第11話 妹、黒猪と戯れる
無事にギルド登録を終え、セルジオと別れた真琴は依頼をこなしつつ比較的のんびりと日々を過ごしていた。
のんびりとは言っても、
「お? おおおおおおお?」
最初こそ、真琴も湊と同じく魔物を倒すことに抵抗があったが、慣れとは怖いもので今では難なく屠っている。素材や肉がしっかり売れるので、無駄に殺している感じがしないのも彼女的によかったようだ。
「お姉がきたぁぁぁぁ!」
ルイスハルトにもらった金にはほとんど手をつけることなく暮らし始めてはや数週間。今日の依頼も無事に終え、宿屋でくつろいでいた真琴の腹が激しく光り輝いた。
眩しくて目が眩んで、けれど光が収まるほどに頭のてっぺんから足先まで全部に感じられる姉の気配。なんでわかるかなど、真琴は考えない。ただ、姉がこの世界にきてくれたという事実だけが彼女には大事なのだ。
「へそ横に赤い花? おそろとかかな?」
ベッドに寝そべってゴロゴロしていた真琴の腹に突然浮かび上がった、緋色の蓮。戦闘中も激しく動いたら見えるくらいの位置に浮かび上がったそれに、真琴はなかなかに近い回答を導き出した。
そして、蓮が浮かび上がったと同時に感じ取れるようになったのは姉のいる気配だけではない。姉がいる方角もわかるようになったのだ。
「よし、明日から大移動だ!」
離れている距離に関しては真琴にはわからないので大移動かどうかは不明なのだが、彼女にとっては大移動らしい。ベッドから立ち上がり、シュビッと窓の外、姉がいると思われる方向を指さす。
「待っててお姉!」
このあと、宿の女将に怒られたのは言うまでもない。
***
朝起きて、女将に夜うるさくしたことを再び謝った真琴はチェックアウトを済ませ街の外に出てきていた。
携帯食を買って、
魔法鞄が普通に使われていることは、依頼報告時にいろんなパーティーが持っているのを見ていた真琴でもなんとなく把握できていた。なので、ありがたく活用している。
「よし、それじゃあしゅっぱーつ」
いつもより少し大きめの声で気合を込めて、姉を感じられる方向へと向かう。一人はやはり寂しかったのか、若干駆け足気味だ。
地図を購入した時に聞いたところ、真琴が目指す方角はグリティアと
大体どっちの方向を示しているのかがわかれば、地図も見やすい。真琴にしては珍しく頭を使った結果である。
「方向は分かったけど、現在地がわからん」
街から真っ直ぐに、なんの目標物もない道なき道を進んで行く。湊の予想通り、真琴は道に沿って向かうのではなく直進していた。
すでに街道ははるか彼方、たくさんの木々が生えて視界も悪いそんな場所に入ってしまった真琴は、流石に少しまずいかもしれないと腕を組んだ。しかし、悩んだところで正確な場所も、道までの戻り方もわからない。
それならば、このまま突き進んだ方がいい。彼女はそう結論づけて、再び歩き出す。
「プギー!!!」
「豚?」
常に感じることができる姉の場所を目指し再び歩き出した真琴は、叫び声にも聞こえる鳴き声を耳にして足を止めた。ちょうど目指す方向と同じだったので息を顰め、なるたけ音を立てぬように距離を縮める。
しばらく歩くと鬱蒼とした木々が開け、太陽の光が差し込む広場のような場所に出た。そこにいるのは、黒い毛を持つ複数の猪だ。
巨大な黒猪達は、一回り小さな黒猪を囲んでいるように見える。小さなと言っても大型犬より遥かに大きく、人が二人ほど乗っても問題ないくらいには巨大なのだが。
「いじめか?」
聞こえた叫び声は、小さな黒猪のものだったようだ。
小さな黒猪の体には無数の傷跡があり、今できたばかりで血が流れているところもあれば、過去の傷なのか抉れて剥げてしまっている場所もある。
俺が何をした。とばかりに叫ぶ黒猪は、迫ってくる他の黒猪の攻撃を受け止め、いなし、果敢に立ち向かう。だが、いくら他の黒猪より体の使い方がうまくとも、数の暴力には叶わない。
段々と劣勢になり、増えていく傷。
「いじめはダメだ! 加勢するぞ豚くん!」
立派な牙があるのだが、真琴には豚に見えるらしい。そもそも、家畜化した猪が豚なので間違ってはいないのだが、ひとまずそれは置いておこう。
槍を構え乱入した真琴は、小さき黒猪の隣に並んで槍を構えた。そして、向かってくる大きな黒猪達を追い払っていく。
「殺しちゃっても平気?」
「……プギィ」
困惑を全面に出した小さき黒猪は、わずかに顔を上下に動かした。構わないと取った真琴は、黒猪の隣で迷いなく槍を振るう。
セルジオとの初戦闘のときとは違い、ある程度の依頼をこなしてきた成果かその動きは目を見張るものがある。
横に薙ぎ払い、ときには鋭く突き刺し。刺した槍を抜くために容赦無く大きな黒猪を足蹴にしてまた新たな黒猪に向かっていく。
「ぬおお、多い! 豚くん無事?!」
「プギィッ!!」
能力的には圧倒的に真琴と小さき黒猪に軍配が上がっていたが、数の理は向こうにあるため傷は増えていく。しかし能力の差はだいぶん大きかったようで、黒猪の大軍は徐々にではあるが確実にその数を減らしていった。
「ブヒ!! ブッヒー!!!」
そして戦い始めて数十分。ようやく、襲いかかってきた最後の黒猪が地に体をつける。叶わないと知った残りの黒猪達は、捨て台詞のような鳴き声をあげて去っていった。
「うむ、まさしく豚だな」
「……プギ」
「無事でよかったね、黒豚くん」
傷だらけの一人と一匹。最後まで共に戦い抜いた二人には、かすかではあるが確実に、絆が生まれていた。
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