掌編小説・『七夕』
夢美瑠瑠
掌編小説・『七夕』
(これは2019年の七夕に、アメブロに投稿したものです)
掌編小説・『七夕』
<七夕伝説をね、コラージュしてスペースオペラを作りたいと思って・・・>
映画の企画会議だった。辣腕のプロデューサーだの、才能が認められているシナリオライター、有名な映画監督、映画会社の宣伝部長、芸能プロの社長、テレビのコメンテーター、熟練のカメラマンや演出担当予定ののベテラン映画人、文学座の座長、 その他映画製作に長年携わってきた錚々たるメンバーが面子をそろえていた。
<スペースオペラである必然性は?ファンタジーじゃダメなのか?>
<青春物が最近流行っているやろ?高校生を主役にした映画が何かウケとるやないか?二番煎じは嫌でーオリジナリティーを出したいんだよ。天の川、というのは銀河だから壮大なイメージがある。飛躍するみたいだが、その天の川を本当に舞台にするとなると・・・スペースオペラになる・・・そういう発想なんですよ。ミュージカル仕立てにしてもいい。僕はディズニー映画みたいなバタ臭くておしゃれな世界を描きたいんです。>
<なるほどなー銀河を超える愛、とかそういう話だとアメリカっぽいSFになるよなーだけど日本の映画だと特撮の技術で本場にはかなわない。そこでちょっと正攻法じゃなくて一種のコラージュを施すということかな?>
<そうなんです。芸術映画にしたいんです。様式美というのか・・・日本の伝統的な能だの歌舞伎だのは欧米に置き換えたらオペラです。ちょっと大時代なーリアリティというよりアートなアブストラクトな、そうしたコンセプトで、七夕という古典的な民話、説話をモダンに換骨奪胎して、しかしやはり巷の紅涙を絞るというような感動は欲しいわけですよ。そうだなあ・・・講談とか、琵琶法師とか、紙芝居とか、そういうフレームだというコンセンサスがあればその中で観客は一喜一憂するわけですよね。そういう約束事の世界を演出することで七夕というみんなが好きなロマンチックな行事の品位を損なわずに済むわけです。>
<映画の品格ですか・・・>
笑
<あと、大体話は分かってきたから、ブレーンストーミングにしますか?>
映画監督がそう提案した・・・
<・・・ じゃあ宇宙が舞台なわけだね?スペースオペラというのはつまり西部劇みたいに宇宙をフロンティアに見立てていたりするわけかい?>
<そこいらへんで自由で奇想天外な斬新な発想が欲しいんですよ。人間とエイリアンの恋でもいいんですよ。ケンタウロスの牽牛とか、スターウオーズ的な悪の帝国のプリンセスが織姫とか・・・SFとかファンタジーならではの日常の固定観念みたいなものを呆気なく打破する痛快なイマジネーションの飛躍が欲しいんです。基本ユーモラスな発想で、ストーリーは七夕ベースのメロドラマ・・・そういう奇抜な設定の中にほろりとするようなペーソスがあって、それが洗練されたエンターテインメントになる感じが欲しいんだなあ>
<なるほど、センスオヴワンダープラス小津安二郎とかね、娯楽が映画の本質だからね、サーヴィス精神は大事だよな。
<映画だとチャップリンとか、ディズニーとかクロサワとかスピルバーグとか宮崎駿とか、メルブルックスとかゼメキスとかキャメロンとか、ルーカスにコッポラにスタローン・・・無数の名作のイメージとかストーリーがこう、人類にはね、既に共有されていて・・・そういうものを全部パロディにする笑いでもいいんだよなーメタ映画というのか・・・大人の笑いになるよな>
<映画という芸術への「オマージュ」ですか>
笑
<具体的にストーリーを考えてみると、まず悪の帝国というのがあって・・・これをヒーローとヒロインの妨害者にすると過剰移入しやすくなる。二人の逢瀬には何か崇高な目的があって・・・勧善懲悪にもっていくわけですね。>
<うん、その基本のプロットにに七夕の悲恋という感じを絡めて泣かせるいい話にすればいいんだな>
<あとは人物造形か・・・だいたい七夕ってどういう話だったっけ>
<僕も詳しくは知らない>
<えーと・・・割と単純ですね・・・基本の流布されているのは織姫というのは天帝の娘で、・・・>
<やっぱり悪の帝国なんだな>
笑
<えー織姫は働き者で、神様たちの着物を織っていて、やはり働き者の牛飼いの牽牛と結婚させてもらうのだが、美男美女の二人が仲が良すぎて仕事をしなくなったので
