第16話 自己紹介
人攫い達に話が聞こえないよう耳と目を覆う布を巻き、さらに念には念を入れ少し離れた場所に転がす。真琴とトントンがかなり暴れたので、彼らの意識はまだしばらく戻らないだろう。
「お姉ー!」
「はいストップ。抱擁はいらん」
「ノリ悪い」
「いつものことでしょ。その子の紹介とか現状確認とかが先」
駆け寄ってきた真琴を手を前に出すことで制し、トントンに視線を送る。トントンは胸を張りつつ、どこかソワソワとした様子で真琴を見上げた。
「あ、それもそだね。じゃあまず、トントンを紹介します」
「プギ!」
「黒猪の魔物、だよね? でも少し小さい?」
真琴がつけた名前は比較的いつもこんな感じなのでスルーしつつ、黒猪の魔物であるトントンを観察する。
「あ、その辺はうちよくわからんから聞かないで。トントンとは、背中合わせで戦って友情が芽生えたんだよ」
「わかるように説明せよ」
「なんか同じ黒猪にいじめられてたとこ見つけて、一対多数は卑怯だって思って参戦したん。そのあと無事に全員倒して仲間になりました」
「……なるほど」
適当に、しかしかっこよく〝漫画みたいな感じで友情が芽生えた〟と説明する真琴は、湊に睨まれてすぐに内容を改める。顎に手をあて目を閉じた湊は、数秒後目を開きトントンと向き合った。
「初めましてトントン。私は真琴の姉の湊。よろしくね」
「プギプギィ!」
真琴姉さんの姉御ならば喜んで!
そんな感じで鳴いたトントンは、仲間ができたのが嬉しいのか非常に楽しそうだ。ときおりふんふんと鼻を鳴らし、ご機嫌なのが傍目でもよくわかる。
「トントンは先祖返りかもしれないね」
「先祖返り?」「プギ?」
飼い主とペットは似るとはよく言ったものだが、まだ短い付き合いにも関わらず真琴とトントンはそっくりだ。同時に首を傾げる一人と一頭に苦笑して、湊は頷いた。
「そ。魔力の元、魔素ってやつがこの星に生まれたのはこの星が誕生してからしばらくあとだったみたいで、それまでは魔物じゃなくて地球と似た普通の動物が暮らしてたの。魔素が生まれてからは人と同じく動物も変異して、魔法が使えたりとか姿形が変わったりとかそれぞれ適応して行ったんだけど、ときどき元の動物に近い個体が生まれるみたいだね」
「……理解不能」
「……プギィ」
意味がわからないとうなだれた一人と一頭を見た湊は簡潔に、「過去にいた動物に近しい個体なんじゃないか」と伝えた。
「詳しくは鑑定しないとわかんないけど、どうする? トントンがいいなら確認するけど」
「トントンに任せるよ。どうしたい?」
「プギ……プギィ!」
悩んだ末、見て欲しいとトントンは鳴いた。真琴にも湊にもその意味はしっかりと伝わって、二人は同時にうなずく。
「お願いお姉」
「おっけ」
名前:トントン(成獣)
性別:オス
称号:先祖返り
一言:質実剛健
<スキル>
言語理解
先祖返りという予想は当たったようだ。
ちょっとおかしい項目があったが、湊は一旦無視することにした。気になるスキルもあるため、続けてスキルと先祖返りという文字だけに意識を集中してそれぞれの内容を調べていく。すると、詳しい解説が鑑定によって表示された。
「うん。先祖返りだね」
「他に何かわかったん?」
「先祖返りは魔素に適応しつつ動物としての形態を維持してる個体のことみたい。その影響か、総じて知能が高くて成長速度も速いって。ただ、魔物特有の進化だけはできないみたい。あと、トントン言語理解ってスキル持ってるよ」
「だからか! 言葉がわかってるような気がしてたんだよね。ん? 進化はできないけど強くはなれるってこと?」
「うん。かなり強くなれるんじゃないかな」
「やったねトントン!」
「プギィ!」
自分が虐げられていた理由がわかりスッキリとしたトントンは、さらに真琴達の力になれるとわかって喜びの声を上げた。強くなれるなら、一緒に旅もできる。
