にんじん

楸 茉夕

プロローグ

 プロローグ


 彼はずっと悩まされていた―――音に。

 騒音が耳について集中できない。とりわけ、アパートの上下左右から聞こえてくる音が酷い。時には眠れないほどの音がする。

 管理会社に通報しても、形式的な「騒音にご注意ください」の紙がポストに入れられるばかりで、根本的な解決には至らなかった。

 友人に訴えたら、神経質だと言われたことがある。

 そうかもしれない。けれど、うるさくて仕方が無いのだ。

 彼は仕方なく引っ越すことにした。被害者である自分が動かねばならないのは業腹だが、平穏な生活には代えられない。

 今度こそ、静かな場所を選んだつもりだった。

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