第22話 妹、友人のために動き出す

「あ、お姉セルジオから連絡――」

「ちょっと待ってイケメン見つけた。あとは頼む」

「え? それ犯罪……って行っちゃったし。美形が好きなら鏡でも見とけばいいのにー。ねぇトントン」

「プ、プギィ……」


 自らの欲望に忠実な湊は、片手をあげると軽やかな足取りで去っていった。

 地球であれば逮捕案件ではあるが、今は別世界。そして湊は遠くから眺めて男女問わず顔や体の造形美を補給したいだけなので、追跡が知られなければ怪しまれることはない。

 現在は転生のおかげで隠れる技術力がつき、さらにこの世界ではあとをつけていても危害を加えなければ犯罪に問われる可能性は低い。湊にとても有利な条件なのである。だからこそタカが外れているのだろう。


「あ、もしもしお待たせセルっちー」

『っセル?! お前……いや、今は言ってる場合ではないか』

「やっぱなんかあった?」

『なぜ真琴がそれを知っているかは知らんが、そうだな』

「あんま難しいことわからんから簡潔に説明求む」

『お前に説明する義理はないと思うんだが』


 ひとまず姉の背を見送りセルジオからの着信を取った真琴は、ギルドカードを片手に持った状態で口を開いた。魔力伝達を使って話しているので、他人に内容を聞かれることはない。


「でも電話……あーっとトーク? してきたってことはそう言うことっしょ?」

『……馬鹿なのか切れ者なのか。お前はどっちなんだろうな』

「言い方」


 真琴の軽さに向こう側で眉間に皺を寄せていたセルジオは、首を振って深いため息を吐き出す。だが、最終的には諦めたようで何があったかを口にした。


『ルイスハルト様が倒れられた』

「…………」

『時期はお前が城を出て一週間程度経った頃。おそらく、宰相の一派に毒を盛られたのだろうが証拠がない』

「容体は?」

『芳しくない』

「ん?」

『すまん、お前は馬鹿だったな。良くないということだ』

「だから言い方ー」


 状況を聞いた真琴は今自分がターレスにいることを話し、そこのギルドマスターが帰ってきていないこと、物流が滞っていると聞いたことを簡単に説明する。セルジオもなぜ連絡してきたか理解したようで、小さく頷いた。


『カサグランド辺境伯のところか……。ルイスハルト様は戦争反対派で辺境伯と同じ考えだから隠れて支援していたんだ。殿下が倒れられた今、宰相が自分の都合のいいように動かしているんだろう』

「あ、そうそうなんちゃらかんちゃら伯」

『覚える気が皆無だな』


 簡単な情報交換が終わり、最後にセルジオはため息にも似た笑い声を零した。話せたことで多少肩の荷が降りたのか、それとも諦めに似たものなのかは真琴にはわからなかったが、彼女はルイスハルトを救える人を知っている。

 諦める必要はないと、知っているのだ。だからこそ、芯のある声音でただ一言発した。


「お姉が来たよ、セルジオ」

『は? 姉君が? いや、それは良かったと言うべきなんだろうが……なぜ、今その話を』

「詳しいことはお姉の許可がないと言えないけど、毒なら多分お姉が治せる。だから、安心していいよ」

『っ、なんの根拠があってそんな――』


 不信感と同じくらい見え隠れする強い期待。二つの感情が合わさった情けない声を出したセルジオに、真琴は見えていないと理解しつつ歯を見せて笑った。


「とりあえず明日オーク倒さなきゃだから、それ終わったらすぐ王都に向かうよ。お姉もそれでいいって言ってくれると思うから」

『オーク? いやだが、しかし』

「他に方法もないから連絡してきたんでしょ? なら、とりあえず縋っときなよ。楽になるぞー?」

『……わかった。お前だけを頼りにするわけにはいかないが、待っている』

「素直でよろしい! じゃ、日程とか決まり次第連絡する。大変だろうし返事は無理にしなくていいからねー」

『ああ。その……ありがとう、な』


 照れ臭そうに頬を掻くセルジオの姿は見えなかったが、さっきよりも柔らかい声音に真琴も知らず知らず安堵の息を吐く。彼女なりに、心配していたようだ。


『あと、姉君にはくれぐれも無理をさせないように』

「ちょい、あたしの心配は?」

『お前はきっと殺しても死なないだろうからな』

「ねえ酷くない?」

『はは、冗談だ。お前も気をつけろよ』

「うむ」


 元気になったみたいで良かった。その一言は飲み込んで、へらりと笑って返す。そして、トークが終わり通常の表示に戻ったギルドカードをポケットへと突っ込んだ。


「お世話になった人が危ないみたいなんだ、トントンも協力してくれる?」

「プギッ!!」


 もちろんだ。と力強く鳴いたトントンの頭を撫でて、いつもより真剣な顔をしている真琴は顔を挙げた。


「そんじゃ、まずはお姉を探すとしますか」

「プギプギ」

「お? 任せた!」


 当然だが、イケメンを見つけたと言って消えた姉の姿はどこにも見えない。アザの力でも追えるが、胸を張ったトントンが匂いで追えると言ったのがなんとなくわかったので彼に任せるる。そしてトントンの背に乗った真琴は、逸る気持ちを抑えながら姉を探すのだった。

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