第十二話「ゲームと現実」

 Side 城咲 春歌


 両者の激突。


 真正面からの斬り合い。


 春歌は半ば捨て身で、相手に攻めかかる。


『勢いだけでゲームには勝てないよ』

 

 平静を保とうとするが言葉に怒気ガ含まれているユウギ。

 槍を振るい、春歌の攻めを捌き、受け流し、吹き飛ばして、逆に攻めに転じようとするが

 

『ッ!?』

 

 サクラブレードではなく、拳銃型武器であるハートブラスターを顔面に浴びて怯む。

 そのまま銃撃しながら春歌は近づき、サクラブレードで何度も斬り裂き、ユウギのスーツに火花が飛び散る。

 

『調子にのるな!』


 槍で払い除けようとするが――


『なっ!?』


 それを受け止める春歌。

 そして春歌のスーツの胸部の丸い突起物が開口し――


「レヴァイザーバスター!!」


 至近距離から両者を巻き込んでの光線技が放たれた。

 とうぜん二人とも吹き飛ばされる。


『こんなメチャクチャな戦い方――クソ――なぜだ。なぜ押されている!?』


「命の価値も分からない奴に私は負けたくないだけです!!」


 ユウギの疑問に春歌はこう返した。


『命の価値だって!? 命なんて一つしかないのは分かっている! だから命を懸けて戦いに身を投じている!』


「なんとなくですけど分かりました!! あなたは――命の事を理解しているつもりでもまるで理解していない!! どんなに言葉を並べ立てても王渡 志輝と根っこは同じです!! あなたはただ安全圏から自己満足に浸ってるだけです!!」


『安全圏? 自己満足? なにを勝手に僕のことを理解したつもりでいる!』


 そしてバックルベルトのゲーム機型端末からカセットを取り出し、カセットをチェンジして姿を変える。

 

「姿が変わった」


 赤い武者然のヒロイックな姿から今度は赤い昭和の無骨なスーパーロボットのような姿になった。

 背中にはウイング付きの酸素ボンベにも見える昭和ブースター。

 ロケットパンチとか出しそうな豪腕。

 胸部の板から光線を放ちそうだ。



『これで決めるよ』


「ッ!!」


 目から光線。

 両腕のロケットパンチ。(いわゆるマトリョーシカ式で放たれたパンチの中には腕があった)

 腹部からの小型ミサイル。

 

 それを避けて距離を離し、春歌は空中に飛び上がって手に持った銃ハートブラスターを撃つ。


『効かないね』


 しかし相手に効いた様子はまるでない。

 ならばと顔面に向けて乱射しつつ負けじとサクラブレードで斬りかかる。

 それをユウギは右腕で受け止め、サクラブレードが弾かれる。

 その瞬間を狙って殴り飛ばす。


「まだです!!」


『!?』


 しかし殴り飛ばされ、建物に激突しようとした瞬間、見事に春歌は態勢を建て直して着地。

 再び斬りかかる。

 ユウギは迎撃しようとするが春歌は回避して上方のすれ違い様に肩を切り裂く。

 そのまま何度も何度も何度もスピードを活かして切り裂いていく。



Side 大道寺 リュウガ


「桜レヴァイザー!! 想定を越えるスペックを発揮してます!!」


「凄いけど一体なにがどうなって――」


 春歌の想定外の奮戦に司令本部は困惑していた。


「妖精石・・・・・・人の意思に反応する鉱物だとは効いていたがまさかこれ程とは――」


 と、リュウガは推論を述べる。

 

 同時にこうも思った。


(元々、桜レヴァイザーの動力である妖精石は複製品ではあるが、異星人相手に十分過ぎる程の戦闘力を発揮する鉱物だ――)


 リュウガは(それに)と続けてこうも考えた。


(ブレン軍との戦いの時――形態変化を起こして巨大ロボットを粉砕した時もあったと言う――恐らく今の春歌はそれに近い事を起こしているのだろう)


 と、結論づけた。



 Side 城咲 春歌

 