天帝が怒って仲を裂いて天の川の両岸に離れて住まわせた。ただ不憫なので一年に一度だけ会うことを許した・・・そういう話で、もし雨が降ると織姫が涙を流すので、その雨を催涙雨、とかいうそうです。>
<じゃあ大分脚色しないトナー>
みんなちょっと押し黙ってさまざまに面白そうなストーリーの展開を頭に思い描き始めた・・・
<悪の帝国だからダース・ベイダーを彷彿させればいいよな。大艦隊を率いて宇宙を征服するという野望を抱いていて・・・>
<いいですね。気宇壮大だな>
<天の川というのはギャラクシーで、土星の輪みたいな惑星帯にすればいいな。駆逐艦の艦砲射撃で露払いしつつ横断するというような難所なわけですね。向こう岸には銀河系宇宙内の一種の「辺境民族」がいて悪の帝王がそこを制圧しようとして遠征をくりかえしているト>
<肝心の織姫と彦星はどういう設定なんやろか>
<彦星は敵側の間諜なわけですよ。つまりスパイ。人工衛星の中で惑星帯の宇宙船とか放射能で新種の牛もどきの動物資源の開発をするという仕事をしている。・・・これはつまり世を忍ぶ仮の姿なわけです・・・>
<なるほどー>
<織姫は帝王の娘で、特殊な繊維を開発するという研究をしている。惑星帯の有害な宇宙船や電磁波から体を守る繊維なんです。これは本当にそうで、帝王の娘だからと言って箱入りのお人形さんみたいにはなりたくない、という考えの、聡明で自立心が旺盛ないい娘だということなんですね。偶然ヴィジフォンが混線して、二人はお互いに知り合って、研究者同士だから気が合って、頻繁に連絡を取り合うようになるんです。もちろん絶世の美男美女で、お互いに一目ぼれしてしまうということにします。やがて、娘の織姫にそういう仲の、素敵な男性が現れたということを打ち明けられて、悪の帝王は、娘が見初めた男に会いに行くことにすると・・・で、スパイだとは夢にも知らずになかなか立派な男だと思って結婚を許すんです。
<スペースオペラというのはどこら辺になるんですか?>
<ところどころでね、劇中歌を挟めばいいんじゃないか?ムードを盛り上げるような美しい曲を俳優が自分で歌うんですよ。それだと歌える俳優でないとだめだなー>
<ええ、そうですね。歌える俳優と言って、歌のうまい美人歌手とかをキャスティングすれば一石二鳥で話題性もある感じになるなあ。>
<いい、それはいいわ、大物を起用すればいい。ミリオンセラー歌手の○○子、新作映画で新境地を開く!とか芸能ネタとしたらドンピシャやな>
<で、その後どうなっていくの?>
<やっぱり壮大な戦いのシーンというかそれは必要なんじゃないかなあ・・・
<宇宙に舞台持って行ったという必然性というか呼び物というか特撮の戦闘シーンがなきゃSFじゃない、ですよね>
<起承転結、で発端の設定の後に二人の主人公の結婚があって、転、はスパイであることがバレて、二人はつまり若木を裂かれる、という感じになるしかし、祖国を裏切るのなら宇宙年の一年に一遍だけ逢うことを許す、とそういう約束をするんです。ところが、折も折に宇宙暦の改正法というのが宇宙連盟の中央行政局を通じて施行発布されて、その通知が来る。それでなんと宇宙暦の一年のうちの一日というのが 地球の時間だと80年に該当するようになった。そうしてその日はちょうどその約束の7月7日だったと・・・>
<なるほど、まあ面白くないこともない>
<で、結、なんですが、いよいよ辺境のそのアルタイル民族というのを最終的に滅ぼそうというそういう戦いが起こる寸前に、彦星は、祖国愛というものに敢然と目覚めるわけです。で、泣いて引き留める織姫を振り切って、祖国の星と共に自決すべく決戦の場に身を投じる・・・>
<ええ話になってきたやないか>
<どんでん返しなんですよ。で、取り残された傷心の織姫がメインテーマを絶唱して・・・ジ・エンドになるわけですよ。>
<ええなあ、見応えがありそうやないか>
<ハッピーエンドにはならないほうが七夕物語らしいね>
<じゃ、まあ大まかな目途がついたんで今日はこの辺で>
<ありがとうございました>
<ごくろうさん>
<ごくろうさん>
・・・一同散会。
<終>
掌編小説・『七夕』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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