彼に初めて「仲間のために頑張りたい」という気持ちが芽生えた瞬間だった。
「さて、妹よ」
「うん? なんだいお姉様」
「自分のステータスって、見た?」
「見た。クソバカ王が見ろって言ったから見た。あ、お姉は?」
「忘れてたから見る。鑑定との違いも知りたいから真琴のも教えてくれる? あ、見ても平気?」
「おけおけよろー」
名前:湊
性別:女
称号:聖女
一言:思慮分別
<スキル>
弓術/調薬/光属性魔法/鑑定
名前:真琴
性別:女
称号:勇者
一言:
<スキル>
槍術/体術/闇属性魔法/
許可をとって確認し、お互い見えたことを報告し合う。トントンの情報は鑑定で全て見えたが、人を鑑定するとスキルは見えなくなっていた。おそらく、一番の情報がそこだからだろう。
とりあえず、各々言いたいことは多分にあった。だが、まずはこれを言わねばなるまいと真琴は口を開く。
「っぷ! 聖女?! お姉が聖女!!」
「いやいやいや。真琴の勇者もよっぽどだから」
世界を跨いだものには何かしらの称号がつくことがとりあえずわかった。そして同時に、この世界の住人に対して称号は必ずつくものではなさそうだということも。称号はない人もある人もいるのだろう。
「聖女さ――あいたっ」
「うっさい。次行くよ次」
「……あいあいさー」
殴られてしょんぼりとした真琴と話すのは、「一言」と書かれた部分についてだ。これはトントンにもあったが、真琴と湊がそれぞれ出したステータス画面には表示がなく、湊の鑑定でのみ表示された。
「四字熟語って……性格というか、タイプか何かを表してるんだろうけど」
「トントンのやつの意味は?」
「真面目で強くて逞しい感じ」
「お姉は?」
「状況を考慮して判断ができること」
「うちは?」
「目標に対して突進する」
「ねえ、うちだけ酷くない?」
項垂れた真琴とそれを慰めるトントンは放置して、一言の意味について考える。真琴の一言の一部にはカッコが付いているし、必ずしもこの一言は一人に一つ、ずっと同じものが表示されるわけではなさそうだ。そう予想した湊は、確かに使い方によっては頼りになると頷く。
「一言が性格とか生き方とかそういうのを表してるんだとしたら、称号と合わせるといざという時かなり役に立ちそうだね」
「名前は役に立たんの?」
「名前なんて信用されてなかったら嘘言われることもあるだろうし、気にしてもしょうがないでしょ」
「そう言われれば確かに」
ひとまず各々のステータスの確認と鑑定についての理解も深めたところで、最後にこれまで起こったことを報告しあって終了だ。そろそろ動き出さないと夜になってしまう。
「じゃ、最後に。簡潔にこれまでのことの報告よろしく」
「くっそな人間の王様と宰相に召喚されて、優しいイケメン王子様とツンデレな護衛とお母さんな侍女長に助けてもらった」
「王子様のところは奴らを開放したあとにより詳しく。イケメン詳しく」
「りょ。お姉は?」
「変態バカに殺されてじい様に助けてもらった。そのあとこの世界に来て薬師登録して今」
「……は?」
美形が大好きな湊が〝イケメン王子〟に食らいつくとわかっていたのか、真琴はあっさりと頷き姉のこれまでを問う。そしていきなりの爆弾発言に、思わず立ち上がった真琴からこれまでの楽しそうな表情がすんっと全て抜け落ちた。
「……お姉?」
「ま、詳しいことはあとでね」
「……お姉?」
「しつこい」
「…………お姉?」
「こいつら連れてったら話すから。それとも、こいつらと一緒に朝迎えたいの?」
「……わかった、待つ」
「いい子」
心配そうにトントンが真琴の背を鼻で押し、湊も困ったように笑いながら頭を撫でる。
目を覚ました人攫い達は早く話を聞きたい真琴に急かされ、ほぼ駆け足で国境に連れて行かれることになったのだった。
なお、湊と真琴はトントンの上である。
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