『どんどん強くなって――こんな事が!? こっちはレベルMAXの筈なのに!?』


「それがどうしたんですか!?」


『なに?』


 春歌は攻撃の手を緩めて立ち止まり、ユウギは片膝をついてその場に蹲る。


「戦ってみて分かりました。あなたにとって戦いは遊びだったんですね」


『なにを――』


「そしてアナタは段々と理解している。自分が遊びだと思っていた行為は段々と恐ろしい行為だったんだと」


『なにを言っている!?』


「だから止めます! この危険な遊びからアナタを!!」


『知った風な口をきくなああああああああああああああああああ!?』


 ユウギの化けの皮が剥がれた瞬間だったのかも知れない。

 空中に逃れて目からの光線、ミサイル、ロケットパンチ―、胸部からのビーム。

 しかし春歌は急上昇してそれを避けて、一気にサクラブレードを――ピンク色のオーラ―を身に纏って縦に一閃。


『あ――』


 ユウギは火花を散らしながら地面に倒れ込み。

 爆発する。

 ユウギは生身の状態に戻った。


「終わったわね」


 舞も戦いを終えたのか春歌の傍による。


「ええ――」


 そしてユウギに歩み寄る。


「そうか――負けた――のか――」


「はい。あなたの負けです」


「なら、仕方ないな」


 そう言って手には何かが握られていて――春歌は瞬時にそれを奪い取った。


「この後に及んでなにをしようとしてたんですか!?」


「邪魔をするな――ゲームオーバーになったんだ。あとは死ぬしか――」


 春歌は変身を解除してユウギの頬を引っぱたく。


「どうして死のうとするんですか!? どうして現実までゲームに置き換えようとするんですか!?」


「それでしか生きられなかったから――」


 ポツリポツリとユウギは語り出す。


「家はメチャクチャで――僕が生きるには、僕の居場所はゲームしかなかった――もしもゲームにも居場所がなくなったら死のうと思った――」


「だから現実をゲームに置き換えて?」


「――僕はどうなる?」


「話を聞かせて貰います。それから司令に頭を下げてでも更正させます。それとこの変身アイテムは没収させてもらいます」


「そう――」


 これで決着。

 そう思った。


『いけないなぁ――自分で決めたルールを自分で曲げちゃあ』


「あなたは!?」


 王渡 志輝だった。

 昨日に続いて再び現れた。

 パワーアップ形態ではなく、まだ騎士然とした姿だ。


 舞が庇うように立ち塞がる。


「殺しにきたんだね?」


 ユウギはどうして現れたのか察しがついたようだ。


『ああ。自害することもできない哀れな君をね』


 と言って歩み寄る。


「なにが哀れなんですか!? アナタもユウギ君も間違ってます!!」


『ははははは! 君は教師向きの人間だね!』


「もう・・・・・・いいよ・・・・・・僕が命を差し出せば終わる話だから――」


 そう言ってユウギはゆっくりと立ち上がる。


「なにを言って――」


「疲れたんだ――この世の中のなにもかもが――」


 再び春歌は、泣きながら頬を叩いた。


「だから死ぬんですか!? 自暴自棄になって自己満足に浸って! そんなの私が許しません!」


「僕は――」


 王渡 志輝は背を向けて立ち去ろうとしていた。


『その子は好きにするといい。どうやら僕の知っている問坂 ユウギは死んだみたいだからね』


「どう言う風の吹き回し――」


『言葉通りの意味さ――また会おう』


 彼はその場から素早く立ち去った。



 問坂 ユウギは変身アイテムは没収。

 事件の重要参考人として捕縛された。


 そして春歌はと言うと――


「私――今になって震えが・・・・・・とても恐かったです」


「春歌ちゃん・・・・・・」


 無理を押し通して変身して助けに入ろうとしていたらしい猛に春歌は抱きついて泣いていた。 


「正直無我夢中で――自分でも何を言ってるんだろうと思って――とにかく本当に恐かった」


「それが普通だよ春歌ちゃん・・・・・・強くなったんだね」


「でも私は――」 


「いいんだよそれで――」


「猛さん・・・・・・」


「それにとても格好良かった」


「と、突然なにを言い出すんですか?」


 甘ったるい話の流れが不意に変わったのを感じ取って春歌は顔をあげる。


「春歌ちゃんの台詞とか全部本部のデーターベースに記録されてるから」


「そ、そう言えば――」


 そこまで訊いて春歌は顔色が真っ青になった。

 戦っていた場所は本部の敷地内。

 だから戦いの様子から音声までも容易に記録できる。

 

 自分が叫んだ、後から聞くと恥ずかしい台詞の数々も当然記録されているわけで――


「本部の人達も春歌ちゃんの言葉聞いて褒めてたよ」


「あ、ああ、あああああああああ!! そ、そんな、恥ずかしくて――と、止めないと!!」


 春歌は司令室に駆け込んでいったが時既に遅く、大画面であの時に言った自分の言葉の数々を改めて聞いて悶絶するのであった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る