた手を止めた。


「颯茄さんを後ろから抱きしめて、誰だか当ててもらうっす。そして、当たったら、キスをするっす」

「当たらないと、彼女とはキスもできず、心が離れていることを知る寂しいセレモニーになっちゃいます」


 貴増参は感傷的に胸に手を当てて言った。策士の光命がおもむろに口を開く。


「当てていただけるようにしなければいけませんね」


 抱きしめただけで当ててくるのは難しい。ならば、当ててもらえることを旦那としてもしなくてはいけなくなるのだ。


 教師として、生徒の可能性をいつも見続けてきた焉貴が待ったの声をかけた。


「これ、大丈夫? あれ、できんの?」


 険しい表情をする夫たちの中で、夕霧命がしっかりと肯定した。


「できる。霊感は気を読むのと同じで、チャンネルが違うだけだ」

「そう」


 焉貴はそこにどんな感情があるのかわからないうなずきを返した。


「霊感って、極めるとすごいかも?」


 孔明が可愛く小首を傾げると、漆黒の長い髪が肩からサラッと落ちた。焉貴はさっきから一度も言葉を発していない夫――蓮に顔を向ける。


「お前、さっきから黙ってるけどいいの?」

「お前らの好きにしろ」


 超不機嫌な顔で俺さま夫は言い放った。


「蓮は自信があるのですか?」


 光命の問いかけに、蓮はひとりがけの椅子で華麗に足を組み替え、


「はずすはずがない」


 態度デカデカだったが、張飛が鋭くとらえた。


「そうっすか? 十人いるっすからね。蓮さんが結婚した時とは違ってるっすよ」


 すると、蓮はそれきり何も言わなくなり、微動だにしなかった。


「……………………」

「ノーリアクション、すなわち、心配中!」


 焉貴が翻訳すると、蓮に集中していた視線がばらけた。


「彼女の人を見る目も知ることができます〜。どれほど優れているんでしょうか?」


 教師の月命としては妻の成長はやはり楽しみなのだ。


「みんな賛成っすね。じゃあ、さっそく式場の手配とゲームの詳細を話すっす」


 張飛が言うと、みんなカップを置いて耳を傾けた。

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