タイムマシンで就職活動
田村サブロウ
掌編小説
どんな手を使ってでも理想のゲーム会社に就職したい。
就職活動を通じてタケルが挑んだその願いは、20数個ある最後のゲーム会社の採用試験に落ちたことで夢破れて終わった。
そのはずだったが。
「じーちゃん、タイムマシンができたって本当か!?」
就職活動帰りのスーツ姿のまま、タケルは祖父のガレージに乱入した。
「な、なんじゃいきなり!?」
「父ちゃんから聞いたぞ! じーちゃんがタイムマシンを完成させて、今まさに試用実験するところだって」
タケルの祖父は優秀な発明家である。
彼の発明を何度も間近で見ているタケルとしては、祖父がタイムマシンを完成させたというのは信用できる話だった。
「じーちゃん、そのタイムマシンを使わせてくれ! おれ、今すぐ過去に戻りたい事情ができたんだ!」
タケルは祖父の手前にあるデジタル時計のような機械を指さして言った。
「ま、待て待て! こいつは人の成長を止めてしまう禁断の発明品じゃ! ワシぁ、好奇心で完成させて後悔しているところで、今から壊すところなんじゃ」
「やっぱり、そのデジタル時計がタイムマシンなんだな」
タケルの祖父はしまったとばかりに口を抑えたが、もう遅い。
タケルはカマをかけたのだ。祖父が反応しなければ、デジタル時計のような機械こそがタイムマシンであるとタケルは知らなかったのだ。
タケルは素早い身のこなしでタイムマシンを強奪すると、もう用はないと一目散に逃げていった。
「こら待て、タケル!」
「じーちゃん、タイムマシンはおれが有効に使わせてもらうぞー!!」
タケルの足に追いつける敏捷性も体力もない祖父は、捨て台詞をのこして去るタケルを見送ることしかできなかった。
* * *
数日後の朝。
タケルの祖父は、タイムマシン製作中に余ったパーツを使ってテレビを作っていた。
ただのテレビではない。タイムマシンを使ったタケルがその後どうなったのか、時空の痕跡を追跡して画面に表示してくれるテレビなのだ。
タケルの祖父はテレビを完成させると、さっそくスイッチを入れて画面を起動する。
「……なんじゃい、これは」
画面に写った光景に、タケルの祖父はあきれた。
画面にはタケルが就職活動に挑んでいる様子が映っていた。
彼が受けている会社はすべてゲーム会社。それも、超がつくほどの一流ゲーム会社ばかりだった。
タイムマシンを手に入れる前は滑り止めとして下請けやベンチャー、中小のゲーム会社も受けていたのに、それらを受けていない。
「バカ孫め。事情があるなんて言うからなににタイムマシンを使うかと思えば、就職活動のやりなおしじゃと? あきれてものも言えんわ」
人間性が感じられない目をしたタケルを見ながら、タケルの祖父はぼやいた。
面接試験でタケルはまるであらかじめ質問内容を知っているように質問に答えていた。
その様子は外部から盗み見るタケルの祖父にすら不気味に映っていて、彼と相対する面接官にとってはなおさらストレスであることが容易に想像できた。
「人生ってのは、本来やりなおしが効かないから人は成長できるんじゃ。それを歪んだ力でへたにやりなおしが効いちまった分、傲慢になって成長が止まっちまっとる。そもそもゲーム会社への就職だけに自分の可能性を狭めていることもマイナスじゃな。あの分じゃ採用は永遠に無いじゃろ。心が折れて帰ってきたら説教じゃ」
タイムマシンで就職活動 田村サブロウ @Shuchan_KKYM
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