ババアのセフレをやるバイトの話

闇コロ助

第1話

金に困ったので、熟女がユーザーのセフレ募集に応募した。電柱とかに貼ってあるあれだ。危険な香りもするが仕方ない。それくらい金に困っているのだ。

「じゃあオーダーが入ったら連絡するからシクヨロ〜」

電話して面接に行ったところ、すぐに採用が決まった。世の中ちょろいな。そう思っていたら面接官の電話が鳴った。

「あ。キョーちゃん?なになに?おっけ。じゃあ一名でおっけーね?りょーかーい」

面接官は電話を切った。

「さっそく隣町からオーダーが入ったから、行ってちょうだいな。シクヨロ〜」


指定の住所に行くと、豪邸が建っていた。

絶対に金もってんじゃん。おれはとても嬉しくなった。絶対に金がほしかったので、たとえどんなババアが来てもがんばろうと思う。おれは元気よくインターホンを鳴らした。

「こんにちは。ババア向けのデリヘルに来ました、ニシカワと申します」

「あ、承知しました。迎えをよこしますね」 若い女の声だった。メイドだろうか。

まもなく到着したリムジンに乗せられ、母家へと向かった。着くと母屋の玄関にはバカでかいシャンデリアがぶら下がっていた。足で踏んでいるカーペットでさえ、高級な毛皮で出来ている。これと並べば、おれの一張羅なんて牛乳を拭いた雑巾以下でしかないことを知った。

「どうぞ、いらっしゃいました」

通された応接間にいたのは、スタジオジブリ作品『千と千尋の神隠し』に登場する湯屋の女主人に酷似した巨大なババアだった。隕石のようにでかい頭と鷹のように鋭い目玉があまりに恐ろしく、息をするのがやっとだった。

「さあ、ゆっくりと楽しみましょ」

その声は、さっきインターホンに出た若い女の声だった。おれの脳は混乱に陥った。たちまち感じたことのない恐怖がおれの全身を支配した。湯婆婆はソファに寝そべったままスカートをまくり、空いている隣のスペースを手のひらでぽんぽんと叩いていた。誘っているのだ。

怖い。帰りたい。おれのやる気はとうの昔に消え失せていた。

そのときだった。おれは綺麗な額に入った写真を発見した。写真には、若くて美しい女性がうつっていた。芸能人でいえば北川景子に似ている。

「お恥ずかしい。もう40年前の写真ですわ」と湯婆婆は言った。北川景子は40年経つと湯婆婆になるのか。あまりに残酷な事実にめまいがした。

しかし、同時に名案をひらめいた。苦しみをなくして、かつ金銭を得る方法だった。

その方法とは、まず、おれの友人にタイムマシンを発明した天才科学者がいるのだが、こいつを電話でここに呼ぶ。もちろん、タイムマシンは忘れずに持ってきてもらう。あとは簡単だ。現在の湯婆婆をタイムマシンで過去に送り、過去の美しい湯婆婆を現在に召喚するだけである。

われながら冴えている。おれは心のなかでガッツポーズをかました。

おれは湯婆婆に言った。「少し待ってもらえませんか。天才科学者を呼びます」

「わかりました」

「ありがとう」湯婆婆の了承を得たので、おれは天才科学者に電話した。報奨金を山分けすると言ったら、喜んで駆けつけるとのことだった。

屋敷に来た天才科学者は、すかさず猟銃で湯婆婆に催眠薬(通常は鯨とかに使うやつ)を撃ち込んだ。湯婆婆が眠ったので、すぐにタイムマシンに乗せ、スイッチを入れると、大いびきをかく湯婆婆とタイムマシンは次元の彼方へと消えていった。


あれから10年が経つ。湯婆はいまだに帰ってこない。

デリヘルの依頼はおしゃかになり、おれは金を得ることができず、仕方なくコンビニのバイトを始めた。しかしこれが意外とハマり、今では店長を任されているまでになっていた。

おれは湯婆を待ち続けた。最初のうちは、報奨金を得るために待っていた。そりゃそうだ。あれほどの苦痛と恐怖を味わって何も報酬がないなど、とんだマゾプレイもいいところだ。

ところがだ。毎日待ち続けるうちに、おれの感情はだんだんと姿を変えていった。それは懐かしいようでもあり、切ないようでもある。誰もが知っているのだが、同時に誰もが大人になるにつれて忘れてしまう感情だった。

いつしか、おれは湯婆に恋をしていた。

むしろ、年老いた状態で帰ってきてくれ。そう願いながら、おれは今日もコンビニでレジを打っている。

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