第64話 ガーネックの執事さんと、盗賊さん
裏で、何かをやらかしているに違いない。
そんな印象を持たれる、ちぐはぐに豪華なお屋敷は、自称・善良な金貸しのガーネックさんのお屋敷である。
お部屋などは、さらに悪趣味で豪華だ。
3人が話し合っていた。
「レーバス様、もう、お戻りには………」
「レーバス様………出て行くって、本当なんですかい」
目が死んだような二人組は、恐る恐ると、質問を口にした。
死に神です――
そんな印象の執事さんは、名前をレーバスという。ここ、ガーネックのお屋敷の執事さんだ。
「金払いだけはよかったが、ガーネックは、もう終わりだ」
お金という、とてもはっきりしている主従関係のようだ。
すでに、見捨てる決断をしているらしい。 ただ、目が死んでいる二人組には、それなりに情があるのだろう、丁寧に忠告をしていた。
「見せかけなど、通じない存在がいるのだがな」
執事さんはあきれたように、豪華な部屋を見まわした。
ガーネックの
さらに、机の上の宝石箱の中身は、本物の金銀財宝だ。いざとなれば、この宝石箱を抱えて逃げればよい、小さな屋敷を購入できるほどの財宝だ。
そこで、再出発をすることも、出来るだろう。
逃げ出すことが、できれば――だ
「昨夜、この部屋を物色していたのが何者か、それは知らん。宝石の輝きを隠さない間抜けだが、問題はそこではない。問題は――」
バカさ加減を思い出して、レーバスさんはため息をつく。
執事として屋敷に住まっていく年月、忠誠心が芽生えるような出来事はなく、それでも、せっかく手に入れた住まいであるために、それなりに頑張っていたのだ。
大変なことをしてくれたものだという、ため息が出てしまった。
「昨日の………ねずみのことですかい?」
「ねずみ………あの、うろちょろとうるさい………」
目が死んだような男達は、このガーネックのお屋敷で、下働きをしている。
一人は、察しがよくないらしい。文字通りの、ちょろちょろと歩き回るねずみ君の姿を想像しているようだ。
体格は悪くない、ウラ路地でこの二人がコンビを組んですごめば、チンピラも逃げ出すだろう。
そんな二人が恐れる執事さんも、何かを恐れているのだ。
ため息交じりに、つぶやいた。
「………昨日の宝石の輝き、アレは、魔法の力によるものだ。下っ端でも、魔法の宝石を持つ人物が現れたとなると………もう終わりだ、ここは」
執事さんは紙を一枚取ると、一筆、走り書いた。
――契約は、ここまで。
文面は単純であったが、逃げ出すということだ。
ここで、ガーネックに目を覚まして欲しい。そういった、気遣いや忠誠心は、欠片もない。ただ、言葉通りの意味であった。
契約は、ここまでだと。
「己の分をわきまえねば、身を滅ぼす。忠告してやったのにな………お前達も、覚悟を決めておけよ。そこの、ねずみもな」
手紙を置くと、レーバスは天井を
目が死んだ二人は、まだ気付かない。ぼろ布が一枚、ぶら下がっていた。
「ねずみって………オレっちのことか?」
天井から、ぼろ布を顔に巻いた若者が、舞い降りた。目が死んだ二人組みは驚いていたが、レーバス様、すでにご存知だったようだ。
「ドブネズミなど、匂いで分かる。毎晩ちょろちょろとうろついて、気付いていないと思ったのか、天井裏にまで潜みおって………駆除したくなる」
瞬間、レーバス様の背後で、物音がした。
びくりとして、思わず物音を立てたらしい。
「ねずみって言えば、昨日の………あんたが動いたから気付いたが………メジケルだっけ。知り合いか、あんたと、ちょっと似てる――」
気まずさから、話題を変えようとした。
会話術としては悪くないのだが、ぼろ布の若者は、失敗を自覚した。
過去を探っただけで、命が失われることもある。だが、自分がそうなりたいわけはない。
とっさに黙ったのは、ぼろ布の若者が、バカではない証拠だろう。
レーバスは、ため息をついた。
「バカとは、お前達だ………ドラゴンの神殿から財宝を盗むなど………ただの財宝ではない、献上品が保管されているとでも、勘違いしたのか?」
ドラゴンの神殿は、複数の国にまたいで影響力を持ち、財宝の匂いを感じ取る愚か者が現れても、おかしくはない。
実際に、財宝は存在するのだ。
人々が財宝を献上したわけではない。ドラゴンの宝石とは、そういったものではないと、レーバスさんは恐れた。
「バカの巻き添えを、二度もこうむるつもりはない。オレは、この屋敷と縁を切る。そして、お前らもだ。………俺を、巻き込むな」
お願いであり、脅しであった。
レーバスは言い終わると、静かに扉を開けて、部屋をあとにした。
残された盗賊たちは、しばらく見つめ合って………
「おいベック、怖い執事さんはいなくなったぜ、出て来いよ」
見つからないようにしていたにもかかわらず、わずらわしく思われた、気分次第で駆除されたと知ったのだ。
見張っていたつもりで、見張られていたと。
「――デナーハの兄貴………おれ、この仕事が終わったら、足を洗う。田舎で、芋を育てて、芋焼酎でも飲んで暮らすんだ………」
「………ベック………お前の田舎、港だろう?」
天井からの情けない声に、ぼろ布の、デナーハの兄貴と呼ばれた覆面の若者は、ツッコミをいれた。
やばい橋を渡っている、不安に思うのは当然だと、余裕を演じていた。
「ベック、引き払おう。倉庫のほうは、オレと運び屋のバドジルで片付けた。さっき、変装のバルダッサがキートン商会の様子を見てきたが………だめだ。売り先は、他を探そう」
「………兄貴、執事さんが行ったとおり、ドラゴンと関わるのはヤバイよ。宝石は置いていこう………あの執事さんが逃げ出すヤバさだよ………」
「密偵のべック………オレらはもう、ドラゴンの神殿から、財宝を盗んじまった………これからは、どっちに転んでも、追われる身さ」
格好をつけて、デナーハの兄貴という若者は、窓から空を見つめた。
引き際をわきまえて生き延びるか、つぶされるかという選択肢は、彼らはすでに持ち合わせていない。
――やるしかない
やっちまった若者が、口にするセリフである。
ヤバイ状況だと、分かっていてもだ。
そう、ヤバイ状況なのだ。
執事さんは、すでに逃げ出した。あれほどの人物が、即断したほど、ヤバイらしいのだ。
これから先は、一体何が待っているのか
冷や汗が、ダラダラであった。
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