第18話 目指すはターレス

 二人で話をしてわかったことだが、真琴がこの世界に召喚されたのがおおよそ二ヶ月前。対して、湊が来たのが三週間ほど前。地球とこの世界、そして管理者のいる空間は時間の流れが違うようだ。


「じゃ、こっからどうするかだけど希望ある?」

「好きに生きていいんだし好きなところに行けばいいんじゃないの? トントンは希望ある?」

「プギィ?」


 英雄召喚でこの世界にきた真琴は、修行の旅という名の自由を得ており他に目的はない。トントンも真琴に着いていくだけで満足なのでしたいことは他にない、強いて言うなら家族と言ってくれたこの姉妹といろんな場所に行ってみたいという夢はあるものの、何も言わずとも叶えてもらえるので言う必要がない。


「それなら人族の王様はちょっと微妙だったみたいだし、エルフもエルフ至上主義って感じだったはずだから別の国見てみようか」

「さんせーい」「プーギー」

「美形巡りをしよう」

「はんたーい」「プーギー?」

「冗談は置いておいて」

「……本気だったくせに」


 薬師登録をしたリエスルボアの街にはまた顔を出す予定だが、家を建てるとなるとエルフの国は都合が良くない。管理者からある程度の種族的特徴を聞いていた湊は、立ち寄った街で購入していた世界地図を広げた。

 索敵系の魔法やスキルもあるので、通常の地図であれば多少値は張るが入手は難しくない。湊が買ったのは世界地図と、それぞれの国の街などが書かれた詳しい地図だ。


「さっき越えたヴェルデールエルフの国グリティア人族の国の国境番号を確認したところこの位置で間違いないんだけど」


 道沿いに作られた国境には全て大きな門が建てられていて、場所が確認しやすいように番号が振られている。照らし合わせて位置を特定し指差した湊に、真琴とトントンは「そうなんだ」と思いながら小さく頷く。


「今の位置からだとジャボルス魔人族の国の国境も結構近いんだよね」

「あ、ほんとだ」


 グリティアの国土が細長く伸びている関係で、ヴェルデールとジャボルスの国境は向かい合う位置、非常に近い場所にある。

 日数で言えば、徒歩で一週間程度だろう。


「じい様の情報だと魔人族はおおらかでのんびりやさんが多いみたいで、どの種族でも関係なく受け入れてくれるみたいだし条件としてはいいと思うんだけど、どう?」

「いい感じ!」

「プギィ」


 この世界に現存する種族は、人間と魔人、獣人とエルフ、そしてドワーフに人魚だ。管理者情報では、人魚に関しては知能はあるが魔物寄りで今のところ他の種族と交流はないとのこと。

 この中でオープンなのは魔人族とドワーフ族だけだ。

 シンプルに説明すれば、人族は人間至上主義。エルフ族はエルフ至上主義。そして獣人族は種族に括りはないが、戦闘力至上主義。

 それぞれの国で育つ植物や作られるものは違うため交易はされているのだが、魔人族とドワーフ族、獣人族以外の国の上層部は他種族への認識が最悪と言っても過言ではない。


「んじゃ、とりあえずはジャボルスを目指して家探し。それが終わったら、真琴がお世話になったお城に挨拶にでも行こうか」

「さんせーい!」「プギィ!」


 方針が決まったので、ジャボルスへと足を進める。現在姉妹がいるのはカサグランド辺境伯領。まだ街は見えないが、収めている人族は存在している。

 一応魔人族側の国境付近にはターレスという街があり、そこが最大にして唯一の街。収めている辺境伯が住む街だ。


「ターレスまでは野宿だね。で、街でちょっと小銭稼いでからジャボルスに入ろう」

「野宿は全然オッケー」

「プギプギ」


 トントンからの了承も出たので目的地は決定。あとは、この広大な野原を進んでいくだけだ。


「それにしてもさ、なんでこの辺って開拓しないんだろ?」

「魔物がいるし、大き過ぎると土地を守るのが大変なんだと思うよ。トントンみたいに動物だった生き物はみんな魔物になってるから、特殊な状況を除けば飼うことは難しいしね」

「あーね」

「それに魔物は食材にも素材にもなるから、無闇矢鱈に開拓しちゃって数減らしちゃうより自分達に必要な広さだけ確保してのびのびくらさせた方がハンター的にもいいんじゃないの?」

「あーうん。なんとなく理解したから難しい話は終わりにしよ」

「あんたから振ったんでしょうが」

「ごめんなソーリーあだっ!」

「天誅」


 くだらないことを言って速攻で拳を振り下ろされた真琴に、トントンが寄りそう。だがしかし、真琴が原因であることは理解はしていのでトントンが湊を責めることはない。ただただ真琴の心配をする可愛い黒猪である。


「真琴はハンターギルドに登録してるんだし、多少は勉強しといたら?」

「お姉、いいこと思いついた」

「ん?」

「お姉もハンターになってパーティー組んだら全部解決じゃない?」

「……まあ、真琴にしてはいいアイデアでしょう」


 一緒に動く上で、見くびられないように実力を上げていく行為自体は悪くない。そこまで考えていないとしても、パーティーを組むのは賛成だと湊は素直に頷く。


「トントンも登録しなきゃだし、街に着いたらまずギルドに挨拶だね」

「登録?」

「街に入るなら魔物は従魔登録必要だから。というか今更だけど、よく国境越えられたよね」

「すぐ戻ってくるからってゴリ押した」

「ああ、だからお礼言ってたのか」


 検問をしていた兵士ににこやかにお礼を伝えていた真琴の姿を思い出した湊は一つ頷き、改めて、と口を開く。


「ちゃんと言い忘れてたけど、ありがとね。助けに来てくれて」

「お姉なら一人でも勝てたっしょ?」

「それでも、トントンと真琴が来てくれて心強かったよ」

「えへへ」「プギプギィ」


 真剣にお礼を言う湊に真琴は照れ臭そうに頬を掻き、トントンは恥ずかしげに身をよじる。

 可愛らしい妹と弟分に笑みを浮かべた湊は地図を持ち、簡単な旅計画を立てるのだった。

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