第20話 パーティー・アメ

 トントンに乗って移動したおかげで無事一日で街に到着し、魔物が一緒ということで手続きに多少時間はかかったが問題なく中にも入れた。


「さて、行きますか」

「んー……ねえお姉。なんか、やっぱこの街活気ないよね?」


 到着のタイミングが夜だったので先に宿を取って泊まった二人は今、登録と報告のために狩人ハンターギルドに前にきていた。

 聳え立つ石造の建物。遠目からでもギルドがあるとわかるよう、間取りや外観の作りは多少違うもののギルドは全て石造だ。だからこそ真琴も湊も遠くから見つけて歩いてこられたのだが、辿り着いたそこは静まりかえっている。というか、受付以外に人がいないのだ。


「そこはおいおい情報収集する予定だから、任せなさい」

「さっすがお姉! じゃあうちらは外で――」

「待てい。トントンの従魔登録するって言ったでしょうが」

「プギ」

「あ、ごめんガチで忘れてた」


 首根っこを掴まれた真琴は、しっかり覚えていたトントンに謝りつつくるりと向きを変えてギルドの中へ。トントンがすぐ後ろに続き、ため気を吐きつつ湊もあとを追った。


「すみません、ハンター登録と従魔登録をお願いします。それが終わったら、パーティー登録もお願いできますか?」

「かしこまりました。それでは、ハンター登録希望の方はこちらに必要事項の記入をお願いします。従魔登録は……」

「あ、従魔はうちです」

「ハンター登録はされているようですので、カードの提示をお願いできますか?」

「了解でっす」


 湊が用紙を記入している間に真琴はチャチャっと従魔登録を完了させ、カードの従魔蘭に表示されたトントンの名前にトントンと二人で喜び合っている。


「このカードの機能に上書きでお願いします」

「はい。え? ゴールド、ですか?」

「成り行きで」

「おお金ピカ」

「真琴はちょっと黙る」

「はーい」

「では、色に関してはゴールドで――」

「ブロンズで」

「えっと、上のランクですしその方が」

「ブロンズでお願いします」

「か、かしこまりました」


 金ピカの方がかっこいいじゃんとぶつぶつ言っている真琴と担当者の言葉を遮り、いい笑顔を貼り付けた湊は自分の意見を押し通した。そして、縁がブロンズに変わったカードに二度頷き、鞄の中へとしまう。


「パーティーのリーダーはシルバーランクの真琴様で」

「あ、うち無理なんでお姉でお願いします」

「えっと」

「私が姉なので、可能ならそれでお願いできますか?」


 受付を困惑させ続けていることに心の中で謝罪しつつ、湊が姉妹であると言う納得しやすい理由を告げればすんなりと頷きが返ってくる。


「あ、はい。名義上なので大丈夫です。パーティー名はお決まりですか?」

「〝アメ〟でお願いします」

「かしこまりました」


 パーティー名が必要ならば名字の「雨宮あめみや」から取ろうとあらかじめ話していたので、迷いなく「アメ」と告げる。文字が違うので本来の印象とは異なるが、読み方が同じであれば問題はない。呼ばれる名が、地球の名字の一部なだけで嬉しいのだから。


「では、登録は以上となりますがよろしいでしょうか?」

「ありがとうございます。一つ報告があるんですが、ここで話しても?」

「先に概要をお願いできますか?」

「オークが出ました。頭部を証拠として持ち帰ってきています」

「っ! かしこまりました。場所などの確認をしたいので、別室にお願いできますか?」

「はい」


 無事に登録が終わったので、もう一つの目的であるオークに関しての報告を行う。目を見開いた担当者が慌てて奥に引っ込んでいくのを見送った姉妹は、姉が面倒なことになりそうだと言う意味をこめて、妹はまだ時間かかるのかというニュアンスで。一度目を合わせてから、それぞれ大小のため息を吐き出した。


   ***


 二人は今、ギルドの会議室に通されていた。そこにいるのは、副ギルドマスターと姉妹の三人だけだ。

 どこか疲れた顔をしている副ギルドマスターサミュエルは、白髪の目立つ髪と整えられた口髭がある四十代ほどの小綺麗な人族の男性だ。


「おいちゃん、なんか疲れてる?」

「はは」

「真琴、お口チャック。もしくはトントンと遊んでな」

「あいあいさ。トントンちょっと遊ぼー」

「プギィ」


 真琴が持っていたオークの頭を違う机に出してもらったあと、苦笑したサミュエルを見た湊は席を外してもいいと告げた。会議室は広いので、後ろの方で戯れる分には問題ないと判断したのだ。もちろん、サミュエルの許可は取得済みである。


「それでは早速、オークの群れが出た位置をお伺いしたいのですが」

「人の足だと街から約四日ほど。地図だとこの辺りだと思います。周辺に他の魔物やオークの気配はありませんでした」

「遭遇したのは四日前ということでしょうか」

「いえ、トントンに乗ってきたので遭遇してから一日ほどで街には到着しています。なんだか違和感もあったので」

「違和感、ですか?」


 広げられた地図を見て確認しておいた場所を湊が指し示せば、サミュエルがそこに印をつける。武装していたことやどのような戦い方だったかも全て伝えたあと、湊は一度口を閉じた。

 オークを鑑定したときに出てきた一言の内の一つ「一味徒党」は、同じ目的を持って結ばれた仲間を意味する。と言うことは、群れに所属しているのではないかと湊は予想した。

 だが、鑑定については説明することができないので悩んでいるのだ。


「群れを作るオークが一頭でいた場合、追い出されている場合が多いと思います。けれど、あのオークの体に傷はなく綺麗な状態のままでした。武器も取り上げられておらずきちんと手入れされていたので、現在もまだ群れに所属している可能性が高いように感じられたんです」


 仕方ないので、適当にそんな感じの話を作り上げる。武器に関しては売るために持ってきているので見せられるし、本当に研がれていたので嘘ではない。

 見せて欲しいと言うサミュエルに頷き鞄から出せば、彼も不思議に思ったのか小さく一つ頷いた。


「……本当に、最近は問題ばかりだ」

「どうかしました?」

「あ、いえ。大丈夫です。今回は丁寧に報告を上げていただき、ありがとうございました」

「いえいえ」


 帰れる気配を察知して近づいてきた真琴にも律儀に礼をしたサミュエルは、顔をあげると二人に今後を問う。


「お二人はしばらくここで活動を?」

「はい。依頼をしながら少し見て回る予定です」

「そうですか。何か進展があればお伝え致しますね。有事の際は、ご協力いただけたら助かります」

「できる限りのことはするよ!」

「私達でできることなら」

「ありがとうございます」

「プギィ」


 非常に嬉しそうに目尻を下げたサミュエルに真琴は手を振り、湊は頭を下げる。トントンの一声を最後に、パーティーアメは会議室を出たのだった。